第5話 迷子にだけは勝てない気がする

白髪少女は、カルト君に視線を向けたが、すぐにウチ達の方に視線を戻した


「英雄教のカルトさん…あの子ほしいから、邪魔しないでほしい」


「ごめんだけど、それはできない相談だね」


カルト君は大剣を敵に向けたまま、ウチ達を庇うように前方へと移動する。そして、1枚の紙切れをこっそりと渡してきた


「悪いんだけど…その子をこの場所に連れていってくれないかな?」


「信用が欲しいんだけど?」


ウチに分かることは、今、目の前で向かい合っている2人がそれぞれ敵対している組織のメンバーであることぐらい。ウチはまだフラットな立場だ。カルト君側に協力する道理はないし、この子がどういう存在なのかも分からない…


判断するには「情報」が必要になる。今、最も必要なものは間違いなくそれだ


「ごめん、信用してくれる説明…今は無理かな。だから、君という冒険者に『依頼』として頼めるかな?」


「依頼っすか~?」


ウチは、ノリで変な口調で聞き返した。なんとなくやった…他意はない


「報酬は「情報」でいいかな? 必要なものだろ?」


このイケメン、的確にウチの欲しているものを報酬にしてきた。これで、断る理由はなくなった…カルト君交渉うまい…


「了解、その依頼を引き受ける。だから、そっちも足止め頑張ってね」


ウチはカルト君に健闘を込めたウィンクを送り、少女の手を取り駆け出した…


それを見て、カルト君は安心からか笑みを浮かべる。あの少女はカルト君側に渡ってしまった、それでも白髪の少女は無表情のまま、悔しがることもしない


「カルトさん…あの子追いかける…そこをどいて」


「さっきも言ったけど、それはできない相談かな」


「カルトさんじゃ、わたしには…勝てない。中途半端な英雄じゃあ…死ぬよ?」


白髪の少女は淡々と言葉を発していたが、最後の「死ぬよ?」の部分だけは、少し悲しみが混じっているように感じられた


よく考えてみれば、白髪の少女はずっと「警告」をしてくれていた。それは、極力相手を傷つけたくないという思いがあったからなのだろう


「心配してくれるのは嬉しいんだけど、末席とはいえ俺は『英雄教』としての誇りはあるんだ」


カルト君が大剣を構える。すると、大剣に掘られている変な紋様が僅かに輝き、大剣の形が微かに変化した


「それに、時間稼ぎぐらいなら、俺でもなんとかできるだろうからね」


カルト君は、自信げに、けれどどこか優しさが籠っている顔でそう言った


白髪の少女は「そう…ですか」と呟いた後、ため息を吐き、背中から2つの白の巨腕を生やす


「…わかった。『白の幹部』であるマユが…相手。半端な英雄は…常に全力を出さないと、時間稼ぎでも…死ぬよ」


白髪の少女…マユから発されるオーラは虚無のような深淵のような灰色。しかし、マユの背中から生えている巨腕から発せられるオーラは違う


殺すことなど不可能と思えるほどの、圧倒的で絶対的な生命の息吹が、巨腕から発せられていた


少し見ただけで分かった…あり得ないことだと思考が弾いたが、間違いない


ほんとまじで健闘を祈るよ…カルト君


◇◇◇◇


目的地に向けて路地裏を進んでいたウチは、1つ、ある事実を口にした


「迷子になった!」


言葉の通り、ウチ達は迷子になった。また、迷子だ


だけど仕方ないじゃん。ウチ、この王都…というか、この世界に来てまだ1日ぐらいしか経ってないんだよ


王都と言うだけあって物凄く広いし、ここにきて速攻で冒険者協会に行って、迷子になりつつ森に直行したから、王都のマッピングはまったくできていない


そして、残念なことに、謎のフードちゃんも幽閉されていたらしく、王都の土地勘は皆無らしい…


(これなら、ウチが足止め役の方がよかったのかも…)


そんな後悔を掻き消すように、大量の鎧の揺れる音が大通りから聞こえてきた


裏路地からちょこっと顔を出して、大通りの方を確認する。やはり、異変を嗅ぎ付けた兵士達が、さっきのあの場所に向かっていた


ところで、カルト君の所属している『英雄教』という組織はどういう立ち位置なのだろうか。対立していた『タルタロス』は間違いなく非合法組織だろうけど…


まあ、とにかくウチは頼まれた依頼をこなすだけ。まあ、現在進行形で雲行きが怪しいんだけど…なんとかなるでしょ


そんなノリで再度路地裏に戻り、地図を確認しながら奥へ奥へと向かっていくが…結果的に迷子が更に悪化した


「ごぉごぉどぉこぉぉぉぉ!!!」


ウチはそう叫んで、膝から崩れ落ちる

どれだけ経験豊富でも、どれだけ内に強さと記録を残していたとしても、迷子にだけは勝てなかった


「あの、その…えっとえっと…(アワアワ…オドオド)」


フードちゃんはどうしたらいいのか分からず、アワアワ、オドオドとしていてなんか可愛い…


しかし、可愛いだけじゃダメなんです。可愛いはすべてを解決できるけど、ド深夜での迷子はどうにもできないのです


そう思っていたけど、なんとなんと、そんなウチ達2人組に、救いの手を差し伸べてくれる人が現れた


「あの…大丈夫ですか?」


ウチは膝から崩れ落ちて、今は大地を見つめていたので、声をかけてくれた人の顔は見えてないが、どうやらフードちゃんの方に声をかけたらしい


「あっ…その…迷子になってしまって」


「迷子ですか? よければ案内しますよ」


「あ、ありがとう…ございます」


声色で分かる。フードちゃんは自身がないタイプの子なのだろう。声がキョドっているから分かる


そんなこと思いながらも、話はついたみたいなのでウチは手に持っている目的地の書かれた紙切れを、案内してくれる人に渡すために立ち上がり、顔を上げた


「あれ?」


「え?」


ウチはこの世界にやってきて1日程しか立っていない。そのため、知り合いも2人しかいない


1人はカルト君。そして、そのもう1人が目の前に立っていた…


「え? ラルフェルさん?!」


「あれ? 受付嬢ちゃんじゃん?!」


そう…声をかけてくれたのは、この世界での第一知人…冒険者協会の受付嬢ちゃんだった

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