【中編】おじさん騎士と召喚聖女の後日譚
三毛猫みゃー
プロローグ & エピローグに向けて その1
はじめましての皆様始めまして。
他作品よりお寄りになっていただいた皆様ありがとうございます。
今作見切り発車なため、途中で書き換えなどもあるかもしれませんが
とりあえず中編として始動したします。
どうぞよろしくお願いいたします。
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プロローグ
「アリサ、君はここまでだ。後は私達に任せてほしい」
「どうして! わたしも最後まで一緒に行くわ!」
この場には多くの戦いを乗り越えてきた数百人の英雄と呼ばれる者たちが集っている。そこかしこで焚き火がたかれ、酒の入ったジョッキを打ち付け合いそれをあおる。老若男女年齢も性別も様々な者たち。
元は一国の王だったものもいれば盗賊を生業としていたものもいる。他にも賢者と呼ばれた者もいれば吟遊詩人や魔女などさまざまだ。彼らは明日、最後の戦いへと赴く。向かう先は魔王の城。
苛烈な戦いになるだろう。そしてどれだけのものが生きて帰れるかもわからない。それでも誰の顔にも憂いや悲壮な表情は見られなかった。元は一万人ほどいた連合軍だが、この場にたどり着いたのはここにいる数百人だけとなっている。
そんな騒がしい場から少し離れた所に、ここにいる誰よりも幼い少女が壮年の男性と二人で向かい合っている。少女が持つジョッキにははちみつ水が、男性のジョッキにはワインが入っている。
少女の名は黒峰ありさ。年齢は十二歳になったばかりになる。この異世界に召喚されたのは二年前。ある小国が魔王軍に対抗するために禁忌とされた召喚を強行した末、誘拐同然にこの世界へとやってきた。
「そもそも幼い君を我々の都合のためここまで連れてきてしまったのは間違っていた。だがそうと分かっていても我々には君が必要だった」
「それなら最後まで必要としてよ」
「そうはいうが、流石にこれ以上は危険だ」
この異世界へ召喚されたアリサは、この世界の誰よりも魔力を持っていた。そして彼女の魔力は癒やしの力に特化していた。そうだとしても連合軍の殆どのものは、幼い少女を連れ歩くことを良しとしなかった。
途中アリサを置いていく事が出来る場所はいくらでもあった。それなのに結局はアリサが望んだことでここまで一緒にやってきた。だがこの先は本当に危険が待っている。
「ここにいる全員が君に生きていてほしいと願っている。それに負傷し戦えない彼らのことを頼めるのはもう君しかいない」
「でも……、わたしはあなたと一緒がいい」
そう言ってアリサは男性の胸元にすがりつく。アリサがすがりついている男性の名はジオケイ・ルドミ。灰色の髪に青い瞳をしていて年齢は今年で三十歳になるが、老けて見えるらしく十は年をとっているように見られがちである。
アリサを召喚した小国の騎士団長をしていたが、小国が滅びるなかアリサを連れ出し魔王軍から単身守りきった人物になる。そのような経緯もあり、そんな彼にアリサは恋慕の感情を抱いていた。
アリサとジオケイ、それこそ親と子ほどの年齢差がある。父親を知らずに育ったアリサにとって、自らの命を顧みず守ってくれる存在。吊り橋効果もあったかもしれないが、そのような年上の男性に守られて惚れるなという方が無理があるのかもしれない。
ジオケイがロリコンなら嬉々としてアリサを受け入れたであろうが、ジオケイはロリコンではなかった。それこそアリサのことは娘のように思っている。
「年の差なんて関係ないよ。わたしはジオケイさんのことが、す、す、すきなの」
そう言って頬を真っ赤に染めたアリスはジオケイを上目遣いで見つめ、ゆっくりとジオケイに顔を近づけていった。
◆
「んー、懐かしい夢をみたわ」
布団の中から抜け出すとアリサは伸びをする。あの戦いから六年経った今、アリサはもうすこしで十八歳になる。あの頃は肩の辺りで切りそろえられていた黒髪は伸び、腰の辺りまでの長さになっている。
(結局あの後はみんなに見られているのに気がついて未遂に終わったのよね。今考えても恥ずかしいわ)
魔王が倒されたことにより大陸は平穏を取り戻した。多くの国が魔王軍によって滅ぼされた結果、魔王との最後の戦いで生き残ったある小国の王子が大陸を統一する結果となった。
意外なことに反発はほとんど起こらなかった。統一王と呼ばれるようになった王子が言うには、押し付けられたと常々ぼやいている。生き残った連合軍はそのまま王を助け六年という短い期間で大陸の復興をやり遂げた。
「そっか、今日から建国祭だったわね」
朝の空気を入れ替えるために窓を開いた所、遠くのほうからぽんぽんと魔術による祝砲の音が聞こえてくる。
「よし、今日も一日がんばりましょうか」
ひらひらのついた可愛らしい服装に着替えたアリサは、鏡に向かってニコリを微笑んでみせた。
◆
第一話 エピローグに向けて
世界が黄昏色に染まる時間、薄汚いローブを羽織った少女が裏路地を走っていた。その少女の前を黒猫が走っている。
「はぁはぁはぁ、ど、どっち?」
少女の進む先はT字路になっていて道が左右に別れている。少女は自分に問いかけるというよりも、そこにいる黒猫に問いかけるように声を発した。
「にゃお」
「わかった。あっちね」
黒猫は一声鳴くと少女を先導するようにT字路を右側に曲がる。少女はそのまま黒猫の後を追っていく。
「おい、どっちだ」
「わかんねーよ」
「くそっ、オレは右に行くオマエは左へ行け」
「ちっ、わかった」
少女の後ろの方からはそのような怒鳴り声が聞こえてきた。更に走る速度を上げた少女は背後を気にしながら裏路地を走っていく。そして一本道の角を曲がった所で足を止めた。
「うそ、行き止まり。ど、どうしよう」
正面と左右は二階建ての外壁で塞がれており、どこにも隠れられそうなところは見当たらない。
「にゃぁーお」
「えっ? このまま真っすぐ? 奥にはなにもないよ」
あたかも黒猫の言葉がわかっているように答えるが、後ろの方から走る足音が聞こえてきたことで覚悟を決めて前へ走り出す。正面にあるのは家の外壁、このまま走っても余計追い詰められるだけにしか思えなかった。
「それで、どうしたら──」
その時少女の目の前に突然扉が現れた。何の変哲もない木製の扉。少女は足を緩め扉の前で止まる。
「なに、これ。ここに入ればいいの?」
「にゃお」
「わかったわ」
一瞬のためらい。だが自分を追いかけている者がすぐそこまで来ているのがわかっている。どのみち逃げ場はこの扉以外にないことをとっさに判断すると、少女は扉のドアノブを捻り扉を奥へと開いた。黒猫が開いた扉に滑り込むように入ると、少女は扉を開いた勢いのまま中へと滑り込んみ扉を閉めた。
扉が閉まる直前に路地裏の曲がり角からガラの悪そうな男の姿が一瞬だけ見えたきがした。そして少女はドアノブを掴んだまま男が扉を開けようとしてくるのを待った。
「大丈夫だから、その手を放していいわよ」
「うわっ」
突然背後からそう声をかけられて一瞬手を放しそうになった。
「だ、だけど」
「落ち着きなさい。その扉は資格の無いものには決して開かれることはないから」
少女はその声に従うように、ドアノブから手を放した。
「いいこね。さあこちらへいらっしゃい」
少女はそこで初めて室内の様子を見ることができた。お店のようにカウンター席があり、フロア部分には丸いテーブルが三つ。それぞれの席には椅子が四つ並べられている。その他にはホールの左右の棚には見たことのない魔導具らしきものが並べられている。更にカウンターの奥の棚には、魔法薬らしきものが複数並べられている。
「ここ、は?」
「まずはお座りなさい。話はそれからにしましょうか」
少女はアリサに促されるままテーブルの一つに腰掛け、改めて室内を見回すことにした。そのテーブルにはすでにティーポットとティーカップが二つ用意されていて、まるで少女がここへたどり着くことを知っていたかのように思えた。
「まずはハーブティを一杯どうぞ」
「あ、有難うございます」
アリサはティーカップにハーブティを入れて少女に前に置いた。
「やけどしないようにね」
「はい」
少女はハーブティを一口飲み込む。
「はぁ、おいしい」
なんだか先程までの疲労が嘘のように取れた気がした。ずっと走りっぱなしだったこともあり、喉が乾いていたことも相まってそう感じたのかも知れない。
「それじゃあまずは自己紹介をしましょうか」
腰までの長さの黒髪、茶色の瞳。整った顔立ち。歳は十代後半といったところだろうか。服装はなぜか喫茶店などで見かけそうな、ひらひらのついたかわいい服装を着ていて見たことのない格好をしている。
「私はアリサ。ここ喫茶店ステラの店主をしているわ」
「喫茶店ですか?」
改めて店内を見回す少女。棚に並べられている魔導具や魔法薬、他にもそこかしこに吊り下げられている乾燥した草や花などが目に入った。どうみても喫茶店というよりも魔導具屋か魔法屋と言ったほうが正確かもしれない。
「喫茶店ですか?」
「言いたいことはわかるけど、二回も言わなくていいからね」
アリサ自身も本音では喫茶店と言うのは無理があると思っている。
「ここは誰がなんと言おうと喫茶店よ。それであなたは?」
「あっ、わたしはキャットシーのミーシャといいます」
そう言うとミーシャはボロボロのローブのフードを上げて顔をあらわにした。歳はまだ少女には届かないくらいに見え、青い瞳にオレンジ色の髪はショートカット、そして頭の上にはぴょこりと二つの猫耳が乗っている。
「よろしくミーシャ」
「はい、よろしくお願いしますアリサさん。それとこの子は……、さっき会ったばかりで名前はしらないです」
「にゃーお」
「ああ、そのこはクロエよ」
「クロエですか。ここの猫なんですね」
「そうともいえるし違うとも。それにしてもキャットシーね」
「アリサさん知っているのですか?」
「知り合いに一人いたわ」
アリサはどこか懐かしそうな表情を浮かべながら、ミーシャを見つめている。
「話の続きを、とも思ったけど。もういい時間だし晩御飯の準備をするわ。ミーシャとクロエは今のうちにお風呂に入ってきなさい。着替えは用意しておくから」
「お風呂ですか?」
「知らない?」
「村にある浴場には行ったことがあるので知っています。ですけど」
ミーシャはどうして突然お風呂なのかと疑問に思った所で、自分の姿を確認してみて納得した。ローブは擦り切れてボロボロで、その下の衣服も薄汚れている。鼻を寄せてにおいを嗅いでみると汗臭い。ここは好意に甘えることにする。
「入り方を知っているなら案内するわ。まずはお風呂に入ってご飯を食べて、その後に改めて詳しい話をしましょう」
「わかりました。お願いします」
アリサは立ち上がると、ミーシャについてくるようにと言って店の奥へと歩き出した。ミーシャは慌ててその後を追っていく。その後をクロエが着いていく。
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