#06 脱出



 15分程で近藤ミヅキが準備を終えて大きな旅行用のキャリーバッグを持ってダイニングに戻って来たので、部屋を出る為の確認を始めた。


「一旦、僕が志村さんの部屋に様子見に行って、男が戻って無いか確認してこようか?」


「それなら大丈夫。いま駐車場に車無かったから、まだ帰ってきてないはずだよ」


「そう言えば、近藤さんは車持って無いのは知ってるけど、志村さんも車無いの?」


「その志村さんの車を男が使ってるのよ」


「なるほど。それもいつか取り戻さないとか・・・」


「そんなことより、早く出た方が良いよね。志村さん、立てるかな?」


「うん・・・でも、本当に良いのかな・・・カツヤくんに後で怒られちゃうよ・・・」


「そうならないように私と柏木くんで守るから。今は、自分の体を大切にしよ?」


「・・・うん」


「よし、まずは僕が荷物持って僕の車まで先導するから、近藤さんは志村さんを連れて付いて来てくれる?」


「うん、分かった。もし、途中で男が帰ってきたら、直ぐに合図するね」


「了解。志村さんの荷物はそれだけ?」


 志村アキコを確認すると、バッグなどは無く両手で財布だけを握りしめていた。


「うん」


「スマホは?」


「こ、近藤さんに言われて、部屋に置いたままで・・・」


「GPSで居場所バレると思ったから」


「確かに」


 荷物などを持って一旦玄関まで移動して、「僕が出て安全か確認するから、合図したら出て来てね」と言って玄関から出ると周囲の様子を見渡して、「今なら大丈夫」と声を掛けると先に志村アキコから出てきて後から近藤ミヅキが出てくると、通路の壁にある扉を開けてガスの元栓を閉めてから玄関の施錠をした。


「よし、行こう」


「うん」


 二人の顔を見て僕が声を掛けると、近藤ミヅキは返事をして頷き、志村アキコは無言で頷いた。


 音を鳴らさない様にキャリーバッグは両手で抱えて通路や階段を歩き、路駐したままの車まで辿り着くと急いでキーを取り出して後部のトランクにキャリーバッグを放り込み、後部座席の扉を開けて二人を乗り込ませて、最後に自分も運転席に乗り込み、エンジンをスタートさせた。



「どこですれ違ったりして見つかるか分からないから、二人とも伏せて隠れてて」


「うん、分かった」


 二人が伏せたのを確認すると、サイドブレーキを解除して発車させた。

 来るときよりもゆっくりと安全運転で走る。

 車中では誰も言葉を発せず黙ったままだった。

 3人とも緊張だったりこれからの不安だったりで冷静じゃなかっただろうし、暢気にお喋りなんてしてる余裕は無いのだろう。


 途中で赤信号で止まる度に、見つかったりしないだろうか心臓がドキドキしていた。

 考えてみれば、僕のこれまでの人生に於いてのトラブルなんて、結婚を考えてた恋人に捨てられたことくらいで、志村アキコの今の境遇に比べたら全然大したことじゃない。

 先程近藤ミヅキに呼び出された時だって動揺はしてたけど、まさかこんな厄介なトラブルだなんて思ってもみなくて、誕生日のサプライズとかアホなことを考えてたくらいだ。


 それにしても、なんて不幸な誕生日なんだろうか。

 二人を恨むつもりはないけど、どうしても巻き込まれてしまった理不尽さは拭い切れないな。いつか解決することが出来たら、二人に文句言ってやろう。


 

 15分程で自宅アパート付近まで来ると、少し手前で路駐した。


「もう着いたの?」


「いや、念のために自宅の少し手前で路駐してる。もし尾行してる車とか居たらこのまま自宅に直行するのは不味いと思うし、ここで少し様子見るね」


「うん、分かった。 柏木くんってこういう経験あるの?なんか慣れてるよね」


「いや、全然。こんなトラブル、25年の人生で初めてだよ。昔、アニメだったかドラマだったかでこういう場面を見たことあったんだよね」


「ふーん。男の人って、みんなこんな感じなのかな?」


「さぁ?そんなことは無いんじゃないかな?僕だってこんなことが無ければ、尾行の巻き方なんて思い出すことも無かっただろうし」


 近藤ミヅキと二人で会話をしながら様子を見ていたが、尾行しているような車などは確認出来なかったので車を発車させて、今度は自宅アパートの駐車場に車を停めた。


 まずは僕が降りて周囲を確認してから「降りて大丈夫そうだよ」と合図をして、後部のトランクからキャリーバッグを降ろして、二人を案内しながらエントランスに移動してエレベーターに乗り込んだ。


 5階のボタンを押して扉が閉まると、近藤ミヅキと二人同時に「ふぅ~」と大きなため息を吐いた。やっぱり僕だけじゃなく近藤ミヅキも相当緊張していた様だ。

 

 5階に到着すると先導するように自室の前まで案内して、ポケットから鍵を取り出して玄関扉を開けて中へ入る様に促し、念のために周囲を見渡して警戒してから最後に入り、直ぐに施錠してチェーンも掛けた。


「遠慮せずに上がって。多少散らかってるのは我慢してね」


「うん。お邪魔します」

「おじゃまします・・・」


 なんとか無事に僕の部屋まで避難することに成功した。

 時計を見ると22時を過ぎてて、最初に近藤ミヅキから電話を貰ってから、2時間以上経過していた。



 


 

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