第35話 人

 ドラフは実は名の知れた魔道具制作者であった。

 タクと共に次から次へと新商品を開発するために、他の魔道具制作者や街のクラフター達が代わる代わるドラフの工房に訪れるようになった。

 タクは自らの持つ知識を隠すこと無く提供し、その気持に応えた他のクラフターたちの知見に奇譚のない意見交換の日々、タクにとっては喜びと幸せに満ちた日々を過ごしていく。

 エリシュはそんな日々を守るために走り回っている。海上に停泊していた艦隊は一時最低限の運用できるホムたちを乗せて帰艦させた。

 情報収集とともにこの地の資材の調査や生態の調査、そして国の調査を続けていく。ウェスティング王国、この大陸に存在する7つの国の一つ。東を海、北、西、南を他国に接している。

 北の国家がこの大陸最大のシーラ帝国、西はリッス共和国、そして南のチーワ王国だ。西のリッス共和国は大陸の中央部に位置しており外交を駆使して存続しており、各国の物資が集まる商業国、こことは事実上の同盟関係にある。シーラ帝国とチーワ王国は共に絶賛戦争中、とくに北のシーラ帝国は南部の温暖な地帯を手に入れるために頻繁に攻めてきており、そのために国境沿いには5つの砦を築いて抵抗している状態。南部のチーワ王国は国境を接しているワタカ聖国と宗教的な対立を長年起こしており、ウェスティング王国に攻めている余裕はない、というのが現状であることがわかった。

 その報告を聞いてタクはため息をついた。


「酷いもんだね、どこもかしこ戦争をしてるじゃないか……」


「このワタカ聖国はのこゲナイ国、マイル国とも紛争を起こしております。

 マイル国は小さいながらも最も歴史が古い、ただ現状は非常に厳しい状態と……ついでにゲナイ国とシーラ帝国も激しくやり合っております」


「戦争狂しかいないのこの大陸は?」


「嘆かわしいですね」


「今はいい意味でも悪い意味でも小国を飲み込んだ国同士で戦力が均等になって、長いことこの状況が続いてるかんじじゃ……」


「パースベルさんはこの均衡に俺達が起爆剤になることを望んでいるって感じかぁ」


「領主は悪い人じゃないんですけどね、いや、良い領主と言っていいと思う」


「安全で豊かな街を治めているだけじゃなく武勲を上げて出世を考えているのではないかと思います」


「ただ俺達は戦争には手をかさないからね」


「もちろんです」


「師匠の力は皆の暮らしを良くするためにこそ生かされるべきじゃ」


「日用品でも軍事転用とかされる可能性のあるものは大っぴろげに広められないなぁ……」


「情けないことです」


「それと悪い知らせがもう一つ、ウェスティングの王家にマスターの存在が知らされてしまいました」


「まぁ、仕方がないよね」


「幸運なことにマイカレ殿はマスターのことを気に入っており、基本的には魔力も使えない未知の大陸から来たものづくりの好きな青年程度に報告を留めてくださったようです」


「そうか、オーパーツとかをいじれるとかそういうのは伏せてくれたんだ」


「私の方からもセブンスに関することは適度に伏せた報告書をだしたので、小さな島国程度に思ってくれれば良いのですが……」


 いろいろな人の目論見はあったが、結果としてセブンスはこの国から過小評価を受けることになった。審議を確かめようにも、この大陸に中央部の海域を突破できる技術は存在していない。


「では俺達は気楽な旅を続けていけるね」


「旅ですかい?」


「ああ、この大陸のいろいろなもの、特にオーパーツは興味あるね」


「ふむ、でしたら北のシーラ帝国が最もオーパーツを持っているらしいですが……ちょっと厳しいですなぁ」


「なんで?」


「シーラ帝国は人間至上主義国、エリシュ殿のようなホムンクルスや儂のようなドワーフは奴隷扱いになります」


「……はぁ、またこの大陸が嫌いになりそうだ」


「馬鹿馬鹿しいですね」


「師匠には悪いが、まだあるぜ、ワタカ聖国は国境であるワタカ教を信じないものは異教徒、どんな扱いをしようがワタカ様の名の下に善行扱い。西のゲナイ国は上級国民と下級国民に分かれていて、まぁ、あとはわかるじゃろ?」


「……帰ろっかな……」


「人間というものは、いっそ魔王軍を土地ごとこの大陸に解き放ちますか?」


「それは……できるか……」


「し、師匠、なにやら恐ろしいことを言いませんでしたか?」


「はは、冗談だよ冗談。しかし、魔物とかもいるような場所でなんでそんな人間同士やり合ってるんだ?」


「国の中央にあるリッス共和国が魔物の穴を大壁によって守っているからでしょうな。あの国の兵たちは気持ちの良い輩が多いですぞ、武器や防具を提供しますが国を支えているという誇りを持ってますから」


「よし、もう、そこに行こう。そういう人たちを支えたい」


「そうですね」


「よし、師匠がそう決めたなら店じまいの準備をします」


「いいの?」


「いいんですいいんです。ここで店やってるより師匠のそばにいるほうが学ぶことが山程あります!!」


「そうかぁ、ドラフのためにも頑張らないとな」


 こうして、タク達の大陸に対する評価は地に落ちかけたが、誇り高き戦士たちのいるリッス共和国が次の目的地となった。

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