第9話 待ち時間の会話

 昔、うちの近所に、ものすごーーーーーい美味しい天重を提供してくれるお店があったのです。

 何やさんだったんでしょうね? 天ぷらやさんだったのかな。

 もう、今では記憶も定かではないのですけれども。

 ご夫婦でやっていらしたのですが、残念ながら旦那さんが倒れてしまったらしく、お店は閉店に。

 とてもとても、美味しい天重だったので、月いちくらいで、家族で食べに行っていました。

 その頃は祖父母も健在でしたので、家族5人で。


 だがしかし、です。


 その、ものすごーーーーーい美味しい天重。

 提供されるまでの時間も、ながーーーーーーい、のです。


 祖母は面白い人だったので、待っている間に


「ねぇ、今何が一番食べたい?」


 なんて、話し始めるのですよ。お店の女将さんが側にいてもお構いなく。

 母も祖母の話に乗って、


「う~ん、お寿司かな」


 なんて答えて、わたしも


「ラーメン!」


 なんて、ね。

 みんなお腹が空いているので、食べたいものなら次々と出てくるのです。

 ところが、祖父は結構『気にしぃ』なので、


「そんな話するなっ!」


 なんて怒り始めたりして。

 怒られたんで、祖母も話題を変える訳ですよ。


「ねぇねぇ、今海老捕まえに行ってるのかな」

「うん、なかなか捕まえられないのかもね」

「海老ってどうやって捕まえるのかな」

「釣るんじゃない?」

「ていうかさ、お米を刈り取りに行ってるんじゃない?」

「え? そこから⁉」

「さすがに精米からで良くない?」


 なんて話をまた、女3人で延々と。その横では、祖父と父が苦い顔をしていたりして。

 そんな中、女将さんもわたしたちの話を聞きながら時々クスクス笑っていたとか。


 いやぁまぁ、本当に、待ち時間が長った訳ですよ。

 でも、それを待ってでも食べたいほど、美味しい天重でした。

 もう食べることができないのが、残念でなりません……

 待ち時間も含めて、良い思い出です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る