第40話:北風の進路




※蛇蝎マムシ視点




「鞘身さん。ストーカーなんて見切ってさ。俺様と一緒しよう?」


 俺様こと蛇蝎マムシはそう鞘身さんに進言した。未だに鞘身さんは堕とせていない。だがそもそも勝負にもならないのだ。ストーカーをしている生蔵を好きになる女子なんて存在しない。


「あ、いいです。そういうの」


「何故だ? 俺様結構イケメンだと思うんだけど」


 そもそも乙女堕としフォールフォーマンの顔なんて、この学校で俺以外に存在しない。つまり俺はこの学内で最も金を持っている証拠でもある。


「イケメンならいいって話でもないんで」


「だが俺様はカッコいいだろ?」


「ちょくちょく会うので。乙女堕としフォールフォーマンに偽装している人」


「けれど……」


「それにツルギくんはストーカーじゃないですしね」


「何を根拠に……」


「別に理由とか要らなくないですか? ボクがそう信じているだけで」


「俺様は見たんだ! 生蔵が君に迫っているのを」


「迫る……か。うへへ」


 何やらキモい表情をする鞘身さんだった。


「とにかく! 俺様を信じて。君を一生幸せにする」


「あー。間に合ってますんで」


「俺様じゃ不服かい?」


「不服ですね」


 クソが。テメェがそこまで言うならしょうがねえ。地獄を見ることになるがいいんだな?


「俺様に逆らってもいいこと無いぞ?」


「例えば何をするんだよ?」


「さあ。わかんねえ」


「とにかくボクは大丈夫なんで」


「生蔵って、そこまでして守るべき存在?」


「いえ。そもそもボクがどうのでもないですし」


「それで生蔵を守っているのか?」


 それは俺様としても看過できないというか。俺様としては鞘身の処女は俺様が奪って当然というか。まず鞘身が俺様に靡かないのが根本的に問題というか。


「生蔵なんて放っておいてさ。俺様と一緒しようぜ」


「別にいいかな?」


「いいんだな?」


「遠慮するって意味」


「それによって得られるマイナスについては考えているんだろうな?」


「何かマイナスがあるの?」


「俺様は生蔵を破滅させられるんだぜ?」


「例えば?」


「生蔵がストーカーをしていることを世間に公表して」


「でもそれは嘘だよね?」


「お前がそう思うのは自由だがな」


 俺様に認められなければ、そもそもお前なんて生きている価値ないだろ。俺様が全ての意見を握っていて、つまり俺様が結論だ。鞘身ハオリは俺様の言うことだけ聞いていればいいんだよ。


「だからツルギくんを否定すると?」


「そもそもストーカーにご用件なんてないだろうに」


「僕はツルギくん好きだよ。色々と刺激してくるし」


「何かされたのか!?」


「何もされてないけど」


 あー。ビビった。そうだよな。生蔵が鞘身さんに何かするはずないよな。


「俺様と一緒にいれば、いい目に合わせてやるぜ?」


「それこそ例えば?」


「女ならわかるだろ?」


「あー」


 俺様は女の扱いには一手先を言っている。それを理解していない鞘身ハオリでもあるまい。


「だから俺様に抱かれろ」


「無理っす」


「そうか。じゃあ悪夢を見るんだな」


「何かするって話でいいのかな?」


「俺様は。何も。しない」


 ただちょっと口添えするだけだ。


「うーん。ボクは何もしていないと思うんだけど」


 そう思いたいならそう思え。俺様を拒絶した一事が万事だと教えてやる。


「ツルギくんには何もしないよね」


「俺様もそれほど暇じゃない」


 嘘だがな。俺様を舐めてくれたんだ。それ相応の対処はする。俺様の機嫌を損ねて、無事でいられる人間なんていないんだよ。


「じゃあそういうことで」


「生蔵も迷惑だろうな。俺様の機嫌を損ねたせいで」


「ちなみに何かしたら、ボクだって黙っていないよ?」


「ああ、わかってる。だから俺様は何もしない」


 別に俺様が何をしなくても、動いてくれる人間は存在する。その意味で俺様を止められる人間なんて存在しないわけで。


「じゃ、後は頑張れよ」


「ボクは別にいいんだけど。ツルギくんさえ問題にしなければ」


 だからその生蔵がメディア的に終わりだと言っている。俺様に逆らったらどうなるか。骨の髄まで教えてやるぜ。


「ところで」


 何か?


「ツルギくんがストーカーをしているって、何処で知ったの?」


「みんな噂してるだろ」


「そう……だよね」


 だから何か? 俺様がやっているなんて口が裂けても言えねえ。だが鞘身さんを追い詰めるのはちょっと面白かった。少しだけストーカーをしているのが楽しいと思えた。あんな風に女子を追い詰めるというのは俺としても初めてで。


「ま、ツルギくんは問題ないか」


「何をどうしてそう思った?」


「そもそも背景が白いから。別に何を言われても冤罪だし」


「その冤罪を実罪にするのにも意見はあるんだぜ?」


「でもそうだなぁ。もし蛇蝎先輩がツルギくんに何かしたら。ボクは君を嫌いになる」


「だから何もしないって」


 とか言いつつ、俺様はしかるべきところにメッセージを送っていた。生蔵ツルギを潰せ、と。ついでに鞘身さんにも地獄に落ちてもらおう。アイドル声優なる大それたネーミングがこの際の脛だ。俺様がその気になればアイドル声優なんてあっさりと潰れる。その意義をお前は今から知ることになる。


『じゃあしっかりやれよ』


 そう相手先にメッセージ。そうしてサヤクーダ様が潰れるのは必至になった。俺様のモノになっていれば、回避できる不幸だったのにな。


「ひっひっひ」


 ああ。壊しても構わない玩具を壊すのは快感だ。こうして声優としての鞘身を壊して、俺様にだけ傅く性奴隷にしてやる。俺様のアレだけ舐めていればお前はいいんだよ。性奴隷になって初めて女としての価値に気付けるってのも皮肉なもんだ。まぁあのHカップの胸を俺様が逃すわけもないのだが。アレを公的に揉める日が近いってのは興奮するな。

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