第2話 直美のマンション

 一人暮らしも気楽でええけど、誰かおるっちゅうのは、寂しくなくてええね。あの夜はミキちゃんと二人で料理したんや。彼女は和食作るのがうまかね。たまに、うちの部屋に泊まりよったけど、煮物とか家庭料理が得意やった。


 でも、今晩はイタリアンにしようかね。ありあわせの材料しかなかとよ。うちは洋食の方が得意なんや。


 冷蔵庫を漁ってみた。バジルとパセリ、トマトがあった。オイルサーディンとカッペリーニもあったよ。カッペリーニはイタリアそうめんやね。直径が0.9ミリやけん、茹で過ぎに気をつけんと。茹で過ぎるとベトベトになるんよ。最近は茹でんと。ソースパンに水入れて沸騰させたら火を止めて、そこにカッペリーニを投入。本来の茹で時間が2分やけん、茹でない場合は3分半から4分くらい。時々アルデンテになっとるか噛んで確かめる。うん、3分半やね。茹でないけん時間が経ってもベタつかん。表面が乳化せんからかな?麺を取り出したら氷水でよう冷やす。


「へぇ~、直美さん、茹でないんやね?」

「普通の麺は直径1.6ミリから1.9ミリで、茹で時間が12分とかでアルデンテやろ。カッペリーニは0.9ミリやん?茹でても2分なんよ。ちょっと過ぎると茹ですぎになるけん。沸騰したお湯にポンと入れれば、徐々に温度が下がるけん、分量によって3分半から4分。時間的な余裕があるっちゃね。それに、ベタベタせんよ。温度が低い分、乳化が止まるからかもね」

「そぉか!0.9ミリで3分半から4分なんや。じゃあ、直美さん、0.01ミリは何秒やろ?」

「…あんた、まだそげなこと言っとるね」

「0.01ミリ、次、いつ使うんやろね?」って言うてくる。

「おい、思い出すけん、やめてくれ!」

「あら?思い出したん?そやね、まだ最後やってから16時間くらいしか経っとらんもんね?」

「ミキちゃん、やめてくれ!変なこと言わんで、お皿出してくれんね」ちょっとまた、ジンジンしてきた。


 ニンニクとオイルサーディン、パセリ、バジルのみじん切りを軽く炒める。冷やしたカッペリーニに八等分したトマト、ちぎったパセリとバジルを散らして、炒めたオイルサーディンをかける。ペッパーを少々。ミキちゃんが出してくれたお皿に盛り付ける。冷製カッペリーニやね。ワインがあったけん、それも一緒に出した。


「お!うまか!」って彼女。パスタをフォークでクルクル回して口に放り込む。

「まあ、お手軽料理やけん、こんなもんよ。今度はあんたの和食を食べさせてね」

「うん、和食は目つぶっとってもできちゃうけんね」

「うちも習おうかな」


 寝場所を決める。うちのソファーはソファーベッドにもなるけん、彼女はそこで寝ることになった。自分のベッドに潜り込んで、一昨日から起きたことを反芻した。彼がうちのお店に来て、ミキちゃんがとんでもないこと言い出して、二人でフェリーで大阪に行っちゃって、うちは…


 あれ?ミキちゃんが羨ましかったんかな?何か起これって念じたんやろか?でも、うちがストーカーみたいに追いかけんかったら、美術の話にもならんかったと思う。それで、ミキちゃんは彼とエッチィして、大阪で別れて、こっちに帰ってきて、またプーに戻ったんかもしれん。そげな考えると、うちのとった行動は、結果的にみんなハッピーになったんかもね。なんて考えよったらウトウトしてきた。


 ゴソゴソとベッドに潜り込んでくるヤツがおる!おい!


「直美さん、あれこれ考えて眠れん。ちょっと添い寝してええね?」

「添い寝だけやけんね!あっちの方向に目覚めんでよ!」

「あっちってどっち?」

「レズやん!」

「え?直美さん、したいん?」

「せんよ!」


「あのさ、直美さんが大阪までうちと明彦を追いかけてきてくれんかったら、どうなっとったかな?って考えちゃって。国立国際美術館にも行かんかったやろし、うちと明彦だけやったら、美術の話なんかせんかったやろね?そしたら、うちは彼とエッチィをリーガロイヤルホテルでいっぱいして、一人で新幹線で小倉に帰ってきて、今頃は漫画喫茶で寝とるんやないかと思ったんよ。それが直美さんが来てくれたおかげで、カイロス神の前髪を掴めて良かったなあって。もしかしたら、直美さんがカイロス神やったんかもしれんね?」


「うちはつるっぱげやないよ。でも、そやね。うちがストーカーせんかったら、ミキちゃんの言う通りで、ミキちゃんは彼に抱かれて、まあ、満足、ちょっと寂しいけど、一期一会で、サヨウナラ、ってことになったやろね?って、あんた!添い寝やろ?何、抱きしめとるん!脚を絡ませんでくれ!」

「これも添い寝やよ」

「いやいや、そげなつもりでここに住めばって、言ったわけやないよ」

「でもさあ、昨日から今日のことを思い出しちゃったんよ。彼とだけやなくて、直美さんともいっぱいエッチィ、したやん?」

「ああ、ミキちゃん、ダメやけん…」

「今、キスしたら、カッペリーニとワイン味やね?」


 あ~、ダメ!体が勝手に動く…うちもミキちゃんを抱きしめてしもうた…あ~あ。

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