番外編

第13話 「そして、風鈴がまた鳴る日」

──未来の葵と、後輩たちの再会の物語。


春の午後、風鈴屋のガラス戸がカランと鳴った。


「いらっしゃいま……って、あれ?」


カウンターに立つ1年生だった頃の穂乃香は、思わず目を丸くした。

入り口に立っていたのは、柔らかなグレーのカーディガンを羽織った女性——葵だった。


「ただいま。……帰ってきたよ、日ノ杜」


「えっ、嘘、ほんとに? 東京じゃなかったんですか?」


「うん、でもこっちでも仕事できるように調整して……“二拠点生活”ってやつ」

葵は笑った。


「そろそろ“はちみつプリン”の新作、出る頃だなって思って」


穂乃香は目を輝かせながら、店の奥へ走っていった。

しばらくして、彼女が持ってきたのは、春限定の《桜蜜ミルクプリン》。


「今の子たちが考えたんです。

“あなたの春が、やさしくありますように”って」


葵は、スプーンをひと口。


——やさしい。

でもどこか、まだ“新しい風”の味がした。


「……やっぱり、受け継がれてるんだね。

あのノートの続きを、ちゃんと書いてくれてるんだ」


カウンターの奥には、あの『ハチミツノート』が飾られていた。

少し黄ばんで、でも誇らしげにそこにある。


穂乃香が照れくさそうに言った。


「みんな、たぶん、あのノートに憧れて始めたんです。

“味の記録”ってより、“誰かの気持ちの記録”って感じがして」


葵は、小さくうなずいた。


「それでいい。

だって、“やさしさ”って、レシピには書ききれないものだから」


風が吹いた。

窓辺の風鈴が、ちりんと鳴った。


それはきっと、過去と未来をつなぐ音。


——そして今日も、誰かが新しい甘さをつくっている。

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