桜色の記憶より

hekisei

第1話 回想

 最初に出会ったとき、あいつがこんなに深く俺の人生に食い込んでくるなんて、思ってもみなかった。



「お前、名前とかあるの?」


 オレの問いに、目の前のロボットは小さく首をかしげたように見えた。

 でも、たぶん気のせいだ。

 こいつに首なんてなかった。


「型番で呼ぶのも味気ないよな? よし、お前は『ルネア』だ」


 ちょうど窓の外に喫茶「ルネア」の看板が見えた。

 だからルネアという名前。

 何のヒネリもない。


 しかし、それがすべての始まりだった。


 その日、桜が咲いていた。

 校庭の片隅、たまたま誰もいなかったあのベンチで、オレはそいつと初めて写真を撮った。


 自撮りしたスマホの画面には、屈託なく笑う高校2年生のオレと、横で明らかに戸惑っている無機質な姿のそいつがいた。

 偶然、後ろに喫茶「ルネア」の看板が写り込んでいる。



 あのときオレは笑っていた。

 未来になんの不安もなく。


 ルネアは黙っていた。

 でも、今ならわかる。

 あいつには最初から最後まで見えていたんだ、と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る