第5話 中途半端なのは、人間のほうだよ

「今、この辺りにはどのくらいの人がいるんだろうね」

「さてな」

 苦しそうに、割葉は言った。

「でも、ほとんどいないだろうな。この辺りなんだろ? 魔法使いがいるの」

「ああ」ぼくは携帯を開く。「そういう情報があった」


 ネット環境の復旧に伴って、全国各地の魔法使いの情報が至るところから集まってきた。何県に、何人、どんな魔法使いがいるか。

 最初は混乱していたが、時が経つにつれ、それなりに情報も精査されてくる。この情報も、おそらく正しいだろう。


「好戦的、らしいね」

「魔法使いの大半はそうだ。変に中途半端な力を貰ったせいで、試したくてたまらないんだ。だから、積極的になる。無力を殺す」

「中途半端か」

「完全な力、なんてもんがどんなものかわからんが、『完全』ってのはそれだけで完結して終結してるもんだろ? 底が見えて、上限を知ってる。だから、試す必要がない。出来ることがわかっているのに、わざわざ試す必要がない」

「試し打ちとか、試し切りって言葉があるじゃんか」と反論して見る。


「だから、あれだって中途半端なんだ。試し打ちするのは、例えば拳銃か? その弾丸がどのくらいの速さで飛んで、対象にどういう結果をもたらして、反動はどうで、目測とどれくらいずれるかを見てるんだ。試し切りだって、おんなじだ。頭と現実を見比べて、比較して、検証する。それが中途半端じゃなくて、なんだっていうんだ」

「じゃあ、完全っていうのは」

「思い通り。間違いなしって意味だろうな」

「じゃあ、やっぱり、中途半端っていう表現は間違ってるな。いや、ある意味あってるか」

 割葉が首を傾げる。


「結局、それって人間の、その道具を使う人間のさじ加減ってことだろ?」

「…………」

「刀にしても拳銃にしても、使う人間がわかってれば、ズレすらも予測できていれば、なんも問題ないんだ。道具は中途半端なんかじゃない。割葉の言葉を借りれば、それだけでもう完全に完成して、完結してるんだ。中途半端なのは、人間のほうだよ」


 割葉は少し、間を置いた。

「人間か」

「人間だ」

「でも、だからこそ、人間は、いいもんだ」割葉は微笑む。「だから、綺麗なんだ」


 綺麗。その意味を、イマイチぼくは理解できないでいる。割葉から、どれだけ人間が美しく、醜く、清く、汚れていることを聞いても、ぼくはまだ割葉の域まで達していない。


「んで、その綺麗で尊い人間を殺してる、模倣使いという名の魔法使いの名前は?」

八谷ハチヤ 引鉄ヒキガネ。歳はぼくと同じくらい。顔、見る? 誰がどこから手に入れたのか知らないけど、顔写真がある。最近のものみたいだから、隠し撮りかな。これを撮った人間は、八谷に殺されたみたいだけど、まだ写真は消えてないみたいだ」


 携帯を割葉に向けると、そんな汚いもの、見せるなといわんばかりに拒否される。顔を向けようともしない。

「名前さえわかれば、十分だ。そいつは間違いなく、魔法使いだ」

「そうなの?」

「ああ。断言してやる」

「ふーん」携帯を閉じる。「それ、割葉の能力?」

「そんな大袈裟なもんじゃないよ。魔法使いかどうかわかるだけだ」

「ふーん」携帯をポケットに落とす。


「この辺りでも、魔法使いを崇め奉られてたりするのかな」

「……なんだ、その神みたいな扱いは」

「今、世間では魔法使いは一種の神様だよ。悪神。変に気を損ねられて、また暴れられたらたまんないのさ」

「だから、大切に扱うってか? 馬鹿馬鹿しい。第一、魔法使いが好きなことは、破壊に決まってるじゃんか。大切に扱うってことは、なにか、生贄を捧げることと同義ってか?」

「そうだね」


 ぼくは言った。まさに、その通りだった。

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