クラスのS級ギャルに勉強を教えたら、なぜかグイグイ迫られて困っています
十文字ナナメ
プロローグ 灰色の高校生活……?
学園生活に色があるとすれば、僕にとってそれは灰色だ。
授業を受け、休み時間を適当にやり過ごし、それが終われば帰宅の途に就く――。
決まりきった通学路を行ったり来たりするだけの、メトロノームのように単調な生活だ。
こんな無気力な生活を送るようになってしまったきっかけは……まああるにはあるのだが。あまり言い訳がましいことも述べたくないので、ここでは僕の性格の問題とだけ言っておこう。
どちらかといえば内向的な方で、友達同士で街で遊ぶというタイプではない。
余暇は専ら家で過ごし、寝るまでの時間を読書や勉強で埋めるだけの量産型陰キャだ。
こんな僕だが、入学前はほんのりと青春的展開を夢見ていた時期だってある。友達と一緒に街へ繰り出したり、女の子とお喋りしたりという他愛もない空想だ。
別に刺激的な出来事でなくていいのだ。適度に忙しいハイスクールライフを夢見てしまうことというのは、きっと僕以外にも普遍的な行為ではないかと思う。
しかし、悲しいかな。実際には急に人間が変わる訳でもなく、モブ男子はモブ男子のままだった。
ドラマのような人間関係とは無縁の、ただの冴えない男子高校生が僕だった。
……そのはずだったのに。
「……どうしてこうなった?」
状況を整理しよう。
ここは放課後の空き教室。
向かい合う形でくっつけられた二つの机には、僕の他にもう一人の人物がいた。
「どうしたの急に? 何か変な夢でも見てた?」
ノートから顔を上げて尋ねるのは、まるでお人形のように整った顔立ちの女子生徒だ。
長い睫毛が印象的で、その下の瞳は16Kかと思うほど高画質な輝きを放っていた。
「いや……。ごめん、何でもない」
じっと瞳を覗き込んでいると確かに非現実の世界へ吸い込まれそうな気もしたが、ここはおとぎの国ではない。またうたた寝した覚えなどもなかった。
「ちょっと改めて考えててさ、こうなった
自分の額に手を当てて、僕は自らが正気であることを確かめる。軽く意識が飛びかかっていたようだが、もう大丈夫だ。
「なんで僕なんかがこうして、
対面に座る美少女は、僕と真反対といっていい生粋の陽キャだった。それもこの学校でトップに君臨する美貌の持ち主、カーストも当然最上位のS級ギャルなのである。
(まるで現実感がないよ……)
あまりの眩しさに直視できない。また寝ぼけてるのかと指摘されそうだったので口には出さず感想を漏らしたが、向こうは陽の気に当てられる僕のナイーブな心がわかっていないようだった。
「なんでって、今日に始まったことじゃないでしょ? いっつもこうして勉強見てもらってるじゃん」
そうなのだが。僕はそういう意味で呟いたのではない。
学校中の憧れの的が、どうしてこんな僕と密室で二人きりなのかと聞いたのだ。
「アハハ、変な
屈託なくコロコロと笑う神崎さんだったが、それは違うと言わせてほしい。僕が変な反応をしている訳ではなく、神崎さんの方に人気者だという意識が薄いのだ。
「ねえここわかんない。ほらこの式のさあ……」
僕の客観的な分析などお構いなしに、神崎さんはわからない箇所を尋ねるためノートをズイと寄こしてくる。
細くてきめ細かい肌の指だなと、僕は並んだ文字よりもそちらの方に意識がいってしまった。
「えっと……。どれどれ」
いかん。僕は神崎さんの放課後教師を任されているのだ。
彼女が真面目に質問してくれているのに、他に意識を持っていかれるなどあってはならないことだぞと、必死に自分を戒める。
問題の箇所に目をやると、つまずいている部分にはすぐに見当がついた。
「ああ、aが0である場合を考慮してないんだね。x²の係数が0だった場合、この式は1次方程式になるから――」
場合分けして解けば2次方程式と区別して進めることができると、ただそれだけのアドバイスを送るつもりだったのだが、顔を上げた僕は呼吸を止めてしまった。
「ふーん。そっかぁ……」
神崎さんはぶつぶつ呟きながら、件の数式に目を落として理解しようとしている。それはとても殊勝な学習態度なのだが、問題は少々上体を前に傾けていることだった。
机に両肘をのっけた格好でそうしていると、第二ボタンまで外れたシャツから、胸の谷間がチラッと覗けてしまうのだ。
下に入った腕がふにっと胸部を持ち上げることで、ただでさえ豊かなバストが更に強調される結果となっていた。
「か、神崎さん……! ちょ、ボタンちゃんと留めて!」
僕は慌ててそう指摘したが、神崎さんは自身のわがままボディーに無自覚なようで、盛り上がった胸元を確認してもキョトンとした顔をしていた。
「どうしたの? 別にこれくらい、ちょっと上んとこが見えただけじゃん」
腕を机から引っ込めると、底上げされたボリュームが元に戻ってとりあえずは落ち着いた。
それでも、鎖骨のラインなどは健康的な美しさを十分過ぎる程に物語っていたが。
「これはこういうファッションなの。谷間がチラッと見えちゃうくらいのことでー」
大袈裟に驚くなと言っているようだったが、神崎さんは男子高校生の気持ちをまるでわかっていない。目を逸らそうと思っても自然とそちらの方を向いてしまう悲しい生き物なのだ。
「とっ、とにかく! ボタンはしっかり留めてください。校則にもちゃんと書いてあります!」
『学生らしい節度ある服装を~』と、確か生徒手帳に書いてあったはずだ。入学前に全文読んでおいたので、間違ってはいないはずである。
「校則? 全部読んだの? 真面目だねー相変わらず」
規則を持ち出せば考えを改めてくれると思ったのだが、神崎さんはボタンを留めるどころか調子を上げてきた。
やにわに立ち上がると、机に手をつく格好で前のめりになったではないか。
「ねえなんで顔赤くなってるの? ほれほれ~」
両側から腕で挟むようなポーズでそうしていると、いわゆるだっちゅーのの原理で胸がぎゅむぎゅむと持ち上がる。今にもはち切れんばかりだった。
「おわぁ! やっ、やめてってば!」
チェリーな僕にはとても耐えられない。非常に目の毒だった。
「アハハ! 面白~い! 耳まで真っ赤になってるよ?」
上機嫌でからかう神崎さん。そういう彼女もよく見ると頬が上気しているようで、肌荒れ一つないその部分がピンク色に染まっていた。
「ちょっと恥ずかしいけど、でも相坂くんにならいいや!」
珍しくしおらしい声を出したと思ったが、それもほんの一瞬のことで、すぐにいつもの明るい声に戻った。悪戯な視線でこちらの反応を楽しんでいるのだった。
灰色だった僕の高校生活が、なぜピンク色に染まってしまったのか――。
発端は数ヶ月前。担任の先生から"ある係"を任されたのがきっかけだった。
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