第17話:そうして悪意は実を結ぶ
※蛇蝎視点
「あー、くそ。イライラするぜぇ」
受験の学年だってのにモチベーションが上がらねえ。適当に女を引っかけようと思って、偶然生徒会室を見つけた。そこにいた多楠ヘブンを見つけて、俺様がコナをかけようとしたら調子に乗っている生蔵に止められた。何がセクハラだ。童貞のくせに一丁前なこと言いやがって。男と女の駆け引きも分かっていないような恋愛初心者にグチグチ言われたくねーんだよ。こっちはちょっと多楠を口説こうとしているだけでセクハラだと。俺様の顔がイケメンすぎるから嫉妬してるんだろ。クソ。邪魔しやがって。
それに多楠も多楠だ。俺様の言い寄りを無理とか言って。これだから処女は扱いにくい。俺様に惚れているのに、それを素直に表現できないってのは婚期を逃す行き遅れパターンだぞ。
「わからせてやる必要があるな」
俺様に反論したことは重罪だ。その罪は絶望であがなってもらわなければならない。
「ひひ」
そうして俺様は面白いアイデアを思い付いた。視界モニタに映る画面から、指示待ちの人間にメッセージを送る。ぶっちゃけ俺様的にはどうでもいいのだが、多楠は俺様を軽んじ過ぎた。俺様の女になっていれば不幸なんて起こるはずもなかったのに。これも全部俺様に逆らったが故に起こる必然だ。
「メゾンタクスを潰すぞ。いいな」
そういう風にメッセを送る。大体これで把握は完了。俺様は黙って見ていればいい。メゾンタクスはハイブランドの会社だ。つまり風聞に弱い。であれば攻略なんていくらでもある。ニヤニヤが止まらねえ。俺様の気分次第で壊れる玩具ってのは持っているだけで気持ちのいいものだ。今から多楠は悪夢を見る。残念だったな。俺様の女になっていれば回避できた不幸だったのに。これも全部バカ女が悪い。それに俺様に忠告した生蔵も悪いだろう。この後の展開が読めるようだ。俺様の機嫌を損なって後悔した多楠が、あの時俺様のナンパを止めてこの不幸を生み出した生蔵を詰って罵倒する。そりゃそうだ。俺様に逆らえば不幸に陥ることは必然。その不幸を生み出した生蔵を多楠が詰るのも自然の摂理。
そうすれば多楠も分かるはずだ。俺様の女になることがどれだけ自然で当然のことなのか。
「ひひ……絶望に染まった女の顔ってのもオツだよなぁ」
まったく。黒金に続き、馬鹿な女しかいねえ。だが俺様は余裕があるから焦ってはいない。黒金はいずれいただくつもりだ。なにせ蛇蝎一家の借金を高利貸しから借りて返済したのだ。その内首が回らなくなって泣きついてくる。そうして初めて俺様がどれだけ有用なのかを悟れるのだろう。多楠についても同じだ。俺様に逆らったことを後悔しながら地獄に堕ちろ。
「蛇蝎先輩! お疲れ様です!」
「ああ、お疲れ。部活頑張ってる?」
「はい! 今日はお休みなんですけど。そうだ。蛇蝎先輩予定ってあります?」
モジモジとしながら女子生徒が聞いてくる。まったく俺様の予定だと。ないわけじゃないが、まぁ今日はコイツでいいか。ちょっとお茶奢って、それからいただくか。本当は多楠を抱く予定だったが、余計な童貞のせいで話がおじゃんになったからな。俺様としても女を抱くのに妥協くらいはする。ま、コイツの顔はそこそこだ。ペルソナイズしているんだから当然というか。だが俺様の相手としては物足りねえよなぁ?
「お茶でもする?」
「え? いいんですか……先輩」
「別に用事もないしさ。俺様で良ければ付き合おうかなって」
「じゃ、じゃあ庵宿まで足をのばしませんか?」
「クレープでも食べようか」
「バズりそうなのでお願いします!」
あーはいはい。ブレインフレンドでガーネットに繋がっている昨今。個人がネットに顔を晒すのは当たり前。ネットリテラシーという問題はあるが、何より承認欲求が人間は強すぎる。結果、馬鹿どもの巣窟になっているのは否定も難しい現代社会の闇だ。俺としてはそういうことには手を出したくはないのだが。どうせ食っちまう女だ。適当に喜ばせてやろう。
そうして庵宿区に来た。誰もが俺を見て驚いている。
「俺様、ちょっと目立ってる?」
「そりゃ
キラキラした瞳で俺を見る女生徒。誰しも俺を見ている。いやーやっぱり俺様のオーラって隠しきれない感じか? イケメンすぎて申し訳けなくさえ思ってきたぜ。
「先輩と一緒にクレープの自撮り撮ったらバズりますよ!」
「あー、それ広告収入入るか?」
「もちです!」
「じゃあ御免ながら遠慮させてもらうよ」
「なんでですかー。イケメンなんだから押し出していきましょうよぅ」
本気で残念そうにしている女生徒。俺様としても俺様のイケメンはネットにアップするべきだと思うのだが。中々そういうわけにもいかないのだ。利権の発生する項目に
ペルソナイズによってデジタルのイケメンが普及した現在。自顔による芸能活動しか出来ないという制約が日本にはある。俺様なんか毎年百万円出して
「しょうがないですねー。じゃあ普通にクレープを食べましょう」
そうしようか。俺様が奢ってやるから一生感謝しろ。そう思って庵宿区を歩いていると。
「――――――――」
何か聞いたような声が聞こえた。雑踏の中で誤聴した可能性もあるが、俺様の反射神経は、それを黒金ヲトメだと判断した。
そして俺様は見た。
「ッッッ」
今時のトレンドファッションを着た黒金ヲトメがクレープ屋に注文している姿を。その時の俺様は唾を飲んでいた。シックな色合いで固められたファッション。形は奇抜ではなく、だが似たような衣服をとっさに思い出せない程度には独自性があり。黒髪を綺麗に揃えて、伊達眼鏡をかけている。胸の谷間が出ており、その谷間を男の腕に押し付けている。俺様がされるべきサービスを受けている男は。
「あー。あっちにも
空気を読まない女生徒が、そんな感想を漏らす。俺の中で何かの糸が切れた。
クソ! クソが! あのビッチ! 俺様が少し管轄を怠っただけで男に靡きやがって! 分かっている。おそらくあの
「先輩? 怖い顔してどうしました?」
「いや。何でもないよ。ちょっと眩暈が」
「やばば。休憩します? クレープとか言ってる場合じゃないですよ」
「大丈夫だよ。クレープを食べながらブラブラしよう。空気を吸えば治るよ」
不愉快だった。
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