第52話:生徒指導


「ツルギ」


「ツルギ様」


「しゃちょ……ツルギくん」


 俺の名を呼ぶグレートスリー。俺は別にいいんだが、そもそも美少女であるお前らがモブ顔の俺に執着するのはアリなのか?


「えー、でもカッコいいですよね?」


「ツルギ様の御尊貌は天上天下唯我独尊ですわ」


「ボク逆張り好きなんだ」


 そんな感じでやいのやいのしていると。


「生蔵ツルギさん。黒金ヲトメさん。多楠ヘブンさん。鞘身ハオリさん。生徒指導室に来てください」


 まぁそうなるわな。


「えーと」


 そうして出頭した俺たちにコーヒーをふるまって、少し教師は言葉を探していた。ちなみにヘブンはブラックを飲めないので、ミルクと砂糖をたっぷりだ。


「君たちは男女間のお付き合いをしているのかな?」


 根本的に問題性がそこにあるのは否定しないが。


「いえ」


「別に」


「全く」


「特に」


 ほぼ簡潔に、四人とも否定した。


「しかし最近君たちの仲がいいと生徒から苦情が来ているんだが」


「まぁ仲はいいですが」


 俺としても別に嫌な相手と仲良くするほど奇矯な性格はしていない。


「生蔵さんとしては男女の恋愛としては見ていない、と?」


「そりゃ可愛いんだから惚れはしますけど」


「するんですか!?」


「するのですの!?」


「するんだ!?」


 落ち着け。話が進まん。


「しかし三人と付き合っているわけでもないと」


「さいです」


 恋人ではないな。


「よくわかりました」


 何が分かったんだろう。


「黒金さんの意見は?」


「ツルギとは少し複雑な仲でして」


「それは公言できない関係ということですか?」


「対外的に不細工ではあります」


「優等生の黒金さんに限り心配はしていませんが、恋愛にうつつを抜かして成績を落とされても困りますよ?」


「そっちは大丈夫だと思うんですけどね」


「それで多楠さんは……」


「ツルギ様を補佐する役目ですわね」


「ツルギ様……というのは?」


「尊敬すべき人には敬称を用いるべきでしょう? わたくしにとってツルギ様は尊敬すべきお相手ですので」


「生蔵さんは納得してるの?」


「はしかみたいなものかと」


 時間がたてば収束する類の。


「ツルギ様。わたくしはこの身をツルギ様に捧げますわ」


 だからそういうことは生徒指導室以外でだな。教師の心証が悪くなるだろ。


「えーと。なんと申すべきか。つまり生蔵さんを好きだと?」


「お慕い申し上げております」


「生蔵さんの意見は」


「人の恋愛に口出せるほど大人でもないので」


 コーヒーを飲む。やはりブラックは意識がしゃっきりするな。


「で、最後に鞘身さんですが」


「?」


 何故詰問されているのだろう。みたいな顔だ。


「仕事上男女の関係は望ましくないと思うのですが」


「処女ですよ?」


 一応な。


「バージンオールプロダクションのサイトにも処女の証明が載っていますのでご精査ください」


「では学内で生蔵さんとイチャイチャしているのは?」


「愛情表現」


「…………」


 そりゃ二の句は継げんわな。


「そのー、一応学内なので風紀的な問題もあり。仲良くするなとは口が裂けても言えませんけど、あなた方が一人の男子と特別仲良くしていると人間には歪みができるということをよくご理解いただきたいといいますか……」


「学内ではツルギくんと話すなって?」


「そこまでは言っておりません」


「じゃあいいですよね?」


「そもそもわたくしたちに恋時の邪魔をするよう働きかけた何者かがいますわね」


 そりゃグレートスリーが一人の男子を取り合っていたら他の男子には悪夢に見えて。俺的にもハーレムを築く意思はなく。


「ツルギ」


「ツルギ様」


「ツルギくん」


 だからそう嬉しそうにされると俺の側の意見にも歪みがだな。


「お話は終わりですか? ツルギとイチャイチャしちゃダメって公文を訴えたいなら相応の論拠を持ってくださいな」


「ツルギ様。ソファの座り心地はどうですか? もし硬ければわたくしを椅子にしてくださってもよろしいのですよ?」


「ツルギくんはボクの王子様だから。イチャイチャするなって言われてもねー」


 俺の事好きすぎるだろ、お前ら。


「それによって起こるヘイトと勘違いについてはどうでもいい、と?」


 よくはないけど、どうしろと。


「じゃあ少しだけイチャイチャを減らした方がいいんですかね?」


 俺がそういうと。


「ダメですよ。ツルギ。私が誰のものなのか。学校中に把握してもらわなくては」


「ツルギ様。あなた様はわたくしの太陽ですわ。イチャイチャしないとわたくしは枯れてしまいますわ」


「ていうかツルギくんじゃないと僕はダメっていうか」


 結局、できうる限り自重する、というどこまで実現可能かわからないおべんちゃらを述べ奉って、俺たちは生徒指導から解放された。その間二十分。昼休みの貴重な時間が。


「ツルギ。おトイレ行きたくない?」


「行って何するんだ」


「言わせないでよ。も~うッ」


「却下で」


「えー。してあげるよ?」


「せめて帰ってからな」


 とかいうと俺の家がハーレムみたいになっちまうんだが。というか成っている。


 南無。

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