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 翌日、コンビニのバイトが休みなので、ゆかりは、図書館に赴き、ブラウジングコーナーで、新聞を読んでいた。一紙ずつ、特に地方欄を、丹念に眺める。


 三紙目の地方欄に、目当ての記事を見つける。四日前から女性が行方不明になっている事件の続報。名前は、みなもと佐織さおり。二十一歳、大学生。ゆかりのスマホに届いた、警察の防犯メールの配信内容と一致する。

 最新の情報は、特に無い。警察関係者の談話が掲載されていた。

 彼女は今、性的玩具を挿入され、放置されて、死にかけている。それを知る本人以外の人間は、ゆかりだけだ。


 当たり前のような顔でアプリにメモし、カウンターで、文庫本を借りて、図書館を後にする。


 ファミリーレストランに入り、ポテトを注文する。


 卒業式の時期なので、若者が多く、喧しい。

 イヤホンで洋楽ロックを聴きながら、ポテトを口に運ぶ。

 曲の中で、不気味な絶叫が響く。ゆかりは思った。

 ──この世の平穏なんて、全部でたらめだ。綺麗に飾っても、どんな美辞麗句を語っても、人間は所詮、肉の塊だ。

 ──そういえば、そろそろ佐織は死んだだろうか? 拘束はしているが、這っていけば、経口補水液は飲めるようにしてあるが。


「三百二十八円になります」

「ご馳走さま」

 会計して、店を出る。


 ホームセンターで、椿の苗木を購入する。レジで、顔見知りの店員が

「椿は初めてですね」

 と話しかけるので、ゆかりは

「ええ、知人から肥料をいただく予定なので」

 と、当たり前のような顔で返答した。



 近くに借りた、一軒家に立ち寄り、鍵を開ける。

 靴箱の中に置いてあった、大振りの鉈を持って、地下室へ。

 モーター音が響き渡る中、自らの分泌する液体にまみれて、佐織は、辛うじて生きていた。


 壁にかけた、黒いエプロンをつけ、簡易照明に照らされた佐織に向き合う。涎を垂れ流し、目は虚ろだ。

「あぁ……うぁぁ……あはぁ…………ひぃっ……」

「源佐織さん?」

 ゆかりは呼び掛ける。

「ひぁ……あ……」

「源佐織さ~ん」

 再度の呼び掛け。

「あぁ……あ……」

「虫けら」

 反応は変わらなかった。

 当たり前のような顔で、鉈を背中に叩きつける。

 脊髄が、音を立てて、ごきりと折れ、骨髄液と、多少の血飛沫が飛び散る。佐織は、短い断末魔を残して、絶命した。


 遺体を、鉈で乱暴に解体し、台所へ運ぶ。


 大鍋に湯を張り、醤油を投入する。点火。


 佐織だったものを投入して、ぐつぐつと強火で煮込む。肉を煮る匂いが、台所に充満する。


 ゆかりは、当たり前のような顔で、肉が骨から剥がれるのを待つ。

 作業が終わる頃には、日が暮れていた。


 綺麗に分離した骨を、業務用ミキサーにかけ、逢魔が刻の庭へ。


 椿が一本、染井吉野ソメイヨシノが二本、他にもアネモネや朝顔、シクラメン等が植えられている。二本の染井吉野のうちの一本と椿は、先住者が残したものだ。


 二本目の椿を植え、肥料を撒く。


 この物件を借りて、二回目の植樹祭は、滞りなく完了した。

 物件を借りた時には、既にあった椿の蕾が、膨らんでいた。


 ゆかりは、スマホのカメラで、それを撮影し、日記に載せる。

 SNSに投稿しようという気は、起きなかった。そもそも、全て閲覧用の非公開アカウント──所謂鍵アカ──である。


 電話帳にも、職場と不動産業者、銀行の番号しか、登録されていない。


 ゆかりは、誰も住まぬ借家に鍵をかけ、当たり前のような顔で、スーパーで買い物をして、帰宅した。


 遅めの夕食は、麻婆豆腐だった。

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