魔法少女 アルケルミー

えびちり

一話「新たなる魔法少女!アルケルミー推誕!」

少し遅めのスタートダッシュ

 玄関の扉を開けると、外には緑が舞っていた。その向こうにはアスファルトの景色。

 鼻についた朝食のトーストとマーガリンの匂いが、落ち着いた街路樹の匂いへと塗りつぶされた。

 舞い散る桜も落ち着き、梅雨直前の湿り気を帯び始めた春の風が招かれるままに私の髪先を揺らす。

 そうして家の中に春風の届いた事に気づいた伯母は居間からひょっこりと顔を出した。

 それを見た私は、まだ行ってきますの挨拶もしていなかった事を思い出した。


「瑠美ちゃん、いってらっしゃい」

「……行ってきます」


 どうしてか寂しげな自分を隠しながら伯母にそう告げて、私こと『有里瑠美』は家を出た。

 ――今日もまた、変わらない一日が始まる。



 ◇



 私、有里瑠美ありさとるみ!十一月四日生まれの恋する十六歳!!

 趣味は月刊ヌゥを回し読みすることで特技は受験の為に身に着け失われた英検準二級!両親から絶えない篝火を継承した至って普通の女の子!

 少しやらかしてしまうこともあるけれど、両親から受け継いだであろう持ち前の行動力を武器にして流行の最先端を行くうらわかきJK乙女の端くれとして今日も今日とて話題の尽きない毎日を送っているの!!

 そんな私は、王子様と結ばれるその日を待ち侘びながら、今日もこの真楼市唯一の高等学府である公立真楼への道を駆ける。

 遅刻はしていない。けれど駆けているのは、何より私が恋と愛を求めている証左!

 そう、今日もまた私は王子様を求めて通学路をひた走っている。道中に存在する曲がり角は二十三。突撃される確率は極めて低い(らしい)けれど!転校生とぶつかるエンカを厳選しながら、地獄のマラソンをしているのよ!!お前ら笑うな!私は誰も知らないところで、毎日過酷なごっこ遊びをしてんだよ!お前らは毎日少女漫画ごっこで曲がり角周回して、青春してんのか?してねえ奴は笑うな!何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!!


 ……だなんて少女漫画主人公ごっこ(?)をしながら反面、もう飽きるほどに往復した、舗装されて起伏のない道と割れてざらついたものの混在するつぎはぎだらけの道を通る。

 菜の花、蒲公英、葛……ところによっては紫陽花が咲き、片道徒歩で13分程の間ではこの時期特有の春と夏の中間の色味と匂いが見てとれて、少女漫画ごっこをもう少し続けても面白かったかもしれないと心の中で後悔した。

 少し開花が遅れたのか、いつ見納めするだろう遅桜の花びらが制服の肩へと張り付いた。私にしてはやや珍しく、増幅された少女心の赴くままにそれを摘んで手に取ろうと半身を逸らしたところ、彼女が視界に入った。

 私を脅かそうと構えていたのだろうにやにやとした悪戯な笑み、音を立てないよう脚を抜き差しし背は屈めて隠れているつもりの少女。


「……バレてるから、真帆」

「……バレたかー」

「そりゃね」


 指摘した瞬間に、先程の姿勢はどこへやら堂々と私の横に並んで歩き始めた少女は掛橋真帆かけはしまほ。少し小麦色に染まった綺麗な日焼けが目に留まるものの、これでいて一点除いてインドア派。それでも人好きのする活発さの在り方は、私に時々悪戯のような構い方をしてくるところによく見えてくる。

 そんな彼女は一年生の頃から同じクラス、隣の席、同じような趣味嗜好などなど様々な共通点を抱えた、言うなれば私の親友。いや悪友か。


「いやーまいったまいった。なあんで毎回良いところでバレるかなぁ」

「今日のは偶々。……真帆も運がないよね」

「あはは、噂の"薄幸コンビ"ってやつ?そんなんじゃないと思うんだけどさー」

「それ。ただ面白そうなことに片端から突っ込んで行ってるだけなのに。欲と望みの間にアキレスと亀ぐらいの差があるの」

「追った分だけ逃げてくもんね」


 私と真帆は一年の時からその活発さと好奇心から様々な事に首を突っ込み、そして自爆してきた。

 七不思議失踪事件、文化祭革命、生徒会副会長失踪事件に携わり……ええ、そりゃもう事件解決のプロフェッショナル…………と行きたいところではあるけど、たいていの場合得られても解決のヒントだったりたまたま他の子が解決してしまったりと時節を逃してしまうのだ。それの延長でクラスの話題に挙がる面白い場面なども見逃すこともしばしば。

 そうしてついた渾名が"薄幸コンビ"。間が悪い系統の運の悪さで幸が薄いとはちと違うのではと周囲に抗議をしたものの、陽気で何も考えて無さそうな奴が幸薄めなギャップがいい、などと押し通され、数週間としない内に私達は幸薄として認識されるようになってしまった。

 これもまた幸薄。トホホって奴ですよ、マッタク。


「ま、私は真帆より運がいいから。三年になる頃にはコンビ解消バレバレ」

「シャンクスが実は左腕あるくらいの可能性しかないよそれ」

「なんだとー!?シャンクスが実はシャンク'sだったぐらいの可能性はあるでしょ!」

「ま、言うだけなら可能性はあるからね」

「それを人は無いっていうんだよ」

「じゃーコンビ解消無さそうじゃん」

「ま、それはそれで悪くない。楽しいことばっかだしね」

「ね」


 話しているうち、気付けば校門は目前に映るほどに近づいていて、その門前に立つ門番のような様相の教師が始業時間ギリギリであると間接的に表している。


「やば、遅刻したら成績に響くのに……」

「じゃあ急ご、私も実は危ないんだ」


 と、手を引いて走り出す。

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