第14話:戦闘の激化

# 第14話:戦闘の激化


  夜明けの光が地平線から差し込み始めた頃、遥は崩壊した中枢施設の瓦礫の前で紫水晶の指輪を握りしめていた。その横でグレイブスが「ここが次元の境界点だ」と静かに言う。


  「零時さん、リヴァイアス…私の声、届いて欲しい…」


  遥の切なる声が響き、紫水晶から青い光が広がった瞬間、地面が激しく震え始める。


  「侵入者を排除せよ!」


  鋭い叫び声と共に、瓦礫の向こうから黒い制服の集団が現れた。境界評議会の残党——彼らの手には共鳴魔法で強化された武器が握られている。


  「評議会長、貴方の裏切りは許されません」部隊長の声が冷たく空気を切り裂いた。


  グレイブスは遥の前に立ちはだかり、黒い手袋を脱ぎ捨てた。その手には紫色の共鳴回路が浮かび上がる。


  「遥、私が彼らを食い止める。君は零時とリヴァイアスを感知することに集中するんだ」


  「でも…」


  「心配するな。完全なる秩序を追い求めた男が、最後に何をすべきか——それは自分で決める」


  グレイブスの両手から紫色の魔法陣が展開し、「共鳴波動」の一撃が敵の第一陣を吹き飛ばした。


  遥は一瞬で決意を固めた。「私も戦うわ!もう誰かの後ろに隠れたりしない!」


  彼女は紫水晶を握りしめたまま、青い光を纏って敵の感情を読み取った。


  「右側の二人、恐怖で足がすくんでる!左の男は怒りに任せて突進してくるわ!」


  グレイブスは即座に対応し、左からの攻撃者に魔法を放つ。相手の勢いを利用して他の敵にぶつかるよう仕向けた瞬間、完璧な連携が生まれた。


  「後方から強化部隊が来るわ!」遥の声が緊迫感を帯びる。「そして…何か別のものも…この感覚、恐ろしい!」


  実行部隊の後方から紫と黒の混沌が人型に近い形を取って現れた——次元の歪みが具現化したものだ。


  歪みの具現化は瞬く間に動き、実行部隊の一人を捕らえた。男は悲鳴を上げる間もなく、体が光に溶け込むように消えた。


  「遥、紫水晶を!」グレイブスが叫ぶ。「あれは次元の歪み自体だ。指輪ならその動きを制御できる!」


  遥は震える手で紫水晶を掲げた。「どうすれば…」


  「感情を込めるんだ。エレナの想いが、その中に宿っている」


  彼女は目を閉じ、零時とリヴァイアスへの思いを指輪に注ぎ込んだ。紫水晶が鮮やかに輝き始める。


  「感情…それは共鳴の源」


  歪みの具現化が唸り声をあげ、遥に向かって突進してきた。グレイブスが間に入ろうとするが、実行部隊の攻撃で足止めされる。


  「遥!」


  恐怖で足がすくむ瞬間、遥の心に二人の声が響いた。

  「論理的に考えろ、恐怖は判断を鈍らせる」

  「冷静さを保て、敵の動きには必ず法則性がある」


  「私は恐れない!」遥の声が力強く響き渡る。「もう二度と大切な人を失わないわ!」


  彼女の中から湧き上がる決意が紫水晶と共鳴し、青と紫の光が交差するように広がった。その光は歪みの具現化を包み込み、その動きを一瞬で止めた。


  「グレイブスさん、今よ!」


  グレイブスは実行部隊をかわしながら、魔法陣を展開した。「次元封印!」


  紫色の魔法が歪みを包み込むが、完全には消えない。「力が足りない…」彼の顔に苦痛が浮かぶ。


  遥は躊躇なくグレイブスの側へ駆け寄り、彼の腕に手を置いた。「私の感情を使って!一緒に戦いましょう!」


  彼女の感情共鳴が魔法を増幅させる。グレイブスの瞳が驚きで見開く。


  「なんという力だ…」


  紫色の光が輝きを増し、歪みを完全に包み込んだ。苦悶の声をあげた後、歪みは小さな結晶となって地面に落ちた。


  残った実行部隊は恐怖に震え、徐々に後退していく。


  「評議会長…あなたは本当に…」部隊長が震える声で言った。


  「私はもう評議会長ではない」グレイブスは静かに答えた。「ただの、娘を救いたい父親だ」


  敵の気配が遠ざかり、戦場には静寂だけが残った。遥とグレイブスは息を切らしながら、かすかに笑みを交わす。


  「あなたの力、凄いわ」


  「いや、君の力こそ驚異的だ」グレイブスの目に涙が浮かぶ。「君のような人間がいれば、私の娘も…」


  遥は静かに彼の肩に手を置いた。「必ず、エレナさんも救いましょう。約束するわ」


  彼女は地面に落ちた結晶を拾い上げた。内部には次元の狭間が映し出され、かすかに二つの影が見える。


  「この結晶は次元の断片だ」グレイブスが説明する。「歪みを封じ込めたことで、一種の窓が開いた」


  遥が結晶を紫水晶に近づけると、二つが共鳴し始め、その間に小さな光の窓が現れた。そこには霧のような空間を彷徨う零時とリヴァイアスが映っている。


  「零時さん!リヴァイアス!」


  二人は振り返り、遥の方を見た。声は聞こえないが、彼らの表情が明るく変わる。


  「戻る方法がある」グレイブスの声が決意に満ちていた。「サンドリアの魔法評議会本拠地に強力な魔法装置がある。それを使えば、次元の窓を開き、彼らを引き戻せる」


  「行きましょう」遥の瞳には迷いがなかった。「一刻も早く」


  彼女は最後にもう一度、結晶の中の二人を見つめた。「待っていてね。絶対に迎えに行くから」


  結晶からかすかに二人の声が届いた。


  「次元の境界が最も薄い地点を特定した。ここで待機する」零時の冷静な声。


  「無理はするな。我々は持ちこたえる。計画的に行動を」リヴァイアスの落ち着いた声。


  朝日が完全に昇り、新たな光が二人を包み込む。サンドリアへの道は険しいだろう。しかし、遥の心には揺るぎない意志だけがあった。もう一度結晶と指輪を胸に抱き、彼女は立ち上がった。


  本当の戦いは、これからだった。

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