第13話

「シエル!」

 銀髪の少女の名を呼ぶ。

「わっ、は、初めて名前で呼ばれました……」

「あれはあと何発だ?」

 ウルフの意図をシエルは即座に読み取った。

「残り八発が限度なのです」

「……多いな」

 ストライクブレードに付随した青いボトル。あれが燃料のタンクだとシエルは言っていた。

 飲み物の容器のようなそれは、刃に送る電撃をため込む倉庫だと。

 一応燃料切れを期待したが、それは望めそうにない。

「あの青いボトルを壊したらどうなる」

「ガラスのように脆く見えて、あのボトルはとても堅いのです。とても破壊はできません。仮に破壊できても内部の雷撃エネルギーが一気に放出されるので危険なのです」

「そうか」

 そう単純にはいかないらしい。

「イロハ」

 そうとなればあの手しかないと今度は金髪の少女に。

「……何?」

「武器を寄越せ」

「……わかったよ」

 どこに仕込んでいたのかという量の武器を差し出される。

 ウルフはその中から、いくつかを手に取った。

「あとでオムライス作ってあげるから、生きて帰りなさいよ」

 それが彼女なりにどう持て成すか考えた結果らしい。

「それは楽しみだ」

 ウルフは遠方のカムイに向かい合う。

「決着をつけようブラックオーク。バナナと、君にやられた警備隊員の痛みを知るといい」

「お前の都合などどうでもいい。オレはセントラルに行く。そこにソラの手がかりがあるなら」

 ウルフが駆け出す。カムイの持つ雷撃を纏う剣を恐れることなく。

 最中、ウルフはクナイを投擲した。

 カムイがバカ正直に剣ではじけば、エネルギーの消耗に繋がるが……カムイは軽快なステップで回避した。

 剣だけでなく本体のスペックも相当なもの。持ち手がカムイでなければ、初撃でウルフは勝てていたであろう。 クナイを五本投げきり、ついにストライクブレードの射程内へ。

 三度目の衝突、この攻防で勝敗が決まると両者ともに直観していた。

 ウルフは隠し持っていたイロハの武器、万力鎖を握りしめた。

「終わりだよ」

 と、カムイが剣を振り下ろす前に、ウルフは万力鎖の片側を投擲。

 カムイは手を止める。

 そして、考える。鎖が絡まった状態でこの剣を振り下ろしたらどうなるかと。

(なるほど、僕も道連れに吹き飛ばそうという訳か)

 これでカムイはストライクブレードを封じられた。

 このチャンスに、ウルフは渾身の一撃を入れるつもりだ。

 だが、

「残念だけど、僕はとまらないよ」

 カムイはストライクブレードを振り下ろす。ウルフが投げつけた万力鎖を巻き込んで、鎖ごとウルフを破壊する。

 ――そのつもりだった。

「なッ――!」

 カムイの想定よりもずっとウルフの姿が遠い。カムイが思考している合間にウルフは万力鎖を手放し、数歩後退していた。

 そう、カムイは鎖を巻き込むことに気を取られていたことと、手前に鎖が迫っていたことから遠近感を見誤った。

 カムイはウルフが離れた地面を雷撃エネルギーで破壊。爆風が広がるが、ウルフはそれを耐える。

 その隙に、ウルフが再接近する。

 カムイは即座に剣を振り上げ、ウルフを迎撃するが――。

「くッ……」

 その刃は雷撃エネルギーを纏っていない。

 ウルフは見ていた。バールと衝突した直後、ストライクブレードが白銀に戻る瞬間を。

 思えば、壁の砲撃もそうだ。あれも一射ごとに充電するクールタイムがあった。

 だから、ウルフは読めていた、雷撃エネルギーの放出直後、ほんの数秒だけでもクールタイムがあるはずだと。二回目の衝突の時点で。

 ウルフは瞬間的に鉄の剣と化したストライクブレードの一閃を難なく避け、カムイの懐に。

「しまった!」

「くたばれ」

 両膝を曲げ、溜めたアッパーでカムイの腹を撃ち抜いた。

「ガッ――は……」

 人体を破壊する確かな手応え。ストライクブレードが手を離れた。

 ウルフが手を引くと、カムイはうつ伏せにケツだけを天に向けて伸ばした体勢で気を失った。とてもダサい格好で。

「締まらねぇ野郎だ」

 勝敗が決し、観客席が騒がしくなる。

「あ、あのカムイが負けるなんて!」

「まさか、あの強さだけには定評があるカムイが!」

「ブラックオーク、ヤツは何者なんだ」

「それにしてもこれで、シエルちゃんの優勝か」

 ドッと気が抜けて、積もったダメージがとうとうウルフの身体を巡りはじめる。

「くそ、これだからピカピカは嫌いだ」

 よろめくウルフを、

「ウルフくん、お疲れさまなのです」

 いつの間にかステージに上がっていたシエルが支える。

 観客は戸惑いが混じりながらも、見事にセントラル行きのただ一つの切符を手にしたシエルたちに声援を送る。 こうして、二次試験の幕が下りた。

「…………」

 その一方で、荒れ果てたステージをアヅマが睥睨する。苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

「なぜわからんのだ」


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