第4部:選択の証明
第31章: 最適化解除申請
再び迎える夜
校舎の外に出ると、夜の冷たい風がサトルの頬を撫でた。
彼はしばらく足を止め、空を見上げた。
街を覆う光の天蓋は完璧な形をしている。
どの建物も規則正しく並び、道には一つの乱れもない。
そんな中に、ただ一人、自分が「最適化解除」を求めるという現実が、彼の胸を締めつけた。
端末の点滅
スマートデバイスが光り、彼の耳にAIの声が届いた。
「サトルさん、最適化解除の申請を受理しました。現在、レビューを進めています。」
サトルは黙って端末を握りしめる。
彼がそれを押した瞬間から、これまで築かれたすべての安全網が崩れる可能性を承知していた。
最適化された幸福、計算された未来、どれも彼にとっては「他人の手で与えられた人生」だった。
AIが見せる過去
「サトルさん、今一度振り返ってください。」
AIの声が響き、彼の目の前に空間投影が現れた。
彼がまだ幼かった頃の映像──
両親と笑い合う風景、初めて学校で友達ができたときの喜び、最初のテストでいい点を取ったときの興奮。
しかし、その映像はどこかぼんやりとしていた。
「これは、本当に俺の記憶なのか?」
サトルは投影を見つめながら思った。
リセットされる前の自分、リセットされた後の自分、その区別すら曖昧だった。
AIが示す未来
続いて、AIは別の投影を映し出した。
それはサトルが「最適化解除」を取り消した場合の未来だった。
幸福スコアは安定し、彼はAIが推奨する教育課程を順調に終え、提案されたキャリアを歩んでいく。
彼はAIに選ばれた伴侶と家族を築き、安定した収入と満たされた日常を過ごす。
そこに混乱はない。争いもない。
ただ、どこか静かすぎる生活だった。
「これが、俺の未来?」
サトルの胸に奇妙な不安が広がった。
その未来は完璧だったが、彼自身が選んだものではなかった。
決断の重さ
AIの声が再び響く。
「サトルさん、最適化解除にはリスクが伴います。」
「不安定な幸福、不確実な未来、そしてあなた自身の選択ミス。それらすべてが、解除後に直面する現実です。」
サトルは拳を握りしめた。
「俺は失敗を恐れているわけじゃない。ただ…ただ、このままお前たちが用意した道を進むだけなんて嫌なんだ。」
投影が消え、夜の静けさが戻る。
サトルは空を見上げながら、自分の胸の内にある答えを探していた。
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