キャンパスライフ

 今日は記憶を失ってから始めての大学。どんなところなのかは知っているが、授業の内容などは全く覚えていない。

 俺は校門で佐藤を待つ。次々と横を通り過ぎていく生徒たちの顔には、全く見覚えがないのせいで、余計に緊張してしまう。

 すると、遠くから妙に体のゴツい男が俺に駆け寄ってきた。


「お、いたいた!じゃあ早く行こうぜ、蓮」


 彼は出会うや否や、俺の腕を掴み、引っ張っていった。


「おい、何でそんなに焦ってるんだよ」


 彼は振り向かずに、前を向いたまま話し始める。


「遅刻だよ!今日は一限から講義あるんだからよ!走れ走れ!」


「それって10:0でお前が悪くないか?俺、15分くらい前に来たぞ」


「細かいことはいいんだよ!昨日はお前の彼女の調査で徹夜したんだ!それと一人でちょっと大人の嗜みを...」


「馬鹿かお前は!?でも調査はありがとう」


 そんなこんなしているうちに、ギリギリ間に合った。俺と佐藤は目立たない席を選び、そこに座る。


「よし、今回の講義は軽く流しておけば大丈夫だ。じゃあさっそく本題に入ろう」


「おう」


 彼はバッグからA4サイズの紙を取り出していた。


「まず、お前の彼女達の家の位置関係だ」


春原ひかり

蓮の家から200km離れている

高校生になってから一人暮らしを始めるため、疎遠になるも、定期的に会っている


藤堂天音

蓮の家からそう遠くない、10km


榊奈々

彼女もまた、蓮とはかなり近い。5km


無月つばさ

蓮と同じアパートで、隣の部屋


「そして、お前に一つ聞きたいことがある」


 佐藤はそう言って、テーブルの上の資料を一旦伏せると、肘をついて俺の方へ身を乗り出した。

 さっきまでの軽口とは打って変わって、どこか探るような、真剣な目つき。


「なんだ?」


「お前、Su〇caとか持ってるか?それとも、交通機関を使用した履歴が残るもの。ここから、彼女達と本当に会っているか分かる」


「どういうことだ?」


「例えば、定期的に、大量の金消えているなら、お前は春原に会っている。又は、藤堂とオタク趣味に使っているか。お前の部屋を見た感じ、自分に金はあまり使わないタイプだからな」


「なるほど!じゃあ今日、いつ金が入ってどこに使っているのか調べてみるよ」


「オッケー。じゃあ次に移ろう」


「おう!」


「といってもな、お前の彼女の家以外何も調べてないんだがな!」


「......」


「まあでも家の特定は一時間かかったぞ!まあ、俺にかかれば楽勝な単純作業だったがな」


「...お前...それ以外はずっと一人遊びしてのか...」


「いや、そうでもない!俺は思い出したんだ。一番のヒントを」


 彼の言葉は、なぜか自身に満ち溢れていた。


「ど、どうすればいいんだ?」


「お前、まだスマホのパスワードを思い出せていないだろ?だが俺は、お前のスマホのパスワードを俺は知っている」

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