第4話
中坊の頃は確かに錬石術師に関係ありそうな漫画やアニメなんかを見境なく買い漁ってたんで金が足りねーっちゃー足りなかったが、親父と小遣いの交渉をしたくても家令の睨みが凄じくて朝食室での食事の時間でさえ邪魔されまくってぜんっぜん話せなかったっつーんだよ、クソ親父が!。
執事やメイド共も同じだ!。
揃いも揃って乃蒼に心酔しまくりで、俺付きのフットマンすら俺の世話をする時は心底嫌そうにゴミを見る目で見下してる表情を隠しゃしねぇし、なんなら時には睨んで来るわで俺の命令なんか聞きゃあしねえし。
だーから俺はばーちゃんが全力で封じた「魔眼」の封印が経年劣化か綻び始めたのを感じた時「キタキタキター!」って快哉を上げたもんだ。
「魔眼」だぜ?厨ニ心ガンガンにくすぐって来ねえ?。
俺はすかさず綻んだ「魔眼」をこそっと開いてみた。そしたらよ?『視』えたんだよ、今ここの景色じゃねえ「未来」らしき扉がよ!。
俺のお袋が剪定した未来だから創世神のヤロウに弾かれるんじゃねーかとビクビクしてたが、まーアイツは俺がとっとと死ぬ事を楽しみにしてたらしいし?。
良いんじゃねえの?。持ってけや、寿命。
俺みたいな出来損ないなんざ誰にも必要とされないだろうし、長生きしても苦しいだけだ。だったらガッと稼いでバーッと使って短く楽しく生きた方がよっぽど幸せだ!そーだろ?。
使えるものはじゃんじゃん使ってこー!。
てな訳で、俺は「定期試験」の解答を『未来視』して売り捌く商売を始めたってわけ。
「しかも今は毎年恒例の、最高の見入りが期待できる『卒業試験』様近々よ。気合い入れて『視』て差し上げよーじゃねーの?ってな」
そ。
俺が『視』るのは「卒業」さえ出来れば卒業後は皇国の重要ポジに必ず就職先が用意されるこの櫻井魔導学園の入学試験の解答じゃない。
入学なんざ「魔力測定」さえ通れば誰でも入れるからな。ま、測定レベルが高えっちゃー高えけど、ただの人以外の貴人や亜人、魔人なんかは潜在能力が高えのか初年クラスにゃわらわらと居る。
後は授業で振い落として定期試験でバッサバッサと切りまくり、入学した奴の5分の4を高等部の終わりまでに退学させてるってのが我が櫻井魔導学園のスタイルだ。
再試験不可、即退学。
留年不可、即退学。
そんな学園の最終卒業試験、一発勝負の大勝負。
っはは!サイッコーなシノギじゃねーの!。
ぶははははは!!!!!。
かと言って楽なショーバイは出来ねーって寸法で、学園内外にも相変わらずあの監視カメラが張り巡らされてっし顔認証魔力探知無音ステルスドローンが飛び交っている。ウゼエったらありゃしねえ。
っても流石に授業中は監視が緩い。まあみんな授業に食らいつくのに必死だかんな。
でもって魔力はアホほどあれど、俺様が使うのは「寿命」。これっきり。
寿命の消費はドローン様の魔力使用探知に引っ掛からねーおかげで「解答」はささっと授業中に先公のありがてーお言葉をタブレットに入力してる振りして『未来視』を紙に書き書き。
そうやって書きつけた「解答」を売り捌くのはアナログに。
高等部で初めて出来た、ダチの東雲兄弟と何気ない会話の中で「櫻井魔導学園の卒業試験解答が流出してる」っつー噂を流し、そこでまた『未来視』。
コンタクトを取って来ようとする奴を『視』つけたら、渡り廊下なんぞで先回りしてすれ違いざまにぶつかる振りして「解答の一部」を書きつけたメモを握らせる。
受け渡し場所も対価も指定しない。俺様も決めておかない。
その時点では受け渡し時の『未來視』はしないでおくのが監視を潜り抜ける重要なポイントだ。
対価は現物を要求する。
指輪や、ピアスサイズだが高純度の魔石が多いっけな?未成年の俺でも貰ってカリメルで売り払っててもおかしくなさそう、かつ換金しやすいブツなりゃなんでも受け付ける。
つってもそれらを信じるか信じないかはそいつ次第だ。
俺はただただ未来を『視』るのみ。
だが信じた様子がうかがえたなら、最大の山場、受け渡しタイムの到来ってね。
これもまた『未来視』様々。
取り引き現場をいくつか『視』て一番安全な場所を見極めて、そしてようやく主役の俺様が接触してやるって寸法よ。
ね?大変なのよー??櫻井の監視の目を掻い潜んのって。
そう言うわけで、今回俺様は今居るここ旧校舎で、取引の時に顔を隠す為にそこらの駄菓子屋で買ったお面を片手にサクッと商売しちまおうと購入者の到来を待ちくたびれてるって訳よ。
紙はだのお面だのはその都度覚えこみゃ焼き捨てて証拠隠滅出来っしな。
やはり紙。どんな未来の先でも紙はデジタルを凌駕するよなーっと思う。
まー、マナグラム通信とかマナ決済とか導入して、入金の確認が取れたらデータファイルを転送出来んのが一番手っ取り早いけどよ。
怖いのよ、櫻井家のサイバー犯罪対策班。ヘタ打つと警察呼ばれる前に速攻でクソ親父が助走を付けてゲンコツ落としに飛んで来るから。
まあ『視』ただけで回避したから現実にぶん殴られてはねーけど。
そんなクソ親父が何で俺が寿命を使い潰すのを止めるよう「寿命」使用探知システムを構築しないのかは、知らん。出来ると思うが、知らん。
櫻井家はちびデブ酒クズ創造神のボケに手作りされた生まれがあっから、創世神のロン毛ハゲが多少関わってる管轄には手出し出来ねーのかもな。知らんけど。
だって冥界は冥界でまた別の神さんが居て、お手作りの第2皇家「天使」家を加護してっし。
確か「レグバ・ゲデ」様とかおっしゃったかな?。
仲良いらしいぜ?創世神と。
つーわけで、何でか知らんが俺様より、
特にここまで俺様の「者」語を追っかけてくれてるアンタらに今さら説明する必要は無いとは思うものの一応「マナ」について簡潔に解説しておいとこーかと思うわけよ。
「マナ」と言う物質は創世神のクソが作り出した世界にも創造神のクズが造り上げた世界にも共通した元素として構成されている魔素物質なんだとさ。
人はマナを介して精霊や妖精と縁を結び、自身の魔力を対価に捧げて魔法に変換していただいて来たらしいぜ?。
そのマナに独自の魔力を乗せて、その魔力を特定の場に送るシステムを構築したのがクソ親父の父、俺様のじじいの「亞暖(アダム)」じーちゃんで。
流す魔力に何らかの情報を搭載して届ける仕組みを構築する事で、それまで遠くの他者との通信にはいちいち人の手を借りた手紙などの手段しかなかった皇国のデジタル化を図り、0秒単位での相互通信に成功したのがクソ親父。
その後もマナを通じた転移機構についてのクソ親父の創造発展は凄まじく、メチャ早で皇国全体にマナネットワークを張り巡らす施作が施工されていたおかげで、あのイルルヤンカシュ襲来事件の時もクソ親父曰く「愛情を込めて」仕込んでいた安全装置が働いた瞬間にSランク冒険者達が送り込まれたっつーわけ。
ちなみに今この瞬間も、クソ親父に手法を教わった櫻井の血族の手腕によってマナネットワークは他国にもガンガン広まっているらしいわ。
以上、俺様の説明は終わり。
なーんつって
「けっ!だがなクソ親父!。あんたの錬石術師の創造力がいくら凄まじくても、俺がお袋から授かったこの『聖良の魔眼』の異能を舐めんなよ。
たとえ監視しまくりで俺を雁字搦めに監視していようとも、俺はこの『魔眼』でその網の隙をついてすり抜ける。網は網、ネットはどこまで細かくても所詮は穴空きだっつー事を思い知らせてやるぜ!わーっはははは!!」
海流は天井を向いて大爆笑する。
「さっすがカイルさんでス!」
海流の大きな独り言に、独特のアクセントを持つ訛りで答えながら教室に入って来たのは、海流のたった2人の親友のうちの1人の春日(かすが)だ。
高学部の学生でありながら東雲(しののめ)侯爵家の頭目でもある。
小柄な身体に眉毛オンの長さでサラサラと、横髪はぱっつんに切り揃えた青髪は青白い肌に空色の瞳がよく似合っている。
「今日の取り引きガ終わっタら街に出まマすか?確か今日は海流サンが追いかけテる漫画の新刊の入荷日だっタはずデす」
春日に続いて褐色の手首に巻いたハイクラスのスマートウォッチを軽やかに操作しながら現れたのは春日の双子の弟の夏日(なつひ)。東雲侯爵家のもう1人の頭目で、海流の残りの1人の親友だ。
夏日は春日と瓜二つではあるが二卵性双生児で、春日と同じ髪型で切り揃えた金髪をサラサラと揺らしながら緑色の瞳をチラリと海流に向けてくる。
春日とはまた違ったアクセントで話をする。
彼らもまた、ぼっちの海流に迦允が当てがってきたボディーガード兼の友人だ。
ただ。
それまでの押し付けられてきた友人と違ったのは、彼らもまたこの若さで2人ぼっちで東雲侯爵家を継いだと言う重責に苦しんで居る事を引き合わされてすぐに話してくれたので、継嗣の辛さを語り合っているうちに仲良くなったのだ。
春日と夏日の持つ異能は「召喚士」とその召喚獣の「テイマー」と言う、2人で1人の特殊な能力者だ。
東雲の当主は元々は1人の術師だったが、次代が能力を受け継ぐ毎に遺産であるテイム状態の召喚獣が増え、役割を分けねばいずれ抱えきれずに破綻すると聖良に『未来視』されていた。
それでも当主筋と親族とのしがらみやらなんやかんやで春日と夏日の父の代までは持ち堪えていたのだが、ある日の戦線で召喚術が暴走し、術を行使していた春日と夏日の父が召喚獣に踏み潰されて死亡。
暴ぶる召喚獣達に戦場は大混乱に陥ったが、瀕死の東雲の願いに応えたあるお方により滅されて座に帰され、そのまま戦線は終結。
頭目の葬儀でも弔問客に死人が出るなどと一悶着があった為に騒乱の予測はされていたが、やはり当主の喪も明けぬ内に内紛は起きてしまった。
現皇帝の信頼も厚い侯爵家の、当主筋の継承権を持つ春日と夏日、その下の妹の双子姉妹の秋夜と冬夜がまだ学園の中等部生とくれば、幼すぎるだろうとの反発の声が上がり。
当然のように親族の内で誰を当主とするか、誰が誰の後見人に成るか…あわよくば自分が当主にと、血で血を洗う大戦争が勃発。
その後も兄妹4人は死にも瀕する事件にも巻き込まれたが、そのお家騒動を現皇帝の代行者として東雲家に遣わされた迦允の采配で、当主は「生まれた順に」春日と夏日が役割を分割して継承すると取り決められた。
その後見人に迦允が就いた縁で、学園で魔力だけはアホ程持つが使えない所為で馬鹿にされて『ぼっち』だった海流に引き合わされたと言う次第である。
ちなみに海流は秋夜と冬夜とも面識はあるが、そちらの2人は魔法ひとつ使えない男に興味が無いし、なんなら乃蒼に付いているので一切交流は無い。
そんな感じで、海流のご機嫌は双子の登場で更にギュインと上がる。
「おう、そうだったな。やっぱ書籍は紙媒体に限るぜ」
海流はガシッと双子の肩を抱くとニィッと笑う。
「それも単行本な。マナ媒体は配信アプリがありすぎて、どこで何買ったか把握し切れねぇが、紙媒体ならバッグに放り込んどきゃいつでもすぐ取り出して読めっしよ」
すると春日は海流が買ってきていたお面を手にして確かめつつ、呆れたとでも言うように肩をすくめる。
「その手が使えるのワ自動ソート機能が付いているカイルさんのバッグだけですヨ、まったく」
「ソうダよね、うちみたいな貧乏侯爵家にはマナ媒体様様カも?。単話買いトか、月額会員にナっタら無料で読めタりもシマすし?」
苦笑いの春日に夏日が同調する。
「お?離反か?」
海流はゴリっと双子のこめかみをグリグリする。
「そんな事を言う奴らには今以降、俺の数百万冊にわたる、漫画、ラノベ、その他諸々の蔵書は読ましてやんねーぜ?」
と言ってやれば双子は目を見合わせて、それから同時にブンブンと首を振る。
「「嫌デース!!」」
海流の言葉が半分冗談混じりなのを見抜けるのは長年の付き合いの証だ。
「「ナマイキ言っテすいませんシタ!!」」
神妙に、それでも笑いを含んだ声で揃えて返す双子に、海流は満足そうに頷いて。
「反省感じねぇ詫びだが、ま、分りゃ良いんだよ。
……後、作品の先読み版買ったら絶対ネタバレすんなよ?匂わせも禁止な?だが目新しい面白そうな漫画やラノベを見かけたら単話でも俺様に報告だけはしろ。WEBのみやネタメモだけとか、すんげー面白えのに単行本化されない神作品はこの世にゃ五万とあるからな。
同人誌もしかり。流石にそう言う作品だけはマナ版のみだとしても、買って作者様たちを全力で応援してぇし、積極的に評価もポチりてぇし感想も送りてぇしよ」
「「もちろんデス!!」」
なお3人は知らない事だが、彼らの熱いレビューでやる気を貰ったり自信を持てた作家も何十人も居るらしい。
創作作家一人に一人は欲しい読者である。
「よし!そうと決めりゃあ後は取り引き成功させっぞ!」
机を囲んで円陣を組み、コツン3人で額を合わせて笑い合う。
「「「俺たちー、ファイッ!!!!!」」」
いつもの風景、いつもの冗談。
はー!心を許せる奴が居るってのはそれだけで最高だぜ!。
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