二章 春期限定あまんぶらん事件

第15話 春期限定あまんぶらん事件

 先日。葵から借りていた米澤穂信著『春期限定いちごタルト事件』を読んでいた時のこと。


 作中に登場し、そしてタイトルにもなっている『春期限定いちごタルト』を扱うお店の名前が〈アリス〉であり、『うへへぇ、わたしと同じ名前じゃん~!』などと往々にしてあり得る偶然に、嬉々として一人でニヤついていた時のことだ。


 ふいにスマホの通知音が鳴り、わたしは文庫本を閉じてスマホに視線を移す。

 それは、フォローしていたSNSの通知だったらしく、液晶には宣伝めいた文章が綴られ、そして画像が一枚。


「おぉ~、かわいい……」


 画像を見て、そんな言葉が口をついて出た。


「……」


 元よりミーハー気質なわたしのことだ。

『春期限定いちごタルト事件』を読んでいたことも起因していたのだろうけど。

 わたしは迷わずスマホを開き、そのSNSの共有マークをタップ。葵のLINEに転送した。


「……ええっと『これ、今週の木曜からなんだけど、学校帰りに食べに行かない? ちょーかわいいよね!』っと」

『おっけー』


 そんな簡素な文が即座に送られてくる。

 勘違いしている人も多いかもしれないが、葵はあれでいて付き合いは良い方なのだ。


 ぶっきらぼうで仏頂面で、急にいなくなったりとかする自由人ではあるけれど。彼女は基本、わたしのお出かけのお誘いは断らないし、意外とノリだっていいのである。


『ところで、私はアリスと何処になにを食べに行けばいいわけ?』

「……? ……あっ」


 よく見てみれば先ほどのSNS、葵ではなく間違えてママに共有していた。

 すると、再びスマホが振動する。


『アリスちゃんまた誤爆? アリスちゃんが定期的にLINEするのってママか葵ちゃんしかいないだろうし、そしたらこれ、葵ちゃんに転送すればいいのかな?』

「……」

『ごめんママ。絶対にやめて』

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