異世界転移3世、剣と現代知識で辺境の王へ

七生(なお)。

第1章 アウルの礎

プロローグ

 大森林の木々がざわめく中、俺は馬上で遠征隊を率いていた。

 王都で何不自由のない暮らしをしてきたのに、今回は何故かいきなり前線指揮官を命じられたのだ。


「ハヤト様、適当なところで帰りましょうよ。ドラゴンの出る大森林での演習なんて怖すぎるっす」

「モルト、ふざけるな。そんなことよりセリスを呼んで来てくれ」


 俺が睨むと、モルトはもふもふの狐尻尾を揺らしながら渋々といった調子でさがっていった。一言多いくせに怖がりなのは昔からだ。


「お兄様、お呼びでしょうか」

「セリス、後方を頼む」

「お兄様が無茶されないと約束していただけるのでしたら引き受けます」


 セリスは怒ったように俺を見据えた。碧眼が瞬き銀髪が風に揺れている。 

 義妹のセリスは騎士学校を首席で卒業したものの、近衛騎士団の誘いを断って俺の側から離れないのだ。


「お兄様!」

「セリスも気付いたか」

「はい」


 このとき辺りを漂う空気が一変した。森の奥から地響きと木々が折れる音がする。


 俺たちの隊が警戒態勢を取る中、そいつが現れた。


 漆黒の鱗に赤い目。ラプトルと呼ばれるドラゴンだ。

 演習のはずが、最悪の形で実戦になってしまった。


「全員下がれ!」


 俺は叫び、馬から飛び降りた。

 モルトが尻尾をピンと立てて叫ぶ。


「ハヤト様、そいつマジヤバいっす!  逃げ――」

「黙れ、モルト!  セリス、隊を固めろ!」

「お兄様、約束をお守りくださいね」


 俺は剣を抜くと中段に構えた。


「お前の相手はこっちだ。かかってこい!」


 挑発する俺をラプトルの目が捉えた。大口を開けて突進し、鋭い爪を振り上げてきた。


「ギリャリャリャ!」


 転がってかわす刹那、土と血の匂いが鼻をついた。爪と牙には血の跡。そして軍服の切れ端まで見える。どうやら他の隊も襲われたようだ。


「ハヤト様、左! 左っすよ!」

「わかってる!」


 屈んだ俺の頭上を丸太のようなラプトルの尻尾が襲った。頭上を吹き抜ける風圧に全身が痺れる。


 俺はそのまま前にはねると、剣を上段に構えた。


「チェスト―‼」


 次元流の「遠叫」が大森林にこだまし、俺は剣を鞘に収めた。

 一瞬の静寂の中、俺の背後では袈裟切りに斬られたラプトルの上体がずれ、地響きと共に崩れ落ちた。


「お兄様!」

「さすがっす~!」

「おおおっ!」


 隊の兵士たちが歓声を上げる中、俺は静かに告げた。


「全員、退却だ」


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