常世の蛇──トコヨノヘビ

 "あたし"はどこからきたのだろう。

 

 くらい、じめじめしたところでめがさめたのが、さいしょのおもいでだ。

 

 "あたし"はずっとじべたをはいずりまわっている。

 

 たべるときも

 

 ねるときも

 

 ◆◆◆◆


 "あたし"は皮をぬいで大きくなる。


 大きくなって、遠くまで行ける。


 頭も良くなる。


 ◆◆◆◆


 "あたし"は何度も冬を眠りながら過ごし、大きく成長した。


 そして、春の陽の下で雄と交わった。


 雄は、"あたし"の中で果てると、すっかり弱って言った。


「疲れた」


「そう」


 "あたし"は、蟷螂のように彼を食べた。


 ──虚しい。こんな事をしてなんになるのだろう。


 腸の中で蠢く彼に、嫌悪しかない。


 ──"あたし"も……疲れた。


 翌日、彼は"あたし"の中からも消えた。


 ──生き疲れた。


 ◆◆◆◆


 生き疲れて寝ていると、幼い人の子が現れた。

 

 男の子は、"あたし"に尋ねる。


「どうしたの?」


 "あたし"は答えた。


「放っといてくれない? 疲れたのよ」

 

 彼は、持っていたパンを差し出す。

 

 "あたし"はそれを呑み込む。

 

 ──あ、これ……食べちゃいけないものだ。

 

 ──やった!! これでもう生きなくてすむ!!

 

 "あたし"は男の子に、目で精一杯の感謝を伝える。

 

 彼は、何故か怯えて逃げてしまった。


 意識が遠のく。

 

 ◆◆◆◆

 

 気が付くと"あたし"は、犬、彼、人間の赤子と共に、闇の道を進んでいた。

 

 ──安寧など……許されないのか。

 

 ──"あたし"はいい。この犬の罪は? この赤子は?

 

 ──彼など、"あたし"を救ってくれたではないか。


 更に、哀れな目をした若い人間の女も一団に加わる。


 ──罪無き者にも、苦しみだけが平等に与えられるのか。

 

 ──"あたし"はもう、考えることを止めよう。ただ、存在してしまったことを贖罪しよう。

 

 ──疲れた。

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