第40話 矜持に風呂と酒を

 エリシュはタクからの連絡を受けてガンヒル達を次の場所へと誘導した。

 

「皆さん、酒を飲んだにしては今ひとつ酔いが深くない気がしませんか?」


「……そういえばそうだな。まだまだ飲めるぞ!」


「実は先程の酒は料理と合わせて弱くてもうまさをしっかりと感じられるようにいたしております。栄養と水分が皆様の身体にしっかりと染み渡った状態で、こちらをどうぞ」


 エリシュが砦の一角の扉を開くと眼の前には大浴場が広がっていた。


「こ、ここは物置だったはずだが!?」


「整理して水を引いてボイラーを設置して風呂にしました。

 これで皆さんの身体もじっくりと癒してもらい、そして風呂から上がったらガツンと効く酒精の宴会とさせていただきます!!」


「いや、でも、風呂はなぁ……」


「まぁまぁ、こちらで少しからだを洗って頂き、服はそちらに全て突っ込んでおいてください。代わりの服もご用意しますので」


「……まぁ、久方ぶりだしな。しかも湯をこんなにもたっぷりと使えるとか、無いからな!」


 ふぅ、エリシュはこっそりと安堵のため息をつく。

 長が入れば下も続く。

 エリシュは汚れ匂いの放つ衣類を嫌な顔一つせず素早く集め、そしてそれぞれの棚にふわふわのタオルと変えの衣類を揃えていく。

 全ては主のため、そして砦の戦士たちの意識改革のためだ。


「くはああああああああ……」


「凄いなこれ、汚れが笑っちまうくらいに落ちていく!!」


「おい、背中をもっとしっかりと洗え、湯が汚くなる!!」


「もっと頭もしっかり泡立てろ! 泡が立たないってことは汚いってことだぞ!!」


 イラスト入りの説明文のお陰で戦士たちはお互いに指摘しあい正しい風呂の浸かり方を実践していく。

 そして一度湯船に入ればそこは極楽だ。

 文字通りとろけるようにその風呂を堪能していく。


「……たまらないな……」


「ああ、これは、もう、天国だな」


「死地に立ち世界を守ってるんだ、これくらいのご褒美、あってもいいよな……」


「だが、いついかなる時も、魔物が現れればたとえ裸であろうとも我らは世界を守る剣となる!!」


「よっ!! ガンヒル隊長!!」


「……なんか隊長さらにでっかくなってませんか?」


「ん? ……確かに、うちから力が溢れてくる感じだな……」


 この風呂の入浴剤は香草などと一緒に薬草なども使われている。疲労回復や怪我の回復にも効果がある浸かるポーションなのだった。


「うおっ、このタオル柔けぇ……」


「しかも一瞬で水を吸い込むぞ!」


「それにいい香りだぁ」


「この肌着も真っ白でそれに肌触りがすべすべだ」


「通気性もいいぞ、ホッカホカの身体を程よく包み込みながらもベタつきも蒸れもしない……」


「それでは皆様、酒宴会場をご案内します」


 戦士たちはもうエリシュの言葉に従うしかなかった……


「こ、これは……」

 

 食堂がさらに改造されていた。

 風呂上がりの身体が冷えない整えられた空調、ほのかに香る集中力を高めリラックス効果もあるハーブの香り、重厚感があり渋いテーブルの上に並ぶ酒を飲むときはこういう感じのツマミがちょうどいいんだよといった感じの食事。それに美しいガラスの瓶に入れられた酒の数々と気持ちが上がるグラス、それに自由に使える氷……

 腰掛ければいつまでもこのままリラックスしていたくなる座り心地の良い椅子。

 超高級の酒店にいるのかと錯覚してしまう。

 そして、それらの酒を注いでくれるのは見目麗しいホムンクルス達であった。


「もう、だめだ、俺はもう……」


「夢のようだ……」


「お、おいお前ら戦士としての魂をだな」


「うわーすごいですねガンヒルさんの筋肉ぅ! この太い腕でこの国を守ってくれていたんですねー!」


「お、おうっ! 俺達が魔物どもをちぎっては投げちぎっては投げ!」


「よっ!! ガンヒル屋!!」


「穴から湧き出す魔物の群れを!」「よっ!」「叩き落とすは我が大剣!」「あ、よいしょ!」「この一太刀は民のため!」「ガンヒル!」「この一太刀は国のため!!」「きゃーーー素敵!!」


 ホムンクルスたちの見事な合いの手、皆の酒を気分よく口へと運ぶ見事な音楽に踊り、夢のような空間は戦士たちの理性を見事に破壊していくのだった……


「えー、それでは、本日のメインイベント、タク殿に依る人類の最前線、砦改築の最終報告を初めたいと思います!!」


 宴会場の正面に巨大なモニターが降りてくる。

 なんだなんだと注目する戦士たちの前にまるで目の前にいるかのようにタクが手を振って現れる。


「皆さん楽しんでくれていますかー?」


「うおおおおおおおっ!!」


「いいですねー、それではこれから皆様の暮らす砦の改修報告をしたいと思います!」


「うおおおおっ!!」


 もうすでになんでも盛り上がる。


「まずは以前の砦の外見、全体像を空からどうぞ!」


 モニターに映される偵察機による過去の砦の姿、ぼろぼろの外観に崩れ落ちそうな外壁、戦いの歴史が刻まれた誇り高き砦の姿だ。


「あそこが崩れた戦いは激しいものだった……」


「何人も犠牲になった……」


 戦士たちはその姿に昔の情景を重ねて頷いている。


「改修後は、こうなりました!!」


 次にモニターに写った砦の姿に戦士たちは息を呑むのであった……

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