第59話:そして決着




※蛇蝎マムシ視点




「失礼します」


 言われて俺様は出迎えた。ここは蛇蝎一家の屋敷。ここは治外法権で、俺様の命令が全ての権利を上回る。


「来たよ。蛇蝎先輩」


 先頭を切ったのは水戸アルテ。普通に俺様に視線を向ける。その胆力は誉めてやろう。


「あのー私達って」


「なにをされるんでございますの?」


「ボク的には社長を返してもらえればいいんだけど」


 グレートスリーも来ているな。よしよし。


「ああ、預かっている生蔵ならまだ生きているよ。手も出してない。足も出していない。だから安心してくれ」


 むしろお前らがこうやってここに来た時点で、アイツの役目は終わった。後は、俺様がグレートスリーと運命の乙女レディ・フェイトを抱くだけだ。


「ツルギの前で私をレイプしようとか思っていないかい?」


「考えはしたけどね」


 それはそれで面白そうだと。


「それで。犯されると分かって、自分の足でここに来た気分はどうだ?」


「別に何とも。私は犯される気もないしね」


「へえ」


 で、屋敷内に案内して、それから組員に紹介する。


「へえ。可愛いじゃねえか。これがクリアリアンだって?」

「犯し甲斐がありそうだな。俺様がヒィヒィ言わせてやるぜ」

「ていうか運命の乙女レディ・フェイトが本人ってマジか?」


 マジだぜ。俺様も犯すのが楽しみすぎる。


「それで。ツルギに会わせてくれ。私はそれさえできれば、他は何も問題にならない」


「この場で脱げってのは通用しないのか?」


「まずはツルギだよ。君が本当にツルギに手を出していないか。それを確認しないことには始まらない」


「しょうがねえ。そこまで言うならツルギの前で犯してやるよ」


 俺様はルンルン気分でツルギを幽閉している部屋へと連れて行った。武家屋敷みたいに広いので、一人をさらって確保する程度は幾らでもでもできる。で、はたしてそこにはツルギがいた。


「よう。マジで来たのか」


「ツルギ!」


 ギュッと水戸がツルギを抱きしめる。そのことで俺様がイライラすると知っていて。


「ほらツルギは無事だっただろ? 俺様は優しいからな。後はお前たちの誠意次第だ。ここで俺様に犯されることを肯定するか?」


「それは」


「ちょっと」


「むー」


 グレートスリーは怯えているようだ。まったくおっぱいばかり大きい女どもだ。もちろんレイプ動画は記録として残す。ソレを使って脅せば、俺様が好きな時に抱けるオナホの完成ってわけだな。


「そもそもお前らが悪いんだぜ? 俺様がお膳立てしてやったというのに、俺様に靡かないからこういうことに……」


 俺様は愚痴りながら鞘身のHカップの爆乳に手を伸ばした。その手が爆乳を揉もうとする直前。


「ッ!?」


 俺様の手の平に穴が開いた。しかもジュウッと焼き焦げた跡がして。細胞そのものが焼けたのか。血は出ていない。だがその痛覚の覚える痛みは、あまりといえばあまりで。


「ガッ! あああああああっっ!」


 俺様は突然起きたことに理解が追いつかない。そのまま手を押さえて転げまわった。


 なんだ!? 何が起こった!?


「ほどほどにしておけよ。アルテ」


 安穏としている生蔵は、何が起こっているのか分かっているらしい。


「何を……何をしたぁ!?」


「衛星からの狙撃」


 ヒョイ、とツルギは屋敷の屋根……その上にあるだろう空を指した。


「衛星……だと」


「俺が特許を取った技術でな」


「つまりツルギが作り上げた人類の遺産だよ」


 ニコニコと微笑んでる水戸。いてぇ。いてぇ。超いてぇ。手の平に穴が開いたのだ。その痛みははっきり言ってシャレになっていない。


「水戸ぉ! テメェ! 何やってるのか分かってるのか!」


 俺様に逆らえば、つまりそれは破滅を意味するんだぞ!?


「誰も俺様に逆らうな! 俺様が欲しいものは献上しろ! 俺様だけが美女を抱くことが許されているんだよ!」


「肥大化した自我と、それを抑制することのできない自意識。君が何故そこまで醜く歪んでしまったのかは知らないが、おそらくこの環境にも影響はあるんだろうね」


 醜い!? 醜いだと!? この俺様が!?


「いっそ殺そうか」


「アルテ」


 生蔵がそれを差し止める。


「だがここまで肥大化した自我はおそらく反省という言葉を理解しないよ。これを放置しておけば第二第三の報復が待っている。ここで殺しておくべきだ」


「キルリウムを殺人には使わない。そういう約束だったろ」


「ふむ」


 悩むように水戸は思案して、それよりはやく俺様は組員を呼んだ。


「お前らぁ! 来い! コイツ等を取り押さえろ!」


「御曹司!」

「テメェら! ウチの御曹司に何してけつかるんじゃ!」

「今拘束します!」


「まぁやるって言うんなら相手になるけどね」


 パチンと水戸が指を鳴らす。次の瞬間、いきなり組員たちの肩に穴が開いた。腕を下げていた連中は軒並み腕を貫かれ、そうじゃない奴らも肩を貫かれたことで手に持っている得物を取り落とす。


「ぐぁぁぁぁ!」

「がぁぁぁぁ!」

「いてぇ! いてぇよ!」


 何が起きたのか。分からないままに、だがさっきの水戸と生蔵の言葉を思い出す。つまり衛星。衛星爆撃でもしたってのか。だがそれにしては狙撃の正確性がハンパではないし、なにより屋根も床も透過している。当たっているのは人体だけで。そういうレーザーだかビームだかがあるってのか? 嘘だろ!?


「なわけで降参しないかい? こっちは君らを殺しても何の得もしないんだ」


「ぐ……」


 既に衛星は俺様をポイントしている。だがありえねえ。このスパダリ蛇蝎マムシ様が敗北するなんてありえねえ。


「冷静に考えろよ。こんなブサイクより俺様の方がイケメンだろ? お前らだって俺様に抱かれた方が幸せなはずだ」


「…………あ~」


 なんだ。その論じるに値しないみたいな反応は。


「言っとくけど。ツルギってスパダリだよ。君が自分をどれだけ評価しているのか知らないけど、彼より上はそういない」


「はっ! そんなわけ! 生蔵は俺様より下だ。金だって顔だって俺様が上なんだよ!」


「ツルギ。ペルソナイズ解いて」


「あんまりこんなことでマウント取りたくないんだが」


 仕方ない、と呟いて生蔵はペルソナイズを解く。そして現れたのは乙女堕としフォールフォーマンの顔。俺様利用している国内最高のイケメンで、ついでに毎年百億円を稼いでいる男の顔。生蔵ツルギが……乙女堕としフォールフォーマンだったってのか? 俺様よりもイケメンで、俺様よりも金を持っている? そんな……バカな……。


「ありえねえ! ありえねえありえねえ! 俺様より上の男なんていないはずだ!」


「残念だったね」


 ニッコリと笑う水戸が、俺様を確実に生蔵より下だと決めつけている。そのことで、俺様の中の何かがポッキリと折れた。俺様が、モブ顔より下……。


「ついでに言えば、メゾンタクスの名誉棄損と、鞘身ハオリの名誉棄損についてもプラスしてくれよ。お前がやったんだともうバレているからな」


 あ、あ、あぁ……俺は……もう……終わりなのか……。


 思った瞬間、右腕が焼かれて吹っ飛んだ。鮮烈な痛みに叫びを上げると、蔑むような瞳が水戸が、黒金が、多楠が、鞘身が倒れ伏している俺を見下す。


「や……やめてく……れ……」


「大丈夫よ腕と足を吹っ飛ばすだけだから。歩けなくなって、誰にも触れなくなって、そうして自分が何をしたのか。じっくり生き汚く生存して自問自答なさい」


 バシュッと音がする。今度は左腕が吹っ飛んだ。ただあまりの高熱であるが故に肩の付け根は焦げ付いて止血が済んでいる。


「いッッッてぇぇぇ!」


「後は両脚ね」


 倒れた両脚。それを衛星爆撃はピンポイントで焼き散らす。


「ガアァァァァアアアアアアァァッッッ!!!」


「どうせだから股間も再起不能にしておきましょう。こんな奴の遺伝子は人類に入りませんから」


「それだけ……は……」


「やめて欲しい?」


「当たり前だ」


「誠心誠意お願されたら私の考えも変わるかもしれないよ?」


 畜生……ポッキリ折れた心で、俺は床を舐めて言う。


「お、お願します……どうかそれだけは……反省します……もう二度とこのようなことはしませんから……お慈悲を……」


「だが断る」


 そうして俺は腕と脚と生殖器を失った。ジクジクと高温の痛みが肉体と脳を刺激し、もはや身体を動かすことさえ叶わない襤褸切れで、ただ脳と心臓が無事であるから生きているという人間以下の存在に落ちぶれてしまった。


 俺様が! この俺様がぁ! なんで……こんな……ッ。


「あ……ああ……あああああぁぁぁぁぁ!」

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