第9話 お二人は、魔法使い……ですか?

「谷 箱部って、あの『ショーケース』か?」

 運転手が味方になったからだろうか。少し空気が軽くなった車内で、改めて割葉が訊いた。

「うん。どうやら八谷と知り合いらしくてさ。あの電車で話した137人の児童殺害、内67人の男児殺害事件。あれ、谷も絡んでんだよ」

「ああ。だから、誰も逃げられなかったんだな」と、割葉は納得したように首を振った。


 谷 箱部。魔法使い。その能力は、空間の作成。詳しいことは訊く前に殺してしまったのでわからないが、小学校のときはクラスごとに一つ一つ空間を作って児童を閉じ込め、そこに八谷を放り込んだ、というわけだ。

「もっと早くわかってれば、谷を尋問するなりして八谷の魔法がわかったのに、惜しかったね」

「仕方ねえ、そういうもんだよ」

「運転手さんは、なにか八谷の魔法について、知っていることはありませんか?」

 一縷の望みをかけてきいてみたが、結果はNOだった。


「で、話を戻すが、谷を餌に、簡単に釣れたのか?」

「釣れたね。ずいぶん頭に血が登りやすい性格みたいだった。電話口で騒がれて五月蝿かったよ」

「ふーん。谷みたいに、簡単に殺せるといいけどな」

「だね」


 谷のときは、あっさりと終わった。あっさりと終わらせた。ちょっと訊きたいことがあったのだが、下手にやって空間に逃げ込まれでもしたらたまらない。なので、単純に轢き殺した。

 谷が歩いているところに向かって、車で突っ込んだ。いくら魔法使いといっても、元は人間。魔法で強化でもされない限り、強度は人間のままだ。谷の能力もわかっていたので、安心して車でぶつかった。背後からだったので、おそらく谷はぼくの顔さえみてないに違いない。


「谷のときは無理だったけど。今回は話が聞けるといいな」

「その前に、シギが殺されんようにな」

「一応そのつもりだけど、ちゃんと守ってよ」

「おれがか? 無茶言うなよ、子どもに向かってなに言ってんだ」

「子ども? なに馬鹿なこと――」

「あの、あのあの」と運転手が会話に入ってきた。

「あの、いまさらこんなこと聞くのもあれなんですが、お二人は、魔法使い……ですか?」

 ミラー越しに見える目は、なんとなく恐怖が宿りはじめている。本当に、なにをいまさら、と思ったが、ぼくたち二人は口を揃えて言った。


「いいえ、違います」

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