movie.3

 九月二十日


 大学で顔を見ても、夏実はいつもの夏実だった。

 

 ビデオレターの続きは来ない。

 

 ──やっぱ悪戯なんだよ。夏実も捕まってないし。

 

 そう思いながらネットを巡回していると、メールの通知が来た。

 

 夏実のアドレスから。

 

 震える手で、メールを開く。

 

 動画ファイル──"movie.03.mp4"。

 

 俺は、本能の警句も、『好奇心猫も殺す』の言葉も無視し、ファイルを開けた。

 

 ──本物なら、通報しよう。

 

 ◆◆◆◆

 あの相方の女と夏実は、着衣で、並んで座っている。

 血塗れの、ベッドの上で。

『一彦君、見てますか?』

 俺の名を、夏実は呼んだ。

 これで、今までの動画も俺宛てだとはっきりした。

『ごめんね、もう……もう逃げられないの』

 ──何言ってんだ。

『私……もう捕まったから。この、えーっと、この人に』

 頭の中を疑問符が乱舞する。

『ごめんね……ごめん、ごめんね』

 俺は、逃げ出したいのに足が動かない。

 夏実は、『ごめん』と繰り返す。

 それしか言葉を知らないみたいに。

 俺は、無駄だと知りつつ呟いた。

「双葉さん……どうしたんだよ。その女は何なんだよ」

◆◆◆◆


 すると、インターホンが鳴った。

 

俺は、何が来たのか悟り、バットを持って玄関へ向かった。

 

ドアスコープの向こうにいたのは、やはり夏実だった。


「一彦くーん、入れて? ほら、差し入れあるよ?」

 

レジ袋を掲げる夏実。


「双葉……さん? それ、中身は?」


「お、さ、け」


 ──どうする……どうすりゃいい。


「一彦君? どした?」


「双葉さん……最近さ、悩みとかある?」


「へへっ、ばれた? 一彦君なら、聞いてくれるかと思って。ごめんね」


 俺は、つい絆されてしまった。


 まだ、暑いのもあった。今が夜だということも。


 俺は、ドアを開ける。


「ごめん、ごめんね」


 夏実の背後から、ピエロを殺した女が躍り出てきた。


「ごめんね……ごめんねごめんね」


 凄まじい握力で、女は俺の首を絞める。


 最後に目に写ったのは、無表情の夜叉。


 夏実は繰り返す。


「ごめんね……ひぐっ、ごめん、ね……」


 意識が途切れる瞬間、女が初めて言葉

を発した。


「見ナイデッテ言ッタデショ」


 <了>

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