ブラッディ・フェアリーズ ~異世界TS転生戦記~
トンカッチ
第1話 From KIA to TS
2025年12月3日23時45分 中東某国スラム街
「こちらA1、ウェイポイント3を通過。予定時刻より2分の延着だ。現在地から目標まで残り5分。予定通り、今から10分間は作戦司令部との無線封鎖を実行」
闇夜に紛れて、いくつかの影が音を立てず揺れていた。俺もその影の一つだった。影はスラム街にまき散らされたゴミの道を颯爽と駆け抜けていく。
影の正体はヨーロッパの中でも精鋭ぞろいの特殊部隊『Fairy』だった。主に暗殺任務を請け負っており、今回はとある政府からの依頼だった。
依頼内容は、中東でテロ活動を行っている『イーグル・アイズ』と呼ばれるテログループのリーダーの暗殺だった。ここまで数々の残虐非道なテロ活動をしている相手だ。殺すことにはいつも以上にためらいはない。
そう思っていると、道端に出ていた少年と目が合った。
「ちっ、ガキを殺すのは胸糞悪くて嫌なんだが……許せよ!」
少年の口は押さえつけられ、心臓にナイフが一突きされた。悲鳴も上げることなく少年は事切れた。べっとりと俺の手に血が付く。
「大丈夫かA1?」
隣にいたA2ことヴァイパーが話しかけてくる。
「大丈夫だA2。道端にガキがいてな、悪いが排除させてもらった」
「なるほどな。ま、俺たちの目的は対象の暗殺だけだ。それ以外は何もないようにな」
いつもヴァイパーは一言余計なことを言ってくる。だが、今のは俺のミスだ。元から遅延していることもある。こう言われても文句は言えない。
とりあえず、B部隊の状況をチェックしておきたい。そう思い、無線通信機でB部隊に話しかける。だが、なぜか繋がらなかった。
「おいA2。お前の通信機貸せ」
「はぁ、わかったよバド」
「…その呼び方やめろよな。俺はバルドリックだし、今はA1だ。不用意に名前口にすんじゃねえ」
文句を言いながら、再び通信を試みる。だが、これも駄目だった。どうやらこのスラム街全体が通信妨害を受けているようだ。辛うじて同部隊間での通信は可能だった。
「A1、こちらA3。まずいぞ、連中の目が覚めちまったみたいだ!」
カバーをするために建物の屋上にスタンバイしていたA3ことブルータスが報告する。報告によれば、テクニカル(即製戦闘車両)が3両ほどこのエリアに向かっているとのことだ。
いくらこの部隊が精鋭とは言え、この戦力は少々まずい。車両の立ち回り的には哨戒活動だそうだが、仮にも接敵した場合は厄介極まりない。
「仕方ない、B部隊との合流を最優先にする。連中なら対車両用兵器持ってるだろ?」
B部隊との連絡も繋がっていなかったが、あらかじめ予定していた合流ポイントに向かう。ちょうどその地点にB部隊はいた。
「B部隊、無事なようで何よりだ」
「そっちこそな。だが、通信はほぼ無理みたいだな」
B部隊も同じ状況だった。情報を交換し、暗殺対象のいる地点を再確認した。そして、B部隊は陽動も兼ねて、車両排除に向かうことに決定した。
似たような路地を何度も駆け抜けると、目的地に着いた。
最初に建物の周囲を確認し、明かりが無いことを確認する。そして外に備え付けられていたブレーカーを落とす。反応の無い当たり、建物内には対象人物しかいないようだ。
俺は持っていたアサルトライフルのM27 IARのマガジンをチェックし、四眼式暗視装置を下ろす。どちらも完璧な状態だった。
自分の確認を終わり、全員の状況を確認した。どうやら突入準備は万全なようだ。
突入するべく、扉を静かに開けようとする。もちろんだが鍵はかかっていた。破壊しようと試みるが、扉が鋼鉄製で頑丈だった。さらに鍵は何重にも施されており、侵入は困難に見える。
それをバーナーやレーザーで鍵を焼き切ったが、少々時間はかかった。。音が小さく、気づかれることなく扉は開かれた。対象が逃げないように静かに侵入しようと、慎重に扉を開けた。
だが、その瞬間に扉が爆発四散した。無警戒だった新人のA4は、扉の前にいたために即死だった。
「畜生…!A4が、バーナードが吹き飛びやがった!」
「アイツら扉にトラップ仕掛けてやがった!くそっ、くそっ!」
目の前で仲間が早速死んだ。だが、俺が動揺していては作戦は失敗する。急いで切り替えなければならない。
「黙れお前ら!…A部隊、突入開始!」
強行突入を敢行する。建物は2階建てで、対象の寝室は2階にある。今の爆発音でバレていることは承知だ。すぐさま2階にM84スタングレネードとM26手榴弾を投げる。
「とっておきのグレネードだ。ゆっくりと味わいな!」
2階が瞬間的に光った後、大きな爆発音を立てた。手榴弾の効果は抜群だったのか、部屋からうめき声がする。
うめき声のする部屋の扉越しに、マガジンいっぱいに詰め込んだM855A1弾を大量に撃ち込む。明らかに手ごたえがある。だが、負けじと向こうも扉越しに反撃してくる。銃声から察するに、AKシリーズだろう。
攻めあぐねていると、ヴァイパーがハンドサインで扉から下がるように指示してきた。少し下がると、ヴァイパーは手に持ったM1014ショットガンで扉を破壊した。チャンスは今しかない。
「
クリアリングをしながら部屋に進入をする。すると、部屋の窓から逃げようとする人影を捉えた。
「逃がすかよ!」
逃げようとする背中に、俺は5.56mmを大量に撃ち込む。対象は窓にもたれかかる格好で死んだ。
「Room clear!」
作戦は成功だ。後はこの死体の写真でも撮って帰るだけだ。
はっきりとわかるように、死体の顔面を拝むことにした。しかし、その顔は暗殺対象の顔と全く異なっていた。よく見ると、体つきも事前資料と全く違っている。恐らくテロリストの一般戦闘員だろう。
「おいA2、こいつ普通の戦闘員だぞ?」
「何だって?情報通りなら、この建物で間違っていないはず…」
ヴァイパーが地図を開こうとすると、ヴァイパーの頭が吹き飛んだ。
「ブルータス、伏せろ!」
反射的に床に伏せる。
「A2死亡!どうなっているんだ、今回の任務は!?」
ブルータスは完全に動揺している。このままでは狙撃で全滅がオチだ。
「ビビんなA3!お前の背中のライフルは飾りか?」
「だが射撃地点が分からないままでは―――」
「俺が囮になってやる!カウンタースナイプならやれるんだろ?!」
俺はすぐさま2階の窓に姿をさらす。暗視装置のおかげで射点がはっきりとわかった。だが、すぐに狙撃される。
頭に鈍い衝撃が襲い掛かる。一気に視力と平衡感覚が失ったような感覚に陥る。
「このままでは…!」
地面に倒れこんでしまった。辛うじて見える真横では、A3がカウンタースナイプを試みているのを確認した。だが、その直後にA3の胸を敵弾が貫いた。
「う、動け。考える、より…動けっ!動くんだ、俺!」
全く働かない頭を無理やり動かし、A3のMk.11スナイパーライフルを無理やり奪い取る。
さっき一瞬だけ見えた位置に、7.62×51㎜ M80弾を乱射する。必死に乱射したうちの1発が当たったのか、狙撃は止んだ。
「何だよ、案外簡単に当たんじゃねえかよ……くそっ!」
俺は周囲を見回した。真横には冷たくなった戦友2人がいた。得られたものは、戦闘員2名撃破という対価に見合わぬものだ。
辺り一帯が静寂に包まれ始め、ようやく元の調子に戻ってきた。ふと、ヘルメットを脱いで確認する。どうやら敵弾は頭に当たっていたようだが、奇跡的に跳弾して助かっていた。
しかし、このヘルメットはもう使い物にならない。案外ボロボロになっているからだ。A3のヘルメットは無傷だったので、それを拝借することにした。そして、A2とA3のドッグタグを回収した。
外に出るべく準備を開始すると、1階から足音がした。交戦態勢をすぐ整えるが、友軍のハンドサインが見えたので戦闘態勢を解除した。まったく、心臓に悪いものだ。
「大丈夫かA1?」
来たのはB部隊だった。彼らは増援部隊を全滅させてから、こちらに来たのだ。遅ればせながらの増援だったが、安堵した。
その瞬間、腹部に強烈な痛みと衝撃を受けた。
B1の後ろに潜んでいたB2が、腰につけていたホルスターからM9A3拳銃を引き抜いていたのだ。9×19㎜パラベラム弾は、正確に腹部を貫いていた。
反射的にM27を構えようとするが、B1が蹴り飛ばしてきた。そして、B1が止めを刺そうとM9A3を構えた。
多量出血で死ぬか、味方に殺されて死ぬか。辿る道はこの二つしかないだろう。
霞む視界で見えたのは、B部隊が全員バルドリックに銃を向けていたことだった。
「なあバド、死ぬ前にいいことを教えてやる。今回の作戦目標はテロリーダーじゃあない。お前だったんだよ…」
B1が引き金を引くその瞬間、地面が揺れた。外から轟音がし始めた。そして、隣に位置していた家が土煙を上げて崩壊した。さらに、轟音は空からも聞こえてきた。
「B1まずいことになったぜ!西の方から戦車が接近してきた!かなりの数だ!」
「ちっ、依頼主の奴ら全部消し去るつもりか!?」
「B1、ここはさっさと退避するのが賢明だ!」
「仕方ねえ、総員撤収!…バド、そのわずかばかりに残された命で人生の振り返りでもしてるんだな!」
B部隊は捨て台詞を残して去っていった。確かに、腹部の傷では助かりそうにない。さらに、全てを消し去るための部隊も大量に来ているようだ。
「ピンチはチャンス…とはいかないわな」
俺は全てを諦めることにした。ふと、胸ポケットに写真を持っていたのを思い出した。戦友たちと撮った写真だ。まったく、我ながらいい笑顔をしている。
「……悪くない、人生だった、かもな」
全身の力を抜き、俺は眠ることにした。
「……なさい。目覚めなさい、迷える魂よ」
誰かが俺に対して話しかけていた。その声に応えるように、目を開けた。
目を開くと、そこは白い光に満ちた空間だった。何もなく、かといって無というわけでもない。背後から何かの気配を感じ取り、俺は振り返った。
そこには、イオニア式キトン(古代ギリシアの長衣)に身を包んだ金髪の女がいた。敵意は向けておらず、慈愛の目を向けていた。今の状況を聞くには、この女に話しかけるほかなかった。
「……アンタは何者だ?俺はどうなっている?ここはどこなんだ?」
不可思議な現象につい気になってしまい、一方的に質問を投げかけてしまった。目の前の女は、少し困った顔をしながら一つずつ丁寧に答えた。
「ここは狭間の空間と呼ばれる場所です。簡単に言えば、あの世というものですね」
さらっと女は答えた。やはり、俺は死んでいるのだと確信した。そして、ある結論も得た。それは、この女は神かそれに準ずる存在であるということだ。
というのも、この変な空間にただ一人いるあたり、ここの管理人ということになるだろう。さらに、ここはあの世だ。ここから得られる答えはそれ以外ない。そう考えていると、女が再び話しかけてきた。
「そんなに私を疑わないでください。別に意地悪したいわけじゃないんですから」
そう言うと、女は液晶画面のような何かを宙に浮かべた。その画面は二つあった。
「急で申し訳ないのですが、貴方には転生をしてもらわなければなりません。といっても、貴方の生前の行いが高評価を記録したからなんですけどね」
そして、左と右のどちらかを選択するように言った。
「左は過去に戻れるかわりに、貴方は全てを失う。右は別の世界に飛ばされるかわりに、全ての記憶を引き継ぐ。貴方のような2000年代の人間に分かりやすく説明するなら、ニューゲームかコンティニューかということでしょうか」
しかし、俺は疑問を抱いた。それは、何故この女は俺に対して選択をゆだねているかということだ。生前の行いとは言うが、やってきたことは殺しの仕事以外ない。殺しの仕事など、社会倫理的に考えればマイナス評価だ。だが、それにしてはやけに好待遇と言える。
「……お前、何か企んでいないか?」
そう言うと、辺りは一気に漆黒に包まれた。今度は無というのがふさわしい空間になった。
「さすが、元特殊部隊の一人ですね。分析力、瞬発力、さらにその対応力。全てにおいて私の欲するところですわ」
そして、女は不敵な笑みを浮かべる。
「私はですね、貴方のような完璧な人間みたいな存在が面白くないんですよね~。はっきり言えば、貴方がもがき苦しむ様を私は見たいのです。もっとひどく言えば、暇つぶしですよ」
女はニタニタと笑っている。さっきまでは、神のような存在と思っていた自分を恥じた。こいつは神でもあくまでもない。ただのクズ野郎だ。
だが、せっかくもう一度人生を歩ませてくれるのだ。最大限利用させてもらう。
「なるほど、俺が苦しむのを見たいだけか。なら右一択だな。お前のしょうもない暇つぶしに付き合ってやる。だが、こちらからも条件がある」
「なんです?」
「なるべくだが、前世とは関係の無い世界に飛ばしてくれ」
女は少し迷った結果、了承してくれた。
「仕方ありませんね、了承しましょう。ですが、そろそろ貴方にはここを出て行ってもらいます。まあ、お礼はそれなりに用意しておきますので期待しておいてくださいね?」
そして、漆黒の空間が光を取り戻す。先ほどより一層眩しく輝く。目を開けられないほどだった。徐々に意識も遠のいていく。そんな俺に、女が優しく一言語りかけてきた。
「私の名前は、クロートー。『糸を紡ぐ者』です。バルドリック・シュナイダー、貴方の活躍をここから見届けさせてもらいます……」
誰かが耳元で叫んでいる。また女性の声だった。背中の感覚は柔らかく、温かみを感じる。若干怯えつつ、目を開く。最初に目に入ったのは、見たこともない天井だった。
どうやら俺は今寝ているらしい。体を無理やり起こし、辺りを見回す。中世の建物の部屋の中で、俺はベッドに寝転がっていた。周りにはメイド服の女性が3人いた。
「お嬢様、ご無事ですか!?ほら、旦那様とお医者様を早くお呼びして!」
お嬢様?旦那様?医者?彼女たちが何を言っているのかまるで分からない。
さらに、体全体が得体のしれない嫌悪感で包まれている。額を触ると、かなり熱かった。さらに、汗も大量にかいているようだ。嫌悪感はそこからきているのだろう。
にしても、体が全くと言っていいほど自由に動かせなかった。まるで、子供の体を動かしている感覚だった。さらに、やけに肩が重く感じる。
その違和感を確かめるべく、自分の体を見た。すると、自分の胸元は大きな山が二つ存在していた。明らかに胸だ。それもかなり大きめだ。頭も触ると、かなりの長髪で金髪だということが分かった。
「……これは、どうなっているんだ!?」
どうやら異世界で俺はTS(性転換)してしまったようだ。
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