3
翌日、コンビニのバイトが休みなので、ゆかりは、図書館に赴き、ブラウジングコーナーで、新聞を読んでいた。一紙ずつ、特に地方欄を、丹念に眺める。
三紙目の地方欄に、目当ての記事を見つける。四日前から女性が行方不明になっている事件の続報。名前は、
最新の情報は、特に無い。警察関係者の談話が掲載されていた。
彼女は今、性的玩具を挿入され、放置されて、死にかけている。それを知る本人以外の人間は、ゆかりだけだ。
当たり前のような顔でアプリにメモし、カウンターで、文庫本を借りて、図書館を後にする。
ファミリーレストランに入り、ポテトを注文する。
卒業式の時期なので、若者が多く、喧しい。
イヤホンで洋楽ロックを聴きながら、ポテトを口に運ぶ。
曲の中で、不気味な絶叫が響く。ゆかりは思った。
──この世の平穏なんて、全部でたらめだ。綺麗に飾っても、どんな美辞麗句を語っても、人間は所詮、肉の塊だ。
──そういえば、そろそろ佐織は死んだだろうか? 拘束はしているが、這っていけば、経口補水液は飲めるようにしてあるが。
「三百二十八円になります」
「ご馳走さま」
会計して、店を出る。
ホームセンターで、椿の苗木を購入する。レジで、顔見知りの店員が
「椿は初めてですね」
と話しかけるので、ゆかりは
「ええ、知人から肥料をいただく予定なので」
と、当たり前のような顔で返答した。
近くに借りた、一軒家に立ち寄り、鍵を開ける。
靴箱の中に置いてあった、大振りの鉈を持って、地下室へ。
モーター音が響き渡る中、自らの分泌する液体にまみれて、佐織は、辛うじて生きていた。
壁にかけた、黒いエプロンをつけ、簡易照明に照らされた佐織に向き合う。涎を垂れ流し、目は虚ろだ。
「あぁ……うぁぁ……あはぁ…………ひぃっ……」
「源佐織さん?」
ゆかりは呼び掛ける。
「ひぁ……あ……」
「源佐織さ~ん」
再度の呼び掛け。
「あぁ……あ……」
「虫けら」
反応は変わらなかった。
当たり前のような顔で、鉈を背中に叩きつける。
脊髄が、音を立てて、ごきりと折れ、骨髄液と、多少の血飛沫が飛び散る。佐織は、短い断末魔を残して、絶命した。
遺体を、鉈で乱暴に解体し、台所へ運ぶ。
大鍋に湯を張り、醤油を投入する。点火。
佐織だったものを投入して、ぐつぐつと強火で煮込む。肉を煮る匂いが、台所に充満する。
ゆかりは、当たり前のような顔で、肉が骨から剥がれるのを待つ。
作業が終わる頃には、日が暮れていた。
綺麗に分離した骨を、業務用ミキサーにかけ、逢魔が刻の庭へ。
椿が一本、
二本目の椿を植え、肥料を撒く。
この物件を借りて、二回目の植樹祭は、滞りなく完了した。
物件を借りた時には、既にあった椿の蕾が、膨らんでいた。
ゆかりは、スマホのカメラで、それを撮影し、日記に載せる。
SNSに投稿しようという気は、起きなかった。そもそも、全て閲覧用の非公開アカウント──所謂鍵アカ──である。
電話帳にも、職場と不動産業者、銀行の番号しか、登録されていない。
ゆかりは、誰も住まぬ借家に鍵をかけ、当たり前のような顔で、スーパーで買い物をして、帰宅した。
遅めの夕食は、麻婆豆腐だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます