クビになった支援職、転職先は『建築士Lv.MAX』~俺は家を建てたいだけなのに、なぜか運命まで建築してるらしい~
@megyo9
プロローグ:理不尽なクビ宣告
▼ プロローグ:理不尽なクビ宣告
「わりぃな、ハルト。お前、今日でクビだわ」
勇者レオン――パーティのリーダーであり、自称・次代の英雄――が、吐き捨てるように言った。場所は王都の場末の酒場。さっきまで魔王軍の尖兵どもとドンパチやった後で、みんな汗と返り血でドロドロだ。俺はいつものようにパーティの後方支援。仲間の傷を癒し、疲労回復の魔法をかけ、ドロップアイテムを整理していた。そんな俺の背中に、レオンは粘つくような声を投げかけてきた。
10年だ。このパーティのために、俺は全てを捧げてきた。スキル「不屈」。どんな攻撃を受けても、精神的な負荷がかかっても、決して折れない……いや、「折れられない」呪いみたいなスキル。そのせいで、俺は死ぬほど無茶な修行に耐えられてしまった。回復魔法を使い果たしながら魔獣の縄張りを横断したり、凍てつく吹雪の中で瞑想して魔力を限界まで高めたり。結果、気づけば俺の体力と魔力は、人間基準を遥かに逸脱していた。仲間を守る盾となり、無尽蔵の魔力で回復と支援を繰り返し、時には誰よりも冷静に戦況を読んで指示を出した。それが俺の役目だと信じて疑わなかった。
「……理由を聞いても?」俺は努めて冷静に聞き返した。
レオンはニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。「理由? 簡単だろ。お前、地味すぎんだよ。俺様が華麗に敵を薙ぎ払ってる横で、コソコソ支援魔法使ってんじゃねぇよ。目障りなんだわ」
「それだけか?」
「……あぁ? まぁ、それだけじゃねぇな」レオンは忌々しげに舌打ちする。「正直、お前……気味悪いんだよ。どんな攻撃くらっても平然としてやがるし、魔力も全然尽きねぇ。普通じゃねぇだろ、そんなの。俺様が率いる英雄譚に、お前みたいな化け物は必要ねぇんだよ」
なるほどな。俺の異常なまでのタフさや能力が、こいつのちっぽけな自尊心を傷つけ、同時に得体の知れない恐怖を与えていたわけか。くだらない。
剣士ガイルは目を伏せ、「まぁ、レオンの言う通りかもしれん。お前がいると、俺たちが際立たない、みたいな……」と歯切れが悪い。僧侶リナは「勇者様のパーティには、もっと明るい雰囲気の方が…」とレオンに擦り寄る。
魔法使いのミオだけが、「ふざけないで! ハルトがいなかったら、私たちはとっくに…!」と声を上げたが、レオンの「黙ってろ!」の一喝で押し黙ってしまった。
もう、何も言う気は失せた。嫉妬、恐怖、そして自分たちの限界を認めたくないという矮小なプライド。それが、俺を追い出す本当の理由だろう。
「分かった。出ていく」俺は短く告げた。
「共有装備は全部置いてけよ。お前みたいな奴に投資した分、きっちり回収させてもらう」
レオンが吐き捨てる。
俺は無言で、共有のポーションや素材が入った袋を足元に置いた。10年間使ってきた、自分の杖と古びたローブ。それだけが、今の俺の全財産だ。
「……せいぜい、俺がいなくても困らないようにな」
最後にそれだけ言い残し、俺は酒場を後にした。背後でレオンたちの嘲笑が聞こえたが、もうどうでもよかった。
▼ 転職:まさかのカンストジョブ
外の空気がやけに美味い。10年間の呪縛から解き放たれたような、妙な爽快感があった。「不屈」スキルのおかげか、心は驚くほど凪いでいる。
「……冒険者なんて、もうこりごりだ」
危険な戦い、くだらない人間関係。もう十分だ。これからは、もっと穏やかに生きたい。
俺は、転職を司る神殿へと足を向けた。
夜の神殿は静寂に包まれていた。受付にいた快活そうな巫女さんに、冒険者を辞めて一般職に就きたい旨を告げる。
「承知いたしました! では、こちらの『天啓の水晶』に手を触れてください」
言われるままに水晶に手をかざすと、次の瞬間、水晶が凄まじい光を放った! 神殿全体が揺れるほどの衝撃と、目も眩むような七色の光。
「ひゃあっ!? こ、こんな反応、記録にありません! まるで神話の……!」
巫女さんが悲鳴のような声を上げる。何が起こったのか分からず呆然とする俺の前で、やがて光は収束し、水晶に文字が浮かび上がった。
【ジョブ:建築士(Lv.MAX)】
【新規スキル:幸運、フラグ建築】
【補足:既存スキルは建築系補助スキルとして再構築されました】
「建築士……レベル、マックス?」
巫女さんはわなわなと震え、言葉を失っている。
「あ、ありえません……! れ、レベルMAXなんて……! 神代の時代にすら到達者がいたかどうか……。これは、単なる建築士ではありません! 伝説級のジョブです!」
「で、伝説級?」
「はい! しかも『幸運』スキルに、『フラグ建築』……? これは、物理的な建築だけでなく、運命そのものを設計し、構築する力と言われています! もはや神の御業……! ああ、ハルト様がこれまで培われた支援魔法の数々も、『構造解析』『即時修復』『構造強化』といった建築補助スキルとして、完全に最適化されています!」
巫女さんは興奮のあまり、ほとんど早口の詠唱のようになっている。どうやら俺は、とんでもないジョブを引き当ててしまったらしい。建築士だけど、ただの建築士じゃない、と。
すると、水晶に新たなメッセージが静かに表示された。
【システムメッセージ:新たな運命が設計され始めています】
【ステータス:幸運スキルにより、最初のフラグが設定されました】
「……フラグ?」
「きっと、ハルト様の輝かしい未来を示しているんですよ!」と巫女さんは目を輝かせているが、俺には嫌な予感しかしなかった。平穏なスローライフはどこへ……。
▼ 初仕事:公爵家と、最初のフラグ
伝説級(らしい)建築士となった俺への初仕事は、驚くことに公爵家からの直接依頼だった。曰く、「別邸の古い倉庫を、腕の良い職人に至急改修してほしい」とのこと。報酬は破格。これもレベルMAX効果か、「幸運」スキルのおかげか。
現場の倉庫は、予想通りのオンボロ具合だったが、今の俺には関係ない。再構築されたスキルを駆使し、驚異的なスピードで作業を進めた。
「構造解析」で老朽化した部分を瞬時に把握し、「構造強化」で基礎を固め、「即時修復」で壁や屋根を新品同様に復元していく。元々の異常な体力と魔力も相まって、10日はかかるはずの仕事が、実質1日半でほぼ終わりが見えていた。元勇者パーティー所属ということもあり俺の仕事ぶりはすぐに噂になったらしい。
3日目の昼過ぎ。仕上げの確認をしていると、公爵家のメイドさんが、バスケットを手に恐る恐る近づいてきた。
「あ、あの、ハルト様。旦那様が、ハルト様の素晴らしいお仕事ぶりに大変感銘を受けられまして、ぜひ労いの品を、と。こちら、厨房で特別にご用意したスープでございます」
公爵様直々の差し入れか。ありがたく受け取り、蓋を開けた瞬間、俺の頭の中にスキルが自動発動した。
【スキル「構造解析」発動:対象物情報をスキャン】
【解析結果:特製マッシュルームスープ】
【異常検知:微量の異物混入。成分パターン照合……猛毒『ニグレド・エキス』と酷似。意図的な混入の可能性高】
「……!」
スープから、微かだが明確な毒物の反応。誰かが、公爵が用意した差し入れに毒を仕込んだ? 一体、誰が、何のために?
俺が険しい顔でスープを凝視していると、メイドさんが「ど、どうかされましたか?」と不安げに尋ねてきた。
「いや……このスープ、少し問題があるかもしれない」
そう言いかけた、まさにその時。
「まぁ、ハルト様。父がお世話になっております」
凛とした声と共に、金髪の美しい令嬢が姿を現した。公爵令嬢のエミリア様だ。彼女は、父である公爵に用事があって、ちょうど別邸を訪れていたらしい。そして、俺の異常な仕事ぶりの噂を聞き、興味を持って様子を見に来たのだという。なんというタイミング……これが「幸運」スキルによるフラグ設定の結果なのか?
「何かお困りごとでしょうか?」
エミリア様の問いに、俺は毒入り(かもしれない)スープを差し出しながら、状況を説明するしかなかった。平穏な建築ライフは、どうやら初日から望めそうにないらしい……。
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