第20話連絡待ち

 ネット作家あるある。

 批評を受け入れるといっても、本当にきつい奴を見ること心がへこむ。




20XX年3月〇日

>前々から思っていましたが、あなたの作品て粗削りですよね。

>文章も最後のほうになると、疲れたのか雑なところが見えてきますし。


 ラ〇ンから、辛口の言葉が連続で放たれる。


 時が過ぎ去るのは早いもので、もう、三月になった。

 このころになると、冬の寒さは息をひそめ、温かい太陽が顔を出してくる。

 それなのに、雫さんの温かい感想はいつの間にか、氷点下にいたっていた。


「これは次回作を書くときの注意事項1にしよう。

 推敲するときは最後まで気を抜かない。

 あるいは、小さな話を複数個分ける感じも悪くないかもしれない」


 あの日以来、雫さんは隠されていた本性。……と言ってはいいのかどうかわからないが、毒舌キャラという隠し属性がオープンされた。


 よく言えば遠慮がなくなった。悪く言えば扱いが雑になったのである。


 やはり、隠していた秘密を知られたことが気に入らないのだろう。

 僕が言いふらさないと確信を持ったからこそ、この程度で済んでいるが、その確信がなければ一体どうなっていただろうか。

 考えただけでも恐ろしい。



 以前までの僕なら泣く……まではいかないが、しばらく小説を書く気になれない程度の精神的な負担を感じていただろう。


 今の僕は一味違う。

 新作内で、毒舌をストーリーに変革していく。



 国語教師、活字が生徒に対して、疲れたせいで推敲が雑になっていると指摘する。


 あるいは、社会人活字が仕事の疲れを、どのように克服して、小説をアップグレードしていくのか。



 雫さんのアドバイス。

 恋愛かギャグをいれろ。

 実行した結果、現在真作のプロットを大幅修正している。

 恋愛食強めにすれば、社会人が仕事の合間に小説を執筆する形式に、コメディ要素を強めれば、学校で先生が愉快な生徒たちとワイワイ小説を執筆する話の流れとなってしまった。


「よし!」


 頬を叩き決心を固める。

 とりあえず財布からコインを取り出す。

 出てきたのは十円。

 こういう時は、ゲン担ぎもあり、五円玉がいいが……。

 財布を改めて探るが、どうにも見当たらない。


 そのまま十円を使うのは何か癪。

 なので、五百円硬貨を取り出した。


 数字にして百倍。つまり、御利益も百倍のはず。


 表、裏、表、裏、表、裏、表、裏……。


「こんな偶然ある?」


 表が二回連続で出たら教師、裏が出たら社会人の話を書くと決めたのに。


「百倍の御利益があるはずなのに、そもそも結果が出ないと意味がないだろう」


 と思ったのだが、これはある意味で神の啓示なのかもしれないとも思ってしまう。

 すなわち、本当に大事なことは神などに頼るくことなく自分で決めろと言う。


 すごい、本当に御利益が百倍では済まないものになった。

 得難い答えのお礼に、この五百円玉を神社にお賽銭として奉納することを決めた。



「コメディはセンスが必要なんだよなぁ」


 真剣に考えた結果。

 わちゃわちゃとした笑いありの人情劇になるだろう、高校教師のルートが劣勢になった。

 理由は単純。

 書くのがめんどくさいから。

 お笑い芸人は高学歴が多いらしい。

 小説を書いていると分るんだ。

 お笑いってさ、書くのが本当に難しいのだ。

 きちんとした話の筋を用意したうえで、読者の予想を越えなければならない。


 恋愛系は少し展開が荒くてもどうにかなる。

 でも、苦手と分かっていることを、そのまま放置するのもどうかと思うし……。


 結局、誹謗中傷で小説を中断することはなかったが、自分自身の優柔不断さによって、僕は小説を書けなくなっていた。

 よし、こうなったら、誹謗中傷のせいで小説が書けなくなったせいにして、雫さんに責任を取ってもらおう。



<ネット小説だけど、コメディ路線の学園物と、恋愛路線の社会人もの。

 どっちがいいと思う。


<そんなこと言われても判断できません。


<小説のプロット読んだよね。

 どっちの要素を足したらより面白くなると思う。


<触りだけ説明されてもなんとも。

 というか、学生か社会人かですよね。

<どちらがいいかなんて、ストーリーで変わるのでは?


<残念ですが、両方とも社会人です。

 国語教師が授業の一環でネット小説書いているか、社会人が仕事の合間にネット小説を書いているかの違いだな。


<それ、最初の説明では分かりませんよね。

<いいですか、プロローグの最低条件。

 引き込まれるようなストーリーと、主人公。

<あるいは世界そのものの描写がうまくできない作品なんて切られるだけなので、もう一度基礎そのものを習ったほうがいいのではないですか。



「あいも変わらず、毒舌だなぁ」


 昔のことを懐かしむ。

 雫さんとの会話を思い出す。

 彼女から毒舌を投げられるようになって、一週間たってないけどね。



 ラ〇ンでのやり取り。それを見て思う。

 あの食事会の日から、僕たちの関係は確かに変化したと。

 これまでは、雫さんが一方通行で僕の作品のことを語っていた。

 今では双方向に作品を相談する中になったのである。



<そこまでいうなら、実際にプロットを見て判断してくれない。


<私のプロットも、いくつか確認してくれなら。


<では、3月〇日に待ち合わせできる。


<ええ、いいですよ。



 正直な話。

 自分では認めていなかったけど、僕の雫さんへの思いは恋なのかもと思ったことがある。というか、思っていた。


 だって、胸がドキドキするし、時折、ふと雫さんはいま何をしてるのだろうと思うこともあった。



 それは今でも同じだ。


「僕はもっと雫さんと話したい。

 もっと小説のことを語りたい」


 そう思えば、いまだに胸がどきどきする。



 傍目には恋のように思えるかもしれないが、断じてそんな不純な思いではなかった。



 勇気をもらったのだ、彼女から。

 彼女が酒を酔って、エイリアンの話をしてくれなかったら、きっと、僕は今でも暗い闇の中をさまよっていただろう。



「はたして僕に、あれほどまでにテーマへの情熱を燃やせるだろうか」


 自分の中にも、小説が好きだという情熱はある。

 胸を張って断言できる。

 好きでなければ、これほどまでに長く、そして苦しい道を突き進むことは出来ないが……。

 もし、書籍化というゴールがなければどうなっていただろうと考えてしまう。


 だからこそ、雫さんのスタンスにあこがれてしまう。

 利益なんてもの関係なく、ただ自分が好きなものを、好きなように書いていく。

 

 ……きっと、楽しいだろうな。

 今のままだと人気が出ない、自分の好きを曲げてでも人気取りをしたいと考える、僕のような奴にとってはなおさら。



「ネット小説家としてやっていくのに必要なこと、テーマに対する知識、情熱、調査能力」


 それらすべて、雫さんに勝てるとは思えなかった。

 だってさ、今回の神話系の小説に関して、好きなものを書いたけど、設定なんて小説を書きながら調べていたし。



「本当に、凄いな雫さん」


 読まれなくて、楽な道、つまりは読者受けする作品を作り上げようと計画している僕にはその姿がまぶしい。


 そして、僕は彼女の姿を見て、その計画を実行すると決めてしまった。


 あんなに情熱を燃やしているのに、それでも彼女の作品は低空飛行。


 たとえ今は認められなくても、きっといつか。という、僕の希望の否定材料としては十分だった。


 自分の作品が人気出ないことで心が折れ、中途半端なところでおわらせてしまった、僕のようないい加減な人間にとって、人気も評価も気にせずに、自分の道を行く姿はとてもまぶしい。

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