if関ヶ原 タイムリープし続けた三成。

@jivseek

第1話

「三成様! お逃げください!」


配下の蒲生郷舎の声が聞こえてくる。


「またしくじったか……」


彼の声に反応する男・石田三成。


ーー逃げても同じことよ。


三成は己が持つ短刀に手をかける。

しかし、彼は自害を踏み止まり、短刀を地面に突き刺して逃亡を開始した。


ーー此度も敗北した。おそらく、逃げたとしても、数日のうちに捕まるであろう……しかし、この世界で、まだまだやらねばならぬことがある。


そして、彼は関ヶ原での敗因を分析し始めた。


ーー何がいけなかったのか? いや、今までとは変わった部分はあったはずだ。


彼は回想し、思い出す。


ーーあったぞ。そして、此度は上手くいくと思っていた。


彼の考えに間違いはない。

そう……今回の関ヶ原は……


「家康様! 井伊直政殿、松平忠吉殿が討ち取られました!」


兵士の一人が徳川家康に状況を伝える。


三成は事前に戦の準備は完璧にしていた。

何故、準備ができるのか?


その答え……三成は既に関ヶ原の戦いを10回は繰り返しているということ。


家康は焦った。

ーー阿保な!? 島津が開始直後に戦線離脱だと!?


薩摩兵の絶叫が東軍本陣にまで鳴り響く。


「無駄な戦で死ぬわけにはいかん! 大垣城に戻り、籠城しもんそ!」


島津義弘の正面突破。

それは最前線にいた松平忠吉や井伊直政の軍勢に突き刺さり、東軍の士気は下がっていく。


「ここで逃しては父上に合わせる顔がない!」


直政、忠吉は逃げゆく島津勢の後を追おうとする……


ーー島津が一番最初に逃げる? 此度の戦、闘う意味がないとは言えおかしい……


不審に思った直政は忠吉を止めようとするが、今さら無駄だ。


「斯様なことをされて黙っていれるか!? 怖気付いたか!? 直政!」


井伊、松平部隊は島津を追いかける……


しかし、


「チェストぉ!」


銃声と斬撃の音。

伏兵していた島津歳久の部隊だ。

井伊松平部隊の兵士たちが斬り伏せられていく。


「た、忠吉さま! お逃げください!」


直政は抵抗虚しく、薩摩兵に馬から引き摺り下ろされ斬られていく。

忠吉は逃げ去ろうとするが、もう遅い。


「徳川の息子! 見つけたぜ!」


歳久は小筒で忠吉の腹部を銃撃した。

至近距離からの被弾。

忠吉はヌメっとしたような体内に銃弾が侵入してくる感覚に襲われる。


ーーもう飯、食えんな……最後は何を食ったか。


次に激痛が脳内を赤く染めていく。

意識が遠のいていく。


「心配ご無用! 家康様に治していただきましょう!」


兵士の一人が鼓舞するが、意識は遠くなる。

何かを話そうとしても言葉は出ない。


ーー父上に迷惑をかけてしまった。


忠吉の失態。

赤備えの旧武田軍で構成された井伊直政隊は、壊滅してしまう。



ーーこれで一気に戦況は変わる……



そう信じていた。

しかし、それは焼石に水。

確かに、序盤に井伊直政と松平忠吉を戦死させることで史実よりは粘り、東軍に打撃を与えることができた。

だが、本多忠勝が前線にやって来た上に黒田長政の奮戦。

さらには忠吉を討たれたことで家康が本隊を動かし、あっという間に劣勢。

小早川秀秋も史実通りに裏切った。

しかし、三成はさらに勝つための糸口を見つけた。


ーー夜襲を何度も仕掛け、最初に島津を逃せば、井伊直政と松平忠吉は討てる。


そして、さらに彼は思考を重ねた。



ーー黒田長政配下の後藤又兵衛……彼奴にやられた。あれ程までとは思っていなかった。そして、京極高次だ。奴は何度も裏切った。奴への対策をせねばな。


「じゅういち……じゅういち……」


三成は現在までタイムリープした回数を忘れないように呟き、次の作戦を考えていた。


「何か食べるか?」


兵士の一人が心配して三成に尋ねた。

彼は数日間の逃亡生活の後に民のことを考え、家康に投降していた。


ーー食事など何が入っているかわからぬ。


しかし、喉が渇き切っている。


「いらぬ……だが、水を所望したい」


兵士は頷き、水を手渡した。

水分一つない喉を澄み切った味が色をつけていき、さらに思考を深めていく。


ーーこの敗北を次に繋げなければな。


彼はさらに思考を巡らせた。

気づけば、東軍諸大名の前に引き摺り出され、加藤清正や福島正則に罵倒されていた。


ーー此奴らを味方につけたところで大して意味はなかろうて……


「お主は無益な反乱を起こし、その姿。何事であるか?」


正則からの嘲笑に三成は


「運がなかっただけやわ。負けてればお主がここにおっただけやで」


と、嘲笑で返した。


ぐぬぬと怒りを抑える正則。


ーー此奴や清正は小物よな。殿下がいなければ、喧嘩以外、何もできんだろうて。家康殿に見放されるのも時間の問題よ。


三成は周囲を見渡し、細川忠興からは睨みつけられる。


ーー忠興殿には酷なことをした。配下の暴走とは言え、妻を手にかけてしまった。次は武断派のみでなく、知性を持つ配下が必要だな。


身体が温かくなる。

黒田長政が上着を掛けてくれたようだ。


ーーありがたい……が、お主は父諸共、殿下を裏切っておる。此奴から後藤又兵衛を奪えば、もう少し何とかなっておったな。まぁ良い、勝っても命だけは見逃してやろう。


徳川家康が現れ、縄を解くように言う。

三成は上の空で思考する。

ーー元忠、忠吉、直政は討った。次は忠勝や康政であるな……


家康はいくつか質問するが、三成は適当に答えた。


ーー秀頼様は討たれるであろう。やはり、茶々殿では秀頼様は守れぬ。北政所様に早い段階で大坂入城してもらえぬか要請してみるか?


三成は家康をチラッと見た。


「次はこのようにはいきませぬぞ」


と彼は微笑みながら言う。

周囲の武将たちが警戒して刀を抜こうとするが、家康はニッコリと笑う。


「うむ! このような状況でも希望を捨てぬとは。武人とはこうであらぬとな。さすがよ」


ーーさすが、徳川家康よ。そこにいる者どもとは格が一つも二つも違う。貴方様を倒さねば、豊臣家を守り、そして、新しき世を創造できぬようだ。


と、三成は家康をラスボス認定して、また考える。


ーーまとめよう……


・先を見越した知性ある配下が二人くらいいる

・後藤又兵衛をこちらに引き入れる

・北政所と茶々の二人で秀頼を育てられる環境の整備

・100万石はいらぬが、徳川家康に対抗できる領地ほしい

・あと、馬廻衆もほしいから剣や槍に長けた人物を探す


特に軍師的な役割ができる人間……


「いやいや、お困りのようですね?」


何処からか声が聞こえてくる。

周囲は私情で動き、豊臣家を蔑ろにした者たちばかり。

そして、このような冷静な口調は久しぶりに聞く。


若い声色。しかし、それは百戦錬磨の落ち着きを醸し出している。


島左近や舞兵庫とは違うベクトルで死線を越える戦いをしてきたのだろう。


「其方、名は何という?」

「貴方はもうすぐ亡くなります。次の世界で正体を明かしましょう」

「ほう、ならば、次もあるということか?」

「ご想像にお任せいたします……次の世界で私は貴方の味方。では……」



声が消えていく。

場所が変わり、京で晒し者にされる三成。


「喉が渇いた。水はないか?」


警護の一人が干し柿を出して、食べるように促す。


「其方のようなこ……いや、ありがたいが、私は成就したい本望がある。お断りいたします」


周囲の人間には笑われてしまうが、三成は次があることを知り対策を脳内で練り始めていたのだ。


処刑の時間が迫ってくる。


「恵瓊殿、行長……巻き込んで悪かったな」


恵瓊も行長も微笑みながら首を横に振る。


「また一緒に戦おな! 何度生まれ変わっても、ワシは三成はんの味方やで!」


行長の明るい声。


そして、恵瓊が言う。


「生きることへの執念を捨て、今は静かな気持ちだ……礼は言えぬが、悟りを開くとはこうなのかとも思うておる。不思議だ。お主らとはまた会える気がする」


処刑が始まり、首が刎ねられる音が聞こえてくる。


ーー11度も同じことを繰り返しては、さすがに慣れてしまうな……しかし、負ける度に恵瓊殿、行長、左近……そして、吉継と共に勝つ光景が見たくなる。


三成は次の世界での勝利を願いながら、一生を終える。


「三成! 三成!」


ーー吉継の声か? また自分自身に生まれ変わったようだな。


そして、三成はゆっくりと目を開ける。


続く



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