012 (Side:亜美)ジャンヌ・ダルクと呼ばれて。

4月23日(日)


 9回無死二塁一塁。打順は1番に帰っての好打順。点差は4点あるので私を出す必要があったかどうかまではわからないが、先発投手の寺ちゃんはまだ入学したての1年生なので無理はさせたくないのだろう。(3月の合宿には参加してる)


 初球はバント警戒の定石でインハイぎりぎりの4シーム。でもストライクなんだなぁ。遅くてもしっかり回転がかかっているから終速も落ちにくい。次はアウトローへのカーブ。これもギリギリ入るんだなぁ。


 そして最後はインハイに高回転の終速が落ちにくい4シーム。1球外したとみせかけてるけどコーナーに入る球だ。はい三振。これで一死。


 2番打者もバントかなと見せかけて……強攻に来そう。狙った2球目のカーブは残念ですがスプリットです。思ったより落ちたのだろう。ひっかかってのぼてぼての投手ゴロ併殺。


 投手って「カ・イ・カ・ン」。ただ健のような速球が投げられれば相手のすべてを「ねじ伏せる」気持ち良さなのだろうけど、私の場合はかわし切った「しびれる」という気持ち良さが近いのかも。


 これで1勝1敗。勝ち点の行方は追加される3試合目で決まる。


 「ねえさん、お勤めお疲れ様です。」

 「さすがです、ねえさん。」

……その『ねえさん呼びはやめて。


 ベンチに帰る後輩たちが口々に誉めてくれるのはいいが、どこの「極妻ごくつま」ですか。3年前は「お嬢様じょう」だったのに。ただ健に言わせると「それもちょっと……」らしい。もちろんバカにしているわけではなく「扱い方を相当悩んでいる」からこその表現ではないかということらしい。


 スカウトのおじさまたちは「ねえ、あれって狙って投げてんの?」と「一体お前は何を言っているのだ?」的質問。狙って投げるのが野球やろがい。


「いやいや、あのコースに狙って確実に投げられるのはプロでもそうはいないよ。」

「ストレートと変化球のフォームが全く同じなんだけど。学生でこれができちゃうとか想定外だマジやばいよ。というか学生レベルじゃ打てんやろな。」

 

 さすがに「魔法」のおかげとは言えない。「命中率上昇デッドショット」のおかげで完全にフォームが安定するためだ。本格的に投手を始めて1年程度の選手ができたら首もかしげたくなるだろう。


「じゃあ私ドラフトかかりますか?」

私が思い切って聞くと二人とも首をかしげる。

「欲しがるところはあるかもなぁ。営業面もそうだけど、女性初のNPB選手って歴史的な意義ロマンは魅力よなぁ。」

「だよなぁ。ベンチ次第だろうけど俺も野球の将来のことをを考えたら絶対欲しいなぁ。うちの球団じゃなくてもどこかが獲って欲しい。営業面ではプラス要素しかないし。」


 いるんかいらんのかわかりづらいわ。ただ「営業>戦術」的に必要らしい。完全に「客寄せパンダ」やないかい。と言いたいところではあるが健が言うには

「パンダ上等でしょ。パンダって実は猛獣(肉食)なんだぜ。趣味で笹食ってるだけだから。俺なんかタイトル獲っても客が来ないしなぁ。」

いや、最後のそれはただの愚痴だよ。


4月24日(月)


 帝教大とは1勝1敗に持ち込んだので勝ち点をかけての3戦目。土曜日にも先発したエースの宮峪みやくん(3年)が力投。9回まで1失点の好投。ただ点をとれず0-1の手痛い敗戦。勝ち点を逃す結果に。


 「リーグ戦なんだからあまり勝ち負けを気にしたらだめだよ。」

健に愚痴るとイメージとは違う返答が。もちろんどうでもいいということではなく「責任」の所在の話らしい。自分のやるべき役割をやるべき場面でしっかり果たすのが選手の責任で、チームの勝ち負けの責任は「監督」にしかないと割り切ること。


 「じゃないと病むぞ。」

まあそうなんだけどね。ただ「女子選手おんな」なんか使うからチームが勝てないんだって思われるんじゃないか、そこに私の不安がある。

「それ誰が思うの?亜美に負けた連中が思うかもしれないけどさ。亜美は女子野球界なら世界最高どころか史上最強だからな。胸張っていけよ。」


 ただ健に言わせると男は女には嫉妬しないらしい。男は男にしか嫉妬しないとか。多分彼の感想なんだろうけど、みんな健みたいなタイプだったらいいな。


5月5日(土)


 ゴールデンウイーク終盤の今日からは明青大学との対戦カード。明青大昨年の秋季の2部リーグで優勝し、入れ替え戦で勝利してこの春は1部リーグに入ってきた。


 試合は朝9時の第一試合。会場は神奈川県の相模原球場。試合前に相手大学の放送研究会にインタビューを受ける。アップ中なのだが……。(試合後だと試合の長さによっては入れ替え時間が面倒らしい)。


 テーマは「男子競技における女子の進出」ということだったが。私をスポーツ界の「ジャンヌ・ダルク」のごとく持ち上げてくれるのはありがたいが、残念ながら私は「時代の幕開け」ではなく、ただの「特殊な例」でしかない。多分「魔法」がなければわずかに及ばないだろう。それだけ男女の「筋力の差」は絶望的なものだ。もっともジャンヌ・ダルクは「魔女」として火刑に処されるのだが、彼女はただの無実な少女だったが私は本物の「魔女」ってとこか。


 もし私がプロに進むとすればおそらくパリーグの広い球場を背にナックルとカーブで勝負するか、打者ならセ・リーグの関東3球団のホームゲームでならなんとか通用するだろう。それが私と健の共通の見解だ。








 


 


 


 


 

 


 

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