千鶴と恋バナ
「珍しいですね~! 先輩が私に相談なんて」
「少し、恋バナをしようと思ってな」
「意外と栄養あるらしいですよね」
「コイバナって生き物の鯉の話という意味の方がメジャーなの?」
千鶴だけは恋の話の意味にとらえると思っていただけに結弦は面食らった。
「特に妊婦さんにはうってつけだとか」
「その鯉の話はいいんだよ」
生物の鯉について話を膨らませる千鶴を制して結弦は事情を話した。
「ほうほう。生徒会のお悩み相談で恋愛相談を受け持ったけど、どうすればいいかわからないと。高木先輩も可愛いところありますね~」
「まあ、そんなところだ。確か蜂須賀って中学の頃から男を取っ替え引っ替えしてたんだよな?」
「考えうる限り最悪の表現をしてきましたね……。まあ、たくさんの男性とお付き合いしていたのは否定しませんが……。誰から聞いたんですか?」
割った花瓶を見つけられた子供のような顔で千鶴は結弦に問う。
「去年、そんな噂を耳にしただけだよ」
掛谷と千鶴と共に昼食を取る関係は昨年の夏から始まった。その時、クラスメイトから「蜂須賀千鶴は中学の頃、数多の男、特に歳上と付き合っては別れてを繰り返していた。気をつけろ」といった話を聞いたことがある。多くの男から交際を申し込まれるほどモテるというのも要因にはあるが、半分以上は千鶴の方から声をかけたのだという。
その噂を思い出したからこそ、結弦は今、千鶴に会いに来たのである。結弦はこれまでの経緯を千鶴に話した。
「というわけで、どうしたらそんなに多くの男を落とせるのか聞こうと思ってきた」
「……先輩はどうしてそんなことしてたのか気にならないんです?」
「興味がない」
「オウッフ……そこまでバッサリ言われるとくるものがありますね。突っ込まれても答えづらいのでいいですけど」
千鶴は胸に手を当てて苦しそうなジェスチャーをした。その後、表情をいつもの明るい顔に直ぐに切り替えた。
「ちなみにどんな作戦を考えてたんですか?」
「ボディタッチしとけば落ちる、という助言はもらった」
「愚策ですね」
円香の唯一のプランは歴戦の猛者によって一蹴された。
「ある程度良識のある方は普通に引いてしまいますし、この学校ならハニトラを疑われかねません。うちの学校は政治家や大企業の関係者ばっかですから」
円香の考える有効性の根拠まで否定されてしまった。
「もちろん、いい感じの関係性を築いて、最後の一押しとしては有効だと思いますよ? まあ、下半身で考える男性はそんな下積みしなくても簡単に落ちるかもしれませんが」
「ははは……」
掛谷には有効なのかという質問が喉元まで出かかる。しかし、それは「君の幼馴染は下半身で考える男性だろうか?」と尋ねるのと同義なので憚られた。
「じゃあ、蜂須賀はどうしてたんだ?」
「相手の好みを探りますね」
「好みって、見た目とか?」
「見た目も大事といえば大事ですが、好みに合わせようとしても変えられる範囲には限度がありますから。私が探るのは好きな本とか映画です」
「それは話題のきっかけ作りのために?」
「その狙いもありますが、単純に男性は趣味に理解を示してもらえると喜ぶ傾向にあるんですよ。」
「なるほど」
結弦は膝を打った。これといった趣味を持たないので、会話のきっかけ以外の有用性にまで考えが及ばなかった。感心しながら新品の手帳にメモを取る。
「……ところでこの方法って面識がないと成立しないよな」
「それはそうですねえ」
「面識のない人と付き合おうとするならどうする?」
「う~ん。あたしはお付き合いする前提で初対面の人と接点を作ろうとしませんからねえ……今までお付き合いしてた男性も別のきっかけで知り合った人ですし」
「そうか……まあ、そうだよな」
「あー、通りすがりに一目惚れしちゃった感じの相談ですか」
「察しがいいね」
「あたしも相談受けたことありますけど、そういう子って結局うまくいかなくて、ストーカーまがいのことしちゃうんですよね」
「はっはっは……」
ストーカーまがいというか、依頼主はまごうことなきストーカーなので作り笑いで誤魔化した。
「ちなみにさ」
「はい?」
「話は変わるけど、掛谷と蜂須賀って付き合ってるの?」
最後必ず確認しておくべきことを聞いた。色恋沙汰に疎い結弦でも男女が親しくしていれば、交際している可能性を考慮するぐらいの発想はできる。
そして、もし、二人が交際しているのであれば結弦は掛谷に浮気を促すことになる。既存の人間関係を破壊するような真似は避けなければならない。仮にアンリの願いが成就したとしても、簡単に他の異性に靡くような人間であればその幸せは長くは続かない。また新たな絶望を生み出す可能性を摘んでおく必要がある。
「正法とあたしが、ですか? ないない。ありえませんよ~」
太陽のような満面の笑顔で千鶴は否定し、結弦の心配は晴れる。
「そりゃあ、付き合いは長いですし、嫌いじゃありませんけど、異性としてはありえないですね。迷子になってあたしに迷惑をかける時点でアウトオブ眼中です」
「そっか……」
最も懸念すべき要素が消えた。喜ばしいことのはずなのだが、散々にこき下ろされた掛谷への憐憫の情の方が強く結弦の心に残った。
「どうして急に?」
「いや、なんとなく気になっただけで深い意味はないんだ。ありがとう」
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