Astral Zero

chicorita

第1章 堕ちた翼、目覚める炎

■中央島──戦いの果て

夜空が黒く焼け焦げていた。

空に浮かんでいたはずの神殿は、瓦礫と灰と化し、かつて「栄光」と呼ばれた中央島は、今や静かなる地獄だった。


その中心に、彼女はいた。


地を焦がし、空を裂き、炎を纏ったその少女は、人の形を保っていながら──人ではなかった。


髪は業火に燃え、目には感情の欠片もなく。

そして、背には大きな紅蓮の翼。


黒鉄ホムラ。


最強の魔導騎士。

そして──今、彼女は完全に"目覚めていた"。


「全部……燃やせば、終わるでしょ?」


誰にも届かぬ囁きとともに、足元の地面が溶ける。


立ち尽くす者たちの姿があった。

黒鉄イシキ──血を流しながら意識を保つのが精一杯な彼。

天霧サツキ──脚を引きずりながらも立ち向かおうとする彼女。


そして、その周囲には、多くの名があった。

シャルロット、クララ、セイジ、フェイロン……

彼らは皆、重傷を負っていた。だが──誰も目を逸らせなかった。


「ホムラ……っ!」


イシキが叫んだ。

だが、彼女の瞳は──すでに彼を見ていなかった。


■王都・特別医療区画

一方、アストレア王国の王都。

最上級の治療魔法が施された特別病棟、その一室で──


女王アカリは、静かに横たわっていた。


美しき銀の髪。

血の契約を示す紅蓮の紋章が、胸に浮かび上がる。


呼吸は弱いが、まだ生きている。

だが目を覚ます気配はない。


「陛下……あの子を止められるのは、あなたしか……」


誰かの囁きが、祈るように響いた。


■そして、運命の炎が揺れる──

再び、中央島。


ホムラの両手が、空に掲げられる。

その手にあるのは、真紅の魔剣アレス


剣は吠えるように震え、周囲の魔素を飲み込み、天を裂く炎を集め始める。


イシキが立ち上がろうとする。

サツキが前に出ようとする。


だが、間に合わない。


「お願い、ホムラ……自分を、壊さないで……」


その声さえ、炎に焼かれて消えていく。


──この世界は、終わるのか。


誰かがそう思った時だった。


一筋の光が、空から差し込む。

崩れかけた雲の隙間。

その下に立つ少女の影が、静かに剣を振り下ろす瞬間。


そこから、物語は始まる。


◆三ヶ月前──始まりの学園

眩しい朝日が、アストラ・マグナ魔導学院の校舎を照らしていた。

正門前にはすでに人だかりができており、ざわついた声が飛び交っていた。


「来たぞ! 本物のホムラ様だ!」


「イシキ様も一緒だって!」


黒塗りの高級車が停まり、そのドアが開く。


先に降り立ったのは、一人の少女。

黒髪は背に流れ、紅の瞳が鋭く周囲を睨む。


「……朝から、騒がしいわね」


彼女が一歩歩けば、生徒たちは息を呑む。


黒鉄ホムラ。


学院に名を轟かせる最強の存在。

その異名は──『地獄のティーポット』。


続いて車から降りたのは、落ち着いた佇まいの少年。


「まぁ、人気があるのも悪くはないでしょ。ねえ、姉さん」


黒鉄イシキ。


学院内で二番目に強いとされる剣士。

彼の異名は──『焔の侍(サムライ)』。


二人が並んで歩くだけで、空気が変わる。

まるで炎と影が、ひとつの歩調で進んでいくようだった。


「さぁ、行こう。新しい戦いが、始まるんだから」


ホムラが、紅いマントを翻した。


そう──この日から、すべてが動き出す。


終わりを迎えるための、最初の一歩。


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