009 (Side:亜美)春季リーグ

4月15日(日)


 ついに大学野球の「本番」であるリーグ戦が始まる。つくば大学は首都大学リーグに属している。実力的には首都圏では東京六大学リーグ、東都大学リーグに次ぐ有力なリーグでありこれまでにも多くの選手をプロ野球に送りだしている。


 東京六大学リーグは日本の野球の揺籃ようらん期においていちばんの人気を誇っていたこともあり、日本のスポーツ一競技に一団体だけに与えられる名誉「天皇杯」はこの六大学リーグに下賜かしされている。


 また東都大学リーグは多くの大学が加盟しているためなんと4部リーグまでが存在。よく「人気の六大学、実力の東都」などと称賛されている。


 首都大学リーグも16の大学が属しており2部制を敷いている。いずれのリーグも総当たり2勝先勝ちでで勝ち点1を獲得するシステムで2試合して1勝1敗なら3戦目が追加される。勝ち点がいちばん多い大学が優勝し、最下位の大学は2部の優勝大学と入れ替え戦に臨むことになる。


 リーグは春秋の2回。春季リーグに優勝すれば夏の大学全国選手権大会へ、秋季リーグに優勝すれば秋の神宮大会選手権(大学の部)へ進み日本一を目指す。


 実力的には東海総合大学が圧倒的で、次いで日本体育教育大学という感じ。つくば大学もそれに次ぐ、ということなのだが私が入学してからはまだ優勝はなく入れ替え戦をぎりぎり回避と言ったところ。


 そして今季はいきなりその「東海総大」と当たることに。絶対的エースの清野知之すがのともゆき選手が卒業したのでワンチャンあればいいな、という部内の空気である。もちろん「打倒東海総大」としか言わないけどね。


 今日の球場も平塚球場。東海総大のホームグラウンドみたいなところだ。1年に数試合NPBの横浜ベイ・ブルースが公式戦を開催する本格的な球場。(二軍は本拠地の一つ)。


 グラウンドで準備運動アップをしていると次々に選手や関係者が

あいさつに来る。ちやほやされるのは悪い気はしないのだけど、まあ「女」が珍しい世界だから「調子に乗ってるいちびり」と思われないように気をつけている。


 バイトでやってる「モデル業」や、所属事務所から振られた仕事で「素人」女子大学生を集めたようなTVのバラエティ番組には何度か呼ばれたことがあるのでそれも「調子に乗っている」と思われかねない原因ともなる。男性とは笑顔を絶やさぬもきっちり距離感を保って接するのがマスト。


 今日は1番指名打者。相手投手は申川さるかわくん。最初の打席は1B1Sからの外側の4シームをたたく。当たり所が良かったのか打球は伸びて左翼席に。

 女子が本塁打を打てると思っていない観客から拍手が。


 私は3打数2安打1打点。8回から2番手で登板。5番打者からの場面だったけどナックルボールだけで三者凡退に抑える。ただチームは1対2で惜敗。


4月16日(月)


今日も昨日に引き続いて1番指名打者。最初の打席は左飛だったけど4回の2巡目では打者を二塁に置いての右翼線への二塁打。本日は3打数1安打1打点。8回には3番手で一死二塁一塁の場面で登板。さすがに走者を背負ったときはナックルは使えないので高めぎりぎりの4シームと、同じフォームからのカーブ、そしてカーブとは落ち方の違うスプリット。打者を遊ゴロ併殺に打ち取る。ただ試合は3対6で負け、いきなり勝ち点なし。


4月21日(土)


 今日と明日は夏に行われる女子W杯の日本代表のセレクションとなる試合が行われる予定だ。思い切りリーグ戦と予定が被ってしまったが私はリーグ戦を優先することに。

 

 監督はそちらに行ってもいいとは言っていたが、今回の試合は代表候補選手の強化と一次選考に参加しなかった女子プロ野球機構に所属する選手からの候補選考が目的なので、もう代表合宿入りが決定している私にとってはリーグ戦に出る方が自身の「強化」につながるのだ。


 今日からは帝國教育(帝教)大学とのカード。私は打撃好調でシングルヒット3本を打つもチームは0-1で負け。


4月22日(日)


 1番指名打者で出場。今日は日曜日ということもあって東京の大田スタジアムは結構なお客さんが入っていた。


 試合前に声をかけられる。

「亜美ちゃん。」

声の方を見るとNPB東京スイフトと横浜ベイ・ブルースの「スカウトのおじさん」たち。

「今日は誰を見に来たんですか?」

大学リーグがたいてい6チームで編成されるのは1つの球場で1日3試合をこなすからだ。その方が球場を借りるなどの費用面で効率が良いというのもある。プロ野球のスカウトさんは3試合全部チェックするのだろう。

「亜美ちゃんを見に来たに決まっとるがな。」


誰かのついでだとは思うが。

「物好きですねー。」

「目の保養やがな。」


「あ、それセクハラです。」

「冗談やから堪忍してよ。出禁になったらかなわんがな。」

芸能界の端っこの方に片足を突っ込んでるとおじさんのあしらい方が上手くなっていくのか。


「亜美ちゃん今日は投げる予定はある?」

「(今日先発投手の)寺多てらちゃん次第かな。」


「こないだ投げてたあのカーブとストレート投げてよ。日本女子最速のやつ。」

「あはは。男子相手だと平凡な球なんですけどね。」


 試合は5回に私の2号2ラン本塁打などで終盤まで5対1とうちがリード。本当は完投するはずだったが9回表に無死二塁一塁で私にお鉢が回ってきた。


 







 


 

 


 

 


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