第27話 だって私達は特務清掃員だよ?



 澄んだ空気と青空の元、浄・鐵也・響司は作業装甲を解除した。

響司はボランティア達が防疫ネットで覆った一画に歩み寄り、

バラの無事を確認する。


(……もう昔の面影など、

どこにも残っていないかと思っていたのに)


 響司はバラの葉に愛おしげに触れる。

紅に縁どられた深い緑色は思い出の中にもあった。

 まだ両親が元気だった頃、響司は幾度かこのバラ苑を訪れていた。

彼は生まれも育ちも東京都世田谷区であり、多摩区は狛江市を挟んだ近所なのだ。

響司が幼かった頃はまだ多摩区のデブルス被害も今より軽く、

うららかな日射しの元、色とりどりのバラが咲き乱れていた。

そよ風をほんのりと染める芳香。野外ステージから流れるバイオリンの音色。

母が買い与えてくれたアイスクリームの味。

 優しい思い出の数々は響司の心の奥に今も大切に仕舞われ、

誰にも触れさせることはなかったが……。

 

ひそかな物思いに沈む響司の背中に、浄が静かに声をかける。


「白鳥さん」

「ああ、すまないね」

 

響司は振り向き、浄と鐵也を見た。浄は言葉を続ける。

 

「バラ苑のデブルス核を駆除したのはあなただ。

約束どおり、俺はあなたに従いますよ」

「事情は聞きました。まぁ…俺も異論はないス」

「どうします?この件から手を引けというなら引きますよ」


 あれだけの駆除技術を見せられては、浄も鐵也もさすがに力量の差を

認めざるを得ず、その態度はさっぱりとしたものだった。

 

「あなたになら任せられる……秋村梨園も、このバラ苑もね」


 白鳥響司という男の特務清掃員としての力。

そして一人の人間としての優しさ。

それを自らの目で確かめられた今、浄の心に迷いはなかった。

 

 「そうか……それなら」


 響司は静かに微笑んだ。



「私も君たちの清掃作業に加えて欲しい。

命令したりされたりするのではなく……

同じ志を持つ、対等な仲間としてね」



 浄と鐵也にとって、それは意外な申し出だった。

特務清掃員の最高位・S級清掃員が指揮命令者ではなく、いち清掃員として

格下の清掃員と同じ作業に従事するなど前代未聞だ。


「どうかね?迷惑かな?」

「いや迷惑なわけありませんよ。願ってもないことですが……」

「……いいんスか?」

 

 響司はそれまでの紳士然とした態度を、さらに砕けたものに変えた。

そしてさらりと言い放つ。

 

「フフ。なんてね…実は最初からこう言いたかったんだよ」

「えぇ?」

「君たち二人の評判をよく耳にしていたものでね。

清掃大学の先輩として、一度腕試しをしたかったんだ。

まあ潔闘で君たちの優秀さはよく分かっていたので、

もう必要なかったのだけどね」

「じゃあなんでわざわざケンカ売るような真似を……」


 そこまで口にして、鐵也は嫌な予感がした。

白鳥響司は浄と鐵也を見返し、嫣然と微笑んだ。


「だって私達は特務清掃員だよ?

つまらないじゃないか。

平和にお話して、さあ仲良くしましょうなんて」



 ──なんで特スイってのはこう、血の気の多い奴ばっかりなんだ…。

鐵也は内心頭を抱えた。頭痛のタネは気圧の変化だけではない。


 ──この人とも気が合いそうだなぁ。けっこう変な人だし。

その隣で浄はのんきに思った。


 

 そんなこんなで……


S級特務清掃員・白鳥響司が仲間に加わった!!











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