第2話
「好きな味を選びなさい」
子供の頃、病院の帰り道。
よく父と一緒にジェラートを食べに行った。
種類はたくさん。どれもおいしくて、私はいつも選ぶのに時間をかけた。
「父さんは何にするの?」
「俺はいいから」
そう言いながら店内の椅子に腰掛けて、コーヒーを飲んでいた。
苦い苦い、炭みたいに黒いエスプレッソ。
僕はなんだか申し訳ない気持ちになって、プレーンを選ぶ。一番安いからだ。
「いいのか? それで」
「うん、それがいい」
それでいい、というと、父は好きなものを選びなさいと言ってくる。
僕はそれが煩わしかった。
プレーンはそれなりに美味しかった。
ねっとりとしていて、少しバニラの香りがして。
なぜ、こんなことを、今?
冷たい空気が鼻腔から入る。
目を開けると、そこは薄暗い見知らぬ部屋だった。
コンクリートの打ちっぱなし、窓には白いレースのカーテンがはためいていた。
月明かりが僕の頬を照らす。
「やあ、起きたみたいだね」
僕は瞼を擦りながら、声の方向を向いた。
死人がソファに座っている。
「なぜ死んでいないんです?」
「死んだけどね、生き返った」
「僕はどうなるんです?」
彼女は首を傾げる。
「気にならないのか? どうやって生き返ったのか」
僕はベッドから降りながら行った。
「僕は人質だ。教えてもらえないでしょ」
彼女はニヤけ顔で、両手を大きく広げる。
「おいおい、随分理想的な人質じゃないか? 人質になるために生まれてきたのか?」
「あなたの機嫌を取りたいだけですよ」
僕は笑顔で答えた。
彼女は舌打ちをして、ソファの背もたれにどかっともたれた。
「はぁ、少年はつまらんやつだな。もっと息のいい奴を連れてくるんだった」
勝手に風呂場に突っ込んできて、ひどい言い草だ。
だが、彼女が僕を気に入っていないのはかなり問題である。
僕はここからどうにか生き残る必要がある、少なくとも一週間以内に。
大学受験の統一テストがあるのだ。
国立大学が志望校なので、そこを逃すと2次試験すらおじゃんとなる。
三年間の努力が水泡と消える。
「でも、人質に暴れられても困るでしょう?」
「いいんだよ、暴れるくらいで。その方が面白いだろ? 少年、名前は?」
僕は本名を言うか少し迷ったが、まああまり大差がないと判断した。
「東條一香」
「イチカ、ね。まあ、覚えられるかはわからんが」
本当に失礼な人だな。自分で聞いておいて。
「僕はあなたをなんて呼べば?」
「んあ? シズ、シズ・カガミ」
やはり彼女はあっち側出身のようだ。
人種は日本人(少し西洋風だが)にしか見えないが、西欧のように名前が先に来るのはあっち側の風習である。
「ではカガミさん、先ほどの質問、答えてもらえないですか? 僕を何に使うんです?」
カガミは再び笑顔を取り戻し、目を大きくして言った。
「ぶっ壊すのさ、扉を」
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