あなたは知らないふりをして

シーア

プロローグ

「あなたは、だれですか?」



あのときのあなたが、嘘だったなんて、

まだ信じられない。



一年前、突然いなくなった。

置き手紙もなかったし、スマホはつながらなくなって、

誰もあなたの行方を知らなかった。


「忙しいだけかも」「すぐ戻ってくるかも」

そうやって何度も自分に言い聞かせて、

季節が変わるたびに言い訳の数も増えていった。


でも、あなたは戻らなかった。

何も言わずにいなくなった。

わたしの名前も、わたしとも時間も、まるごと捨ててーー




そう思っていたのに。



**


一年後、わたしはあなたに再会した。


目の前に現れたあなたは、

別の名前を名乗った。

「はじめまして」と言った。

わたしのことを、知らないふりをした。


服も、声も、仕草も少し違っていたけど、

わたしは分かった。

あなたは、湊(みなと)だった。

あの日、最後に「行ってきます」と言ったまま帰らなかった、

あの人だった。



胸が痛むのは、あなたが嘘をついているから。

それとも……



知らないふりをしているのは、どっち?




ーーこれは、

すれ違ったまま止まってしまった恋と、

もう一度だけ、向き合おうとするふたりの物語。

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