第4話 通り雨
「そういえばこのところ、体育館に今まで見かけた事のない人がいますね」
話を逸らすついでに先ほどの違和感を口にする。
「3年生の平川達だね、最近隣で何か活動しているよ、部室に使用中の札が出ていたし」
楓は簡単に答える。
歴史部の隣室は空室で物置として使用されていて入室は自由だ。
例外として概ね1時間以上、部屋の使用をする場合は職員室で使用者名簿に名前を書き、使用中の札を借りて部室ドアに掛けるルールになっている。
「へぇ、でも部長の知り合いですか。3年生が今から部活を立ち上げてもすぐ引退になりそうですけど」
更に衛は疑問を述べたが
「名前を知ってるだけだよ。彼らは優秀な就職組だからね。割と自由なんだ」
との、楓の答えに衛は納得した。
優秀な就職組とは何かというと、神北高校のある富福市は大手製造業の会社、工場が多数ある重工業地帯なのだ。
よって下手な大学に進学するよりも、高校を卒業して、いわゆるメーカー企業に就職した方が人生設計で有利になる場合が多い。
まして優秀な(学校の推薦で)就職となれば尚更だ。
残り少ない高校生活で青春を
衛は壁にかけられたカレンダーに部報の発表予定日を書き込みながら窓の外を見た。
野球部が守備練習に汗を流している。
「毎日、毎日、精が出ますね」
衛はグラウンドを見て眉をひそめた。
野球部の練習ルーティンはウォーミングアップ、キャッチボール、守備練習を済ませた後、打撃練習、筋トレ、ピッチング練習に分かれてトレーニング、最後に皆でグラウンド整備の流れである。
神北高校野球部は県下では中々の強豪校で人気の部活だ。
「また野球がしたい?……ごめん」
楓が言いかけてすぐ謝った。
「気にしなくていいですよ」
実は歴史部と野球部は仲が良いとは言えない。
昨年冬に野球部のバッティング練習で打ち出された大飛球が用具倉庫を飛び越え歴史部の窓ガラスを割る事故が起きた。
第二体育館の北側、つまり歴史部の部室のあたりは、グラウンドへ自動車で資機材搬入が出来るように防護ネットの設置がないのである。
その後、事故防止対策として打撃練習は午後5時以降に行うという取り決めがなされ、歴史部の窓ガラスが強化ガラスになった。
おかげで歴史部としては安全と静かさを手に入れたのだが野球部としては打撃練習の時間が制限されて面白くないのだ。
それに加えて怪我をしていたとはいえ、期待のルーキーだった衛を野球部から歴史部に引き抜いた形になっていた。
衛としては納得して野球部を辞めているのであまり気にされると困るのだが……。
「…………あれっ」
ふと窓の外の空が黒雲に覆われた。
「天気予報は晴れだったよね。最近ゲリラ豪雨とか多いし早く帰った方がいいかも、迎えに来て貰うから一緒に乗ってく?」
苦手な楓の誘いに衛は
「お願いします」
と素直に誘いに乗り、体育館内を通って二人で帰宅することになった。
そして降り出した雨は朝まで降り続いたのだった。
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