第25話:真贋識別アプリ
「というわけで、この識別アプリに、商品を登録して、それを市場に流してほしいのです」
「しかしそれでは……」
「アプリの大元は共同持株会社が独占します。そのデータベースと連携した個人個人のアプリが、真贋を簡単に識別できる。それだけ理解されれば問題ないかと」
「初期ロットから全てデータベースに納めて、識別子チップによってアプリに本物か偽物かを測らせると」
「そういうことになりますね」
「ちなみに精度はどうだい? 百パーセントかい?」
「私が使った限りでは百パーセントです。登録したチップの情報をアプリが拾うことが出来ますので、チップさえしっかりしていれば問題無きかと」
「誰が作ったと?」
「私ですな」
「君が? 一人で?」
「はあ」
何か悪いのか、とでも聞くように俺はそういった。
「いや。悪いわけではないのだが、どうやって」
「単純なディープラーニングですよ。プロプログラムで自動構築するアプリケーションの海と言いますか」
「その識別アプリ。我々も使えるので?」
構いませんが。俺はガーネットを経由して役員に回す。五十個くらい偽物と本物を混ぜ込んで、どれがどれか分かります? と聞いてみる。もちろんブランドバッグやプラチナアクセ、時計に至るまでなんでもありだ。メゾンタクスの商品を滅茶苦茶買って、ついでに偽物も滅茶苦茶買ってきた。必要費? 聞くな。
そうしてA1からZ2まで五十種類のブランド商品を漁って。そうしてようやく、俺の真贋識別アプリの有用性に納得してもらえたらしい。ダメだったら撤退するだけだったので、これはいいとして。ただ偽物は処分だが、半分くらい買ったメゾンタクスの本物の商品はどうしよう。俺は使わないし。黒金にでも押し付けるか。
で、役員さん。普通に識別アプリを利用して愕然としているようだ。然程でもないんですけどね。
「なわけで、これを登録する作業を共同持株会社にやらせたら、顧客の信用も取り戻せるのでは?」
「そうすると社会にも弁明が立つと」
「どうしても駄目だと仰るなら、私も諦めますけどね」
「いや。素晴らしい。これは革命的だ。君のセンスには脱帽だよ」
さいでっか。
「君は何者だい?」
「それを言ってもいいんですけど。引かれないかなーというのが正直なところ」
「引く、のかい?」
まぁ色々あれば。
「それで剣崎カタナさん。貴方が提案したかった三つ目……とは?」
「私を雇いませんか、という提案です」
「それは社外取締役に……ですか?」
「いえ。ポストは共同持株会社の方だけで十分です。そうじゃなくて。信頼回復のために私が東奔西走をしたいなと」
「何故そこまで……」
「だって私はメゾンタクスの株式を買ったんですよ? そりゃ株価が上がる努力は全力でしたいです」
「はあ……」
理解できているのかいないのか。
「で、まぁペルソナイズを解くと」
俺の素顔が晒される。
「
イグザクトリー。年間百億稼ぐイケメンでーす。
「なわけでネットのインフルエンサーとしてメゾンタクスの信頼回復に貢献したいというか」
「可能ですか?」
「ちょちょいとやってみます」
「それでわたくしは何をすれば」
「とりあえず増資の件と新株発行。あと真贋識別アプリの取り扱いを会議してください。私も学校と折り合いをつけて会議には出来るだけ出席しますので。で、それでメゾンタクスの信頼性をアピールして、ついでに
「そんな……」
「ついでですし、いっそ他企業も巻き込みます? メゾンタクス再生プロジェクトとか銘打って」
「いや、そんなことを他社にさせるわけには」
「いやいや。こういうのは持ちつ持たれつだから。結構あっさりやってくれるって」
「そもそも誰に口利きを」
「そっちは私がやっておきますよ」
「そこまでして剣崎さんに何が……」
「だからまぁ別に何もはないけど株価が上がれば万々歳」
それだけだ。それ以上を俺は望まないし、望むべきでもない。単純に俺の所有しているメゾンタクスの株価が上がれば資産運用の意味では正答。その信頼回復のために共同持株会社に技術提供するのも頷ける。
「じゃあ、ハイブランドの方には俺から声かけますんで」
「ガチでやるんですか」
「ガチガチのガチです」
まぁ暴走しているのかと言われると否定も難しいのだが。
「さぁてどうしたものか」
「剣崎さんも学校がお忙しいのでは?」
「まぁそこは勉強の得意な知り合いがいるので、何とかなります」
「ではよろしくお願いします」
承り~。
「では今日のところは失礼をば」
そうして俺は帰路につく。
「くあ」
欠伸をしつつ、家に帰る。
「生蔵くん!」
で帰ると、部屋には黒金さんがいた。普通に上がっているらしい。別にそれはいいのだが。
「今日はカレーですよ!」
色々と我が家を使い倒しているらしい。別にそれはいいのだが。俺もこれあるを悟って鍵渡しているし。好きに使ってくれとは言っている。で、どうせご飯食べるならシステムキッチンで料理したいと言い出した黒金さんが俺に料理を振る舞うまでは一連の流れ。
それにしてもなんだかなぁ。
「それで会長は大丈夫?」
「まったく大丈夫じゃない」
「生蔵くんがソレを救うんだよね」
「早まったかなとは思っていて」
「どうせスパダリみたいに救うんでしょ?」
「こんなモブに介入されて大変だな多楠会長」
「それで? 要件は?」
「何もない」
「じゃあカレーを食べよう!」
「そですね」
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