第8話 異界を紡ぐ廊下
初めて使った力の反動か、未知の現象にあったからか、それともシンプルに寝不足か。ウチは頭痛と気だるさを残しながら、目を覚ました
「うぅ~…なにこれ、二日酔い?」
とりあえず、まったく同じ症状の状態を口にしつつ、ウチは頭を抑えながら立ち上がった。そして、直前までのことを思い出す
カルト君が現れて、警告をしてくれて、そしたら地面が歪な光によってひび割れて、ウチたちはそこに落っこちた
そして、目を覚ましたら…不思議な道のど真ん中にいた。道は宙に浮いており、周囲は不思議な色をしていて、様々な場所を写し出している
見た目通りに受け取るのなら、この場所は様々な世界へと繋がっている「廊下」のようなところなのだろう
流石に「物語間」を移動することはできなさそうだが…そうかなるほど、この物語のジャンルが分からない訳だ
この物語を構成する世界は1つだけではなく、いくつかのジャンル、いくつかの世界が結びあっているのだ。だから、ジャンルが混ざり合っていたのだろう
気になっていた謎の1つが解明されて、頭痛と気だるさは治ってないけど、なんかスッキリとした気分になった
「さてと…彼女、どうしよう?」
ウチは背後に振り向き、ウチの隣に倒れている白髪の少女へと目を向ける
そう…彼女は、さっきまで戦い合っていた、生命の『人』の担い手であるマユその人だった
まあ、あんだけ至近距離にいて一緒に落ちたんだから、近くで倒れているよね…
「う~ん…」
彼女はタルタロスという組織に所属していて、英雄教と同じか、それ以上の情報を持っているだろう
そして、あの場にカルト君が駆け付けたということは、カルト君はこうなることを予見していた。つまり、この場所のことを知っていた
なら、きっとこのマユちゃんも、この場所についてを知っているのであろう
そして、どうせ彼女は殺せない。なら、協力して脱出するのが1番ウチにとってはいいんだけど…
多分、カルト君も近くに落ちているだろうし、そっちと合流して彼女を放置するのも1つの手なんだよね…
ああ、でもダメだ。ウチも二日酔いみたいな状態で、カルト君も満身創痍。多分、マユちゃんも相当消費している。なら、3人協力するしかないだろう
そう結論付けて、ウチはマユちゃんを起こそうと肩を揺らす
にしても、近くで見ると本当に細い身体をしている。肌も悪い意味で色白だし、生命の化身を使っているのに、本人が生命力とは無縁な体つきをしている
体温も低いし、もう死んでるんじゃないかとも思えてくる。しかし、ちゃんと呼吸はしていた
「おーい。起きてくれないとイタズラしちゃうぞー」
そうやって起こそうとしていると、ゆっくりとマユちゃんの目が開いてきて、目を擦りながら起き上がった
「あ、起きた」
寝ぼけているのか、そう言ったウチの顔をしばらく見つめ、そしてハッと目を見開いた
マユちゃんは即座に距離を取ろうと後ろにジャンプするが、足を滑らせて尻餅を付いてしまう。そんな彼女に近づいて、ウチは手を差しのべた
「大丈夫? 寝起きって、誰でもドジになっちゃうよね。ウチも寝起きではよくドジする」
ちなみに今も寝起き状態ではあるのだけど、今は体調不要の方が勝ってドジする以前に何もするきが起きていない
マユちゃんは差しのべていた手を無視して、自分で立ち上がり再度距離を取る。そして、警戒心からウチのことをよく観察し、ウチの顔色が悪いことに気づいた
「魔枯症…?」
マユはそう呟き、少しだけ警戒心が解け、心配そうな表情へと変化した
魔枯症…頭文字からして『魔力枯渇症状』みたいなものの略称だろう。世界によっては命に関わるが…
まあ、大丈夫だろう!
マユが警戒しつつ、焦った表情でウチに近づいてきた。あれ、なんか嫌な予感…
「…あなた、このままじゃ…死んじゃう」
フラグ回収が早すぎる…と、思うかもしれないが、実際はこれでウチが死ぬことはないだろう
細かい説明は省くが、本来の力を一切使っていないからウチが消滅することはない。天使って精神体だから、肉体に宿る魔力が尽きても平気なんだよね~
まあ、肉体の感覚と精神はもちろんリンクしてるから、苦しみは共有されちゃうんだけどね
「多分平気だよ~あまり気にしないでね♪」
マユは不安そうな表情でウチを見つめる。警戒心が、さらに心配によって上書きされているのが分かる
今のマユちゃんなら一時共闘を受け入れてくれるかもしれない。そうと思ったら即行動
「ねぇ、ウチら、しばらく共闘しない?」
マユちゃんは訝しそうな顔をするが、周囲に目をやって状況を確認すると、少し考えて、答えを出した
「…利用し合う形でなら…その提案を受ける」
「やったぜ」
ウチは拳を前に突きだし、マユちゃんも優しく拳を突きだして、ウチたちは契りのグータッチをした
最終目標はこの空間からの脱出。第一目標は、多分巻き込まれたであろうカルト君との合流としておこう
「そうだ…」
早速出発しようとしたタイミングで、マユちゃんが服をチョンチョンと引っ張ってきたので振り向く。すると、マユちゃんがピンク色のポーションを差し出していた
「これ…飲んで」
「おー…毒?」
「違う…わたしそんなに愚かじゃない」
無臭だから判断しずらいが、この場面でウチを毒殺して自分の生存率を下げるような愚かな真似はしないだろう
それに、一時的とはいえ共闘しているのだから、パートナーのことは信用しなければ…
ウチはポーションを受け取り、口の中に一気に流し込む。液体が喉を通っていくのを感じ…そして…
「ふぇぇぇ…」
頭痛が治まり、代わりに妙な幸福感と夢遊感が頭の中に広がった。そのせいで、変な声を上げてしまった。表情も、かなりとろけてしまっている
「ん~…まさか、毒は毒でも○薬をくれるとは~」
「○薬違う、精神調整剤。気だるさは無くせないけど、頭痛は治まる。依存性は無い…はず、多分」
なんか不安になるようなことも言っていたが、マユちゃんの言った通り、次第に頭痛は治まり、相対的に幸福感や夢遊感も消えていった
「まさか、二日酔いを○薬で中和するとは…」
「だから○薬違う。けど…変な癖とかついてない?」
「不安になってる時点でおしまいだからね?!」
ウチは空いたポーションの瓶をマユちゃんに返す。マユちゃんはそれを受け取ると「効果があったら…それで調薬は成功だから…」と呟いた
頭痛が治まったことでだいぶ視界が広がった。思考に余裕ができたというか…まあ、爽やかになれた
ということで、今度こそ本当の出発だ。目標はボロボロなのにウチらを助けようとしてくれた、あの英雄見習いとの合流。それじゃあ~
「出発~!」
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