第22話 変態アルラウネ、クレカを不正利用する

 植物系モンスターアルラウネ。

 花から進化したといわれる女性型のモンスターで、その最大の特徴は腰から下が大きな花となっていることだろう。

 花の色は個体差があるらしく、ミモザの場合はその名前の通り黄色の花が腰から咲いている。

 まるでドレープたっぷりのドレスを纏っているようだ。可憐な雰囲気の彼女に非常に似合っていると思う。


 下半身の花から蔦を出しての移動が可能。様々な効果のある花の香を出して相手を状態異常にさせたり、回復させたりできる後方支援型のモンスターだ。

 鋭利な花弁を出して相手を攻撃することもできる。なんとも華やかなモンスターである。


 だがミモザというモンスターを語る上で非常に重要なのはそこではない。

彼女が彼女足る所以、それは────


「ハァ……ハァ……ラウちゃあん……お姉さんと一緒にお洋服買いに行きましょうねぇ……。いっぱい選んであげますからねぇ……ハァハァ」

「それは願ってもないことだけど……お、落ち着いて……ひいっ」


 飢えた獣のように血走った目で僕を壁まで追い詰めるミモザ。命の危機を感じてロイドに助けを求める視線を送ろうとしたが、顔の横に思い切り手をつかれ逃げ場を失った。




「落ち着く……?落ち着くですってぇ……?」

「ぴえ……」

「やっと、やっと……やっと!ニンゲンを着せ替え人形にできるんですよぉ!?これが落ち着いていられますかぁ!?ああ!溢れるニンゲン愛が止まらないィィィイイ!!ラウちゃん、私があなたに似合うお洋服沢山選んであげますからねぇぇぇ!」

「うわあああん怖い!怖いよおお!!助けてロイド!助けてえええ」

「嫌でーす」


 そう。ミモザはこの魔法界において異端も異端。モンスターのくせにニンゲン大好きという変わり者だった。


 昨日フリント博士が語った通り、過去何度もニンゲン界によって滅亡の危機に瀕してきたこの魔法界、並びにモンスター達にとってニンゲンとは理解不能な蛮族。恐怖の対象だ。

 良い感情などがある訳もなし。好戦的なモンスターであればニンゲンというだけで殺そうとしてきてもおかしくないほどだ。


 しかしミモザはそんなニンゲンのことが大好きで仕方ないのだという。一応ゲーム内で語られていた本人談によると、ニンゲンの造詣が好きなだけであって野蛮な勇者などニンゲンの暴力的なところは嫌いとのことだが───まあ変わり者に違いは無かった。


 フリント博士を彷彿とさせる狂喜乱舞ぶりに涙目で震える。いやんいやんと身を捩りながら頬を染める彼女に先ほど見た天使様要素は皆無だった。幻想であったか……。

 っていうか流しかけてたけどさっき僕に馬乗りになってチョークスリーパー仕掛けてきたのやっぱりミモザだよね?軽く死にかけてたんだけど可愛いとか言いながら実は僕の事嫌い?


「全くもう、ロイくんったらいつまでラウちゃんに検査着着させているんですかぁ?こんな可愛い子に、こんな可愛い子に!」

「ん、んん……そんな可愛い連呼したってさっきのチョークスリーパーのことは忘れないんだからね……っ」

「あー?ああ……まあラウが可愛いかはともかく……」

「あん?」


 なんだとこら、素直に同意しろ。減るもんじゃないだろ。

 

ちなみに今日起きたら部屋に同じモスグリーンの検査着がおいてあったので部屋備え付けのシャワーを浴びた後何も考えずそれに着替えました。なのでミモザの指摘は地味に僕にも刺さっている。ちょっと痛い。


「お前さんのこと待ってたんだぞ、ミモザ。研究所に女物の服なんてないし、買いに行くしかないけどラウが外出るためには頼んでいたものが必要だろ?それにどうせお前さん絶対ラウの服選びたいって言うと思ったし」

「む。まあそれもそうですねぇ……。じゃあ早速選んでもらいましょうかぁ。ラウちゃんこちらにどうぞぉ」

「へ?なに?」


 水を向けられると思っていなかった僕は素っ頓狂な声を上げた。見れば、ミモザがスカートのようになっている花の内側からなにやらアタッシュケースのようなものを取り出していた。

 とても花の中にしまえる大きさじゃないんですけど……?っていうかそこ収納スペースだったんだ。

 驚愕する僕の前でミモザはアタッシュケースを開ける。中には大量の仮面が入っていた。


「なにこれ?仮面がいっぱい……」

「認識阻害の魔術が施された魔道具ですぅ。これ全部ラウちゃんに差し上げますねぇ。とりあえず普段使いするやつ選んでくださぁい」

「え、え?どういうこと?認識阻害?」

「これがさっき言ってた諸々の準備だよ。お前さんいくらモンスターに変質したって言っても見た目はニンゲンのままだからな。昨日みたいにニンゲンが攻めてきたーって騒ぎにならないように、相手に『モンスターだと思わせる』という認識を誤魔化す魔道具をミモザに作ってもらってたんだ」

「街中歩くくらいならこれで全然問題ないですよぉ。本当は髪飾りとかピアスとか目立ちにくいものに施したかったんですが、なにぶん時間が無かったので『物理的に顔を隠す』ことで阻害効果を高める方法を取りましたぁ。折角の可愛いお顔を隠すことになってしまうんですがぁ……」

「ミモザ……っ!ううう、ありがとおお!ロイドもミモザにお願いしてくれてありがとう!」


 力及ばず申し訳ない、としょんぼり肩を落とすミモザ。しかし僕は構わず彼女の体をぎゅーっと抱きしめた。

 僕の行動は予想外だったのか、ミモザはガチン!と石のように固まる。しかし気にしない。感謝の気持ちよ届けとばかりにぎゅうぎゅうと強く抱きしめる。

 ロイドは「ああ過剰摂取……」となにやら哀れなものを見る目でミモザを見ていた。


「はわ……破壊力が強すぎる……そんなお礼なんてぇ私は当然なことをしたまででぇ……で、でもでも、どうしてもってラウちゃんが言うなら是非このちょっと際どいセーラー服なるものを着て写真を撮らせていただきた」

「おいラウ、これとかどうだ?強そうだぞ」

「えーちょっと怖くない?僕もっと可愛いのがいい」


 なにやらミモザがぶつぶつと呟いていたが、勝手にアタッシュケースを漁りだしたロイドの元へさっさと移動した僕がそのことに気づくことはなかった。

 特定の週末にキャンプ場を襲撃する殺人鬼が被っている仮面のようなものを選ぶロイドに口を尖らす。仮にも女子に渡すものとして選ぶには不適格すぎると思います。


 ふと床の上で四つん這いに項垂れるミモザが目に入った。なんかやけに布面積少ないセーラー服落ちてるけどそれも認識阻害の魔道具?


「ミモザ大丈夫?体調悪い?」

「……そんな塩対応も素敵ですぅ!」


 塩対応?










「んー、どう?モンスターに見える?」


 ミモザが用意してくれた鏡の前でつけた仮面がズレていないか確認した僕は、そう言ってふたりを振り返った。

 右耳上あたりについた紐飾りがシャラ、と小さな音を立てて揺れる。うん、少々激しく動いても外れたりはしなさそうだ。

 視界も良好。顔に仮面が擦れたりもしてないし非常に快適だ。あとは認識阻害が上手く働くかだが……。


「問題なさそうだ。ちゃんと魔術も作動してる」

「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い」


 ロイドが頷くのを見てほっと胸を撫で下ろした。よかった。これで問題なく外に出られる。

 ちなみにミモザは試着中にぶっ壊れてしまったので床に転がして放置している。


 流石に外に出るのに薄着の検査着一枚じゃまずいだろうとロイドが貸してくれた白衣を上を羽織って───


「じゃーん、妖狐のラウちゃんかんせーい!どう?似合う?」

「似合う似合う。これなら種族聞かれても答えやすいしいいな」

「ご飯も食べやすいしね」


 鼻から上だけを覆う狐の半面を身に着けた僕はグッとサムズアップを返した。どうやらこの世界において『アンデッド』という種族は結構特殊な種族らしく、ロイド曰くバレればそこそこ面倒なことになる恐れがあるのだとか。

 遠い目でそう語るロイドの背中には哀愁が漂っていた。どうやら昔色々あったらしい。苦労してるなぁ……。


 ということで、話し合いの結果とりあえずは別のモンスターであるという印象付けのためこの狐面を選んだ。

 尻尾とか生えてないけどいいの?と不安になったが、モンスター的には見た目になんらか種族の特徴があれば……有体に言えばそれっぽければ多少他の同種族モンスターと違う点があっても基本疑われることは無いらしい。

 多様性と言えば聞こえはいいけどそれ他者への認識が緩いだけでは?


「それじゃ気を取り直して早速買い物に……って、そうだ。僕お金とか持ってないんだけど……」

「ふっふっふっ、心配はご無用ですよぉラウちゃん」

「あ、生きてた」


 そりゃ生きてるだろうよ。身も蓋も無い感想を述べるロイド。しかし壊れたラジオ状態から復帰したミモザは気にした様子もなくむくりと起き上がって得意げに胸を張った。

 そしておもむろに懐から黒いカードを取り出し、ピッと人差し指と中指で挟んでみせる。


「今日はこのカードでお買い物しますよぉ。金額は気にしなくていいと言われていますから沢山買いましょうねぇ!」

「…………………………………ミモザちょっと待て。それまさか」

「フリント博士のカードですぅ」

「だよなぁ!?見た事あると思った!なんでお前さんが持ってるんだよ!?」

「実はおふたりと合流前に博士と偶然お会いしたんですよぉ。で、ラウちゃんの日用品を買いに行くと伝えたら大喜びでこれくれましたぁ」


 ニヤリと悪い顔で「夢のブラックカード……何でも買い放題ですよぉ」と笑うミモザ。僕のためならと大喜びでカードを差し出すフリント博士……うーん、想像に難くない。

 お金を出してもらう立場として言っていいのか分からないが、堪えきれずぽつりとつぶやく。


「大丈夫かあのマッド」

「ダメかも……ミモザ諸共……」


 四つん這いで項垂れるロイドをさすってあげながら、遂に高笑いまでし始めたミモザの背中を見遣る。うん……ダメかもなぁ。

 しかし、僕らの可哀そうなものを見る目では彼女は止まらない。輝く笑顔で僕らを振り返ったミモザは、腰花の下に植物の蔓を編んで二本の足を作り上げ、すくっと立ち上がった。


「さあさあさあ!行きますよぉふたりとも!いざ、大都会『青の都市アルバストス』へ!」


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