第15話 『確かめないといけない』何か

変身後、ウチはとりあえず、新しく習得していたこの変身状態でなければ使えないスキルを次々と発動させていき、効果を確認していく


しかし、そのスキル1つひとつも変身同様、今のウチのレベルではポンポンと使っていいものではなかった


結果、魔力自動回復薬の効果が切れると同時に、ウチは、昨日も感じていた魔枯症の不快感と共に、地面にぶっ倒れた


「だはー! 疲れたー、もう無理~」


ウチがそう嘆くと、膨張していた周囲の空間が縮み、すぐに元の大きさに戻った。そして、ヘファがさっきのポーションをもう1つ渡してくれた


「とりあえず、検査は粗方終わったよ。そっちも、スキルの内容を身体で理解できたんじゃない?」


「もっちろん♪」


まず、あの『変身』に使用する魔力は現在魔力の50% そして、その消費した魔力の量に応じて変身後の武装も強くなる


これなら、ウチのレベルが上がって強くなると共に『変身』した状態の強さもアップできる。いつまで経ってもこの世界では切り札で居続けてくれるだろうね


けど、そこから派生された「スキル」たちは話が別。あれらも込める魔力量で強化できそうな匂いはするけど、最低必要量が今のウチからしたら多過ぎる


フィニッシャーとしては使えるだろうけど…現実的に考えると、これらを切り札としてカウントするには、結構レベリングが必要だな~


けど今はとにかく…疲れた!


「ヘファ先輩!」


「どうしたー?」


「寝る!」


ウチはそうヘファに伝えて、その場で思考機能を停止させた眠りについた。そんなウチを、ヘファは機械の部品ベッド(?)まで運んで寝かせてくれた


ウチが眠っている間も、ヘファはウチの身体を色々と検査していた。ウチは眠っていても周囲の情報を記録できる…そういう存在だから分かっちゃうんだよね


というか、フールは途中からどっか行っちゃったけど、バーの準備でもしてるのかな?


◇◇◇◇


目を覚ますと暖かい布団の中にいた。そして、優しい太陽の光に照らされている。よく分からないけど、なんだがこの感じは心地いい…いつまでも、こうしていたい


この心地よさに包まれながら、あたしは自分の、微かな記憶に潜ってみる…あたしの名前は『アポカリプス』…気づいたときから、あの地下室に閉じ込められていた


両手と両足と首につけられた拘束具。食事は一切渡されず、それどころか自分自身の感覚自体が陽炎のようにぼやけたものだった


ある時、ここを「」と強く思った。『』と強く思った。それが何なのか、あたしには分からないけど…


やっぱりダメ。あたしの記憶は曖昧な陽炎。きっと、あたしは誰かの写し鏡のような存在…なのかも知れない。きっとそう…


『確かめないといけない』何かを追って行けば、あたしは、あたしを見つけられる。そのために…


いい感じに考えがまとまろうとしたタイミングで、あたしのお腹が「グー」と鳴った


流石にお腹が空いた。だから、1階に降りてみることにした。すると、昨日飲み物を作ってくれた方の男の人がカウンターで何やら料理をしていた


「おや? 目が覚めましたか」


「あの…お、お腹が…空い、ちゃって」


上手く喋れてるのか分からない。けどなぜか、この人を前にしても緊張しない。フールさんの表情の1つひとつが、あたしの緊張を解かしてくる


「なるほど…では、軽い軽食を作りましょうか」


フールさんは手を洗うと、手際よく野菜を切り、パンこんがりと焼き、あっという間にサンドウィッチを完成させて見せた


そして、美味しそうなサンドウィッチに見惚れて少し目を離した隙に、ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーまで出てきた


「病み上がりそうなので、軽く食べられるサンドウィッチを作ってみました。店は夕方からなので、ゆっくり食べてください」


そう言って優しく笑い、フールはカウンターに戻っていった。何やら、何通かの手紙と書類に手を通しているみたいだった


そんなフールを見ながら、あたしはサンドウィッチにかぶりついた。パンはこんがりと焼かれていたが、軽い力でサクッと食べることができた

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