第24話 魂
魔物に追いやられた生活の中でもドワーフ達の魂は少しも揺らぐことはなかった。魔物も近づけないほどの急斜面に街を作り、道具を持ってその生活を成立させている。
もちろん厳しい生活ではあっても、それさえも楽しもうという気概があった。
有る一点を除いて……
「酒、酒を諦めたんじゃ、生きるために!!」
「食う量を確保するので精一杯、流石に酒造りのために大量の穀物や燃料は……」
「今ある都市も素晴らしいので、基本的にはそのまま活かしつつ、いっそ谷底と山頂までを利用した都市、それと移動手段を組み合わせて見ましょう」
こうしてタクの都市開発が開始されるが、今までの場所と異なるのは常にドワーフの団体がタクをついて回るということだった。
「なんじゃそれは、過程をすっとばしとる! 錬金術か!?」
「なんという精度……僅かな狂いもない」
「我々以外にも石の声が聞こえる者がおるとは」
「その道具は!? なんと、そんなふうに使うのか!」
皆、タクから技術を得ようと必死に食らいついてくる。タクは嬉しくて仕方なかった。こうしてタクの技術を学んだドワーフ達の技術もまた向上していく。
谷底を流れる激流、ほぼ垂直に切り立った崖の最下層部、魔物も落ちれば命がない危険地帯だが、そこにタクは大型の水車を構築する。これがドワーフの街の動力の要になる。
その動力を利用して街の上下をまっすぐにつなぐ動脈と静脈、人や物資が行き来する道を作る。巨大なエレベーターを作成した。
さらには川からの揚水、下水処理と土壌作成からの段々畑、水はけの良い高地を利用した果樹園構想などを形にしていく。
ドワーフたちを襲った虫のように壁面も苦としない魔物に対する施設もしっかりと構築していく。
多くの鉱物を有する山岳部に広がる鉱山も整備する。
ドワーフの街に再び過去の活気が取り戻されていくのであった……
タクは自身が持つゴーレムに関する知識、ものづくりの知識を惜しみなくドワーフに提供する。自らの持つチートな能力ではなく技術者が自らの手腕でものづくりをしている姿に感動と尊敬を覚えた。有事ではタクは自らの能力を使うことを必要だと感じているが、もし、このまま世界を魔物から守ることが出来たあとは、同じように自らの手で物を作ることを一生の仕事にしていきたいと強く思うようになるのであった。彼の中に、生きる目的が生まれた。
こうしてタクはドワーフの街の復興と改造を経て人間としてまた一つ成長していくのだった……
「マスター、獣人の街までの街道整備が終わりました。
北の人間の都市までの街道はマスターがやられるということで調査だけ終えております」
「ありがとう、そこは西側を守る壁の役目も持たせたいから、結構大掛かりなものになるよ」
「楽しそうですね」
「うん。なんとなくやってたけど、今は早く平穏な日々を取り戻したいって心から思ってるよ。エリシュも協力頼むね」
「はい、お任せください!」
エリシュも主が目を輝かせる目的を持ったことを非常に嬉しく思った。
こうしてドワーフの街を復興し4種族の生存権をつなげることが出来た。
そして、ここで一度大陸を上下に繋げる道、そして、人々を守る壁の作成に入るのであった。
「グラニどうですか最近は?」
エリシュは定期的に王都にいる精霊娘達と情報交換をしている。今日はグラニがその役目をこなしている。
「エリーザ姫は非常に精力的に働いておられています。少し疲れも見えておるので心配ではあります」
「あんまり精霊頼みはよくないけど、人員を増やしたほうが良いかな?」
「人間は増えるのに時間がかかります。さらに教育が行き届いて優秀な人間が出るころにはエリーザ姫が倒れているかも知れませんね」
「だよね、よし、こっちにも人手がほしいし、エリシュ、ホムンクルスを増やそう。
エルフのとこも獣人のとこもドワーフのとこにも人では必要だろうから、少しまとまった数の精霊に協力を要請したいけど、大丈夫?」
「全く問題ないかと、皆、選ばれることを祈ってるくらいですよ。
なんといってもマスターのゴーレム機体は素晴らしいし、この世界が変わっていくさまを見るのは、変化を見ることは楽しいですからね」
「その通りです。私も毎日充実しております」
「色々と試したい新技術も有るし、まずは素体作りからだね」
タクはエリシュと協力し新たなホムンクルスの素体を用意する。
新しい素材に新たな構想を組み入れている。
なお、エリシュ達の身体は最新最高の素材で定期的に組み直している。エリシュ達6人は特別扱いと言ってもいい。
それでもかなりの性能の素体が出来上がっていく。
エリシュは精霊界に問いかけて協力してくれる精霊を募っていく、エリシュの言う通り希望者はとても多くその中で優秀なものをエリシュが選んでいる状態だ。
「な、いやいや、駄目でしょう……そ、そんな無茶な……マスターが良いと言ったらですからね……あの、マスターご相談が」
「どうしたの?」
「その……先代の……王が暇だから俺も噛ませろと……」
「先代の王? 精霊王ってこと?」
「はい、私の祖父的な感じになるのですが、無属性のオルディアス」
「先代とはいえ凄まじい人だよね?」
「……一応……」
「だったらエリシュ達と同じレベルの素体じゃないと失礼だね!」
それからタクは本気の素体づくりに没頭し、最高の一体を作り出した。
そこにオルディアスを降霊させた。
「おおおお、力がみなぎる!
風を感じる!
熱を感じる!
これが肉体か!!
感謝するぞ主殿!!」
「よろしくね、オルディアス様でいいのかな?」
「いやいや主殿、オルディーと気安くお呼びください。
ふむふむ、これがクラフトなるものか、いやいや、なんと面白い!
ずるいぞエリシュ、だったな、こんな面白いことを!」
「オルディー殿、遊びではございませんよ?」
「わかっておる、わかっておる!」
「ではオルディーは今回作った子達のまとめ役ってことで、エリシュとも仲良くやってくださいね」
「おまかせくださいませ!」
こうして、タク達の下に新たなホムンクルスが数多く働くことになる。
オルディー達はまず今回計画される壁の西側に点在するダンジョンの壊滅、そして各地に分かれての公務の手伝いという流れで仕事にかかることになる。
「オルディーには装着型ゴーレムも渡しとくね。力の制御の補助がメインだけど」
「確かりますのじゃ、力が溢れすぎてちと危うかったのでな」
「それじゃあ、頼んだ!」
「行ってまいります!」
こうしてタクは人類の壁作り着手した。
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