第28話 ブラコンと振り返る大惨事の飲み会

「おはよう。無事生還できたようでなにより」


 大惨事の飲み会を終えた次の日の朝。僕は、リライヴェッジ研究所の検査室に爽やかに入ってきたアンデッドに隈だらけの胡乱気な眼差しを向けた。


「アンデッドにその声掛けは適当なんですか?裏切り者さん」

「言ってる俺もアンデッドだからいいんじゃないか?あと裏切ってない。逃げただけだ」

「つまり裏切りじゃんか……」


 今日も今日とて白衣を羽織るロイドが、机の上のパソコンを立ち上げながら別のタブレットを操作し始めた。


「睡眠時間2時間12分ねえ。生後三日で朝帰りを覚えるとはお前さんワルだな?」

「生後三日を酔っ払いと一緒に置いて逃げた奴が何を言ってる……っ!」


 クツクツ笑いながらプライバシー侵害ベッドもとい最先端睡眠計測ベッドの記録を眺めるロイドに、僕は隈の残る顔でガルルッと唸った。



 昨日は本当に酷い目にあった。


 ベルの知り合いの店を(うるさくしすぎたせいで半ば追い出されるように)後にした僕らは、と言うか僕は、べろんべろんに酔っぱらったベルに捕まってズルズルと2軒目、3軒目へと強制的に連行されたのだ。

 それだけならまだしも、僕の制止も聞かず飲み続けたせいで前後不覚状態にまで酔っ払ったベルは、何を思ったのか突然個室でもない3軒目の店で変装を解いたのだ。

 当然ベルの美貌を目にしたモンスターが大挙する事態になり、僕らはファンやらなにやらに追い回される羽目になった。


 財布を持っていないためにベルを置いて逃げる訳にもいかず、ベルを抱えた僕は涙目で過激なファンやらパパラッチやら誘拐犯やらからベルを守り抜きながらアルバストスを走り回り。

 全くあてにならないベルの道案内のもとなんとか彼女の住むマンションまで辿り着いたはいいものの、部屋で待機していたベルのマネージャーさんにベルとの関係を尋問のごとく詰問され。

 ようやく解放された時には朝日が昇っていたという訳だ。あの悪酔いラミア絶対許さん。


 一応ロイドが僕のマギホにベルの家からリライヴェッジまでの道順を送っておいてくれたお陰で何とか帰ることができたが、多分それが無かったら僕はまだアルバストスを彷徨っていたと思う。

 しかし感謝はしない。何故ならこの鬼畜アンデッド、2軒目の店までは着いて来はしたものの途中で抜け出し僕を生贄に帰ったのだ。「明日9時には検査するからちゃんと帰って来いよ~」とだけ言って忽然と姿を消しやがった。


 しかもその後モンスターの大群に追われる僕が何度もメッセージで助けを求めたのに全部無視しやがったのだ。いくら深夜だったとはいえ酷すぎる。

 ようやく返ってきたと思ったら、スケルトンが「お休み中です」って言ってる謎のスタンプだけだった僕の怒りが分かるか?「僕も休みたいわ!!!」って思わず誘拐犯さんを背負い投げしてもうたわ。


 ちなみにミモザは場酔いで潰れたので1軒目の店を出た後すぐに魔導タクシーで強制送還されました。そして今も寝込んでいるという。何飲んだのマジで。




「にしても、あんなに飲んだのに全然酒残って無さそうだな。俺がいなくなった後もどうせしこたま飲まされたんだろ?元々そういう体質か?」

「ええ、ええ。誰かさんが助けてくれなかったのでしこたま飲まされましたよ。……でも言われてみればちょっと強すぎる気がする。ニンゲン時代もそこそこ飲める方ではあったと思うけどここまでではなかったかも?」


 検査の準備を始めるロイドの問いに首を傾げる。確かにニンゲンの時に昨日の量を飲んでいたら流石に次の日に残っていたと思う。


「んー……『修復』の力が働いてるのかな。エネルギーが体を常に万全な状態にしようとしているのか……」

「え、その理論だと今後僕一生酔えなくない?」


 常に解毒リジェネが掛かってるってことだよね?それお酒飲む醍醐味消えない?この身に宿るエネルギーの相変わらずのとんでも効能に戦々恐々とする。


「まあいいや、それはおいおい検証しよう……とりあえず検査始めるか。はい、腕出してー」

「げ、採血から?やだなぁ……」

「文句言わない。あと血じゃなくてエネルギーな」

「はいはい……」


 注射器片手にいい笑顔で振り返ったロイドに、僕は渋々と左腕を差し出すのだった。







「……僕、パーシーに会いたい」


 検査を終え、訓練室での訓練も終わった午前11時頃。


 昨日に引き続きバッチリ魔力枯渇まで絞られぶっ倒れた僕は、おにぎり二個によってようやく力が入るようになってきた体を起こしてそう呟いた。

 ちなみに今日の訓練メニューも昨日と同様鬼ごっこだ。しかし今日は昨日とは違い、魔法の制御訓練も兼ねたスペシャル鬼ごっこである。

 妨害役のスケルトンは燃やしてOK、逃げる役のスケルトンはリボンだけなら燃やしていいというルールの下行われたスペシャル鬼ごっこは、最終的に僕のウルトラバーニングシュート(本当に燃えている)によって僕の勝利で幕を閉じた。


 まあその過程で10回くらいリンチにされたし、バックドロップも13回くらい食らっているのだけれども。そろそろ首の骨折れそう。一体執拗に僕の背中を取ろうとするスケルトンがいるんだ……勿論消し炭にしてやりましたが。


 お陰で昨日は自分の体の周りに浮かべることしかできなかった炎も、一個だけなら遠隔操作で飛ばせるようになった。目に見える成長が嬉しい。


 そして昨日僕を怒らせ強制鬼ごっこの刑に処されたロイド先生はというと、昨日の二の舞にならないように骨で作った超高層椅子から僕の訓練を監督していた。

 地上数メートルの高さの椅子ってもうそれ櫓とかそういう系の建造物だと思うよ先生。

 文字通り高みの見物を決め込んでいた先生のドヤ顔が忘れられない。彼をいつか引き摺り下ろすのが僕の目標です……!


 設定した目標の達成に燃える僕の呟きに、隣でおにぎり片手に訓練記録を見返していたロイドはパチリと目を瞬いた。


「パーシー?……まあ今日は1日家にいるって言ってたと思うけど。でもお前さん寝なくていいのか?徹夜みたいなもんだろ」

「もうここまで来たら起きてるよ。今寝たら睡眠サイクル終わるし……」


 全力鬼ごっこのお陰で眠気はもう飛んでいる。こうなったら夜までちゃんと起きていた方がいいだろう。

 もはや徹夜ハイみたいなテンションでVサインをロイドに向けると、「ああそう、若いから元気だな……」となんか眩しそうな目で見られた。

 ロイドっておじいちゃん扱いもおじさん扱いも嫌がるくせに、自分からおじさんムーブするときあるよね。滲みでちゃうのかな……。

 実は僕とそこまで年齢離れていないと昨日ベルから聞いたのだが。


「家にいるなら丁度いいじゃん。紹介してよ」

「別に構わないけど……なんだ、やけにパーシーに会いたがるな。……まさかお前さん、パーシーに惚れてるとかじゃないだろうな……?」

「ちちちちちがわい!」


 据わった目で見つめられて背筋が寒くなる。ロイドの手に握られたマギホがミシッと嫌な音を立てているのが聞こえた。な、なにを想像してやがるこの弟のガールフレンド絶対許さないブラコンアンデッド!


「昨日アジェルは遠征中でしばらく留守にするってミモザが言ってたから!パーシーはまだ王国魔導士団の内定もらっただけで入団はこれからでしょ!?なら時間取りやすいかなって思っただけ!何かしてないと落ち着かないんだよ!」


 何故か必死になって言い募る。昨日の飲み会で話が出たのだが、パーシーの正式な入団はこの秋になるらしい。ならば今の時期はそこまで忙しくは無いだろうと踏んでの打診だった。

 疑念を向けてくるロイドも、その説明にようやく落ち着きを取り戻したようだ。いつもの冷静な研究者の目に戻ってほっとする。


「……まあそれもそうだな。とりあえず連絡してみるか」


 白衣のポケットからマギホを取り出したロイドだが、しかしメッセージを打ちながら眉を顰めて唸っている。

 まさかどう切り出せばいいか分からないのだろうか。そんな思春期の娘を持つ父みたいな……とちょっと憐れんでいたが、どうやら違うようだ。


「どしたの?」

「いやさあ……パーシーってな?本当に素直で可愛くて可愛くて可愛い奴なんだが、いかんせん素直すぎるんだよ」

「ブラコンが前面に出すぎてパーシーが可愛い事しか伝わらんな。素直だとなんかまずいの?」

「んー……お前さんと会わせるのは別にいいんだけど、ニンゲン云々の話はまだしない方がいいと思うんだよなぁ。多分大騒ぎするし、もしかしたら卒倒する」

「ええ……」


 それは流石に言い過ぎではと言いかけるが、しかし『リリィの聖剣』におけるサーシャとパーシーの初対面イベントを思い出した僕は思わず口をつぐんだ。


 そう、それは物語最序盤。『緑の都市』ウェルデの領主へと都市間サミットの開催を告げる使者の任務をベルリアナと共に終えた直後のことだ。

 ウェルデの治安維持隊である憲兵隊より、ウェルデ領主とパーシー、ベルリアナの元に『ニンゲン発生』の方が届いた。

 憲兵隊に確保されたニンゲンの元に急行するふたり。そして初めてニンゲンを……サーシャを目の当たりにしたパーシー。


 なんと彼は、危険分子は排除すべしと半ばパニック気味にサーシャ目掛けて氷魔法をぶっ放すのだ。


 幸い、ベルリアナが間一髪防御の魔道具を起動させたため、サーシャに攻撃が当たることはなく大事には至らなかったが……。

 モンスターの魔法と、パーシーの性格、そしてニンゲンとモンスターの間に横たわる根深い問題を目の当たりにする序盤のエピソードなのだが、確かにそれを鑑みるにニンゲンと見れば暴走してしまうパーシーなら、ロイドの言う通り卒倒くらいはしてもおかしくないかもしれない。


 むしろニンゲンとモンスター間の確執を考えると、すんなり受け止めていたベルとかリライヴェッジの面々がおかしいのかもしれない。肝座りすぎでは?皆さん。


「……ってことは僕が元ニンゲンってことも伏せておいた方が良かったり……?」

「最悪の場合、町ごとお前さんの事氷漬けにしかねないな……」


 どうしよう。ゲームの中のパーシーしか知らないけど容易く想像できてしまう。


「……パーシーには新しく研究所で働き始めたロイドの同僚って体で紹介してくれる……?」


 怯える僕に、さもありなんとばかりにロイドはこっくり頷いた。



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