第22話 砂漠の街作り

 タクの話は全く理解できなかったが、獣人達の王ライオの眼の前で繰り広げられる光景は尋常ではないことはすぐに理解できた。

 巨大な石を支える大量の砂は少しづつ崩れ、時に石が揺れ動くような仕草が最近増えていることに獣人達は皆不安に思っていた。

 しかし、不安に思ってはいても、それに対してなにか出来るわけではない、そもそも獣人達は建材などを確保する手段が非常に限られている。

 奇跡のようなこの場所に与えられた食べられる植物、それに夜間に隊をなして周囲から必死に物を集めながら生きてきた者たちに、この超巨大な自然からの贈り物や地形を同行できる力はないのだ。


「ば、ばかな……」


 巨大な石を囲う大量のゴーレム、石の接点の外と内に地下深く、強固な地盤の在る場所まで杭を打ち、そしてその間を砂ではなく乾燥すると強固な石となる素材で埋める。そして何よりもライオを驚かせたのがその中間層を作るためにゴーレムによって巨大な石の蓋がほんの僅かだが持ち上げられたことだった……

 ライオの頬を外の熱気が触れる。ほんの僅かだが、確かにこの巨石が浮いている……ライオはタクに畏れに近い敬意を抱いた。


 こうして、天蓋、天より与えられ、この時まで獣人たちを守ってきた奇跡の石は完璧な足場を得ることができ、獣人達は石の落下、砂の崩落に悩む必要は無くなった。


 今回は建築だけでなく、獣人たちの間に広がる深刻な健康問題にも対応しなければいけない。

 本来地の滴る肉類を大量に食らう獣人が、ほそぼそと植物しかも藻類や苔などの栄養価の高くないもので生きながらえてきている。獣人達の肉体はやせ細り、日光不足などで骨などに異常を持つ者も多い。

 食の充実は急務だ。

 一時的には持ち込んだ食材を提供するばいいが、この地で今後も長く続く供給を満たさなければいけない。 


「昼間の太陽で暑い熱の力を、夜の極寒で冷える熱を利用できる。この力は使わない手はないだろう」


 岩盤まで到達できる技術があれば、砂漠であっても水を安定して得られる層を見つけることは出来る。オアシスはそういった場所から湧き出る砂漠の奇跡だ。

 この住人の街でも同様に安定した水を得ることが出来たことが何よりも大事だった。

 そして今まであまり考えられずに外に捨てられていた下水関係、それにゴミの問題。それを解決しながら農業に生かす施設を考えていく。

 各家庭に上下水道を完備し、さらに人が暮らすことで発生するゴミを利用して自分たちの食事を産み出す。究極の自給自足。

 町の入口前に巨大な食料を産み出す設備を作る。

 多層式でありながら反射光によってすべての階層で農業が可能になる。

 用水システムによって放水などの水やりも少人数で管理が可能となる。

 土を作る巨大な下水・ゴミ処理施設と農業施設、砂中に立つピラミッドを模したデザインによって巨大建築も浮くこと無くその地に馴染んでいる。


 大岩を大きく囲うように地盤から伸びる強固な壁。獣人達がこの灼熱の地でありながら魔物に怯えずに生きられる場所が遂に日の下に生まれたのだ。

 タクの計画ではこの外側にはいずれ緑あふれる土地へと変えて畜産にも手を出すつもりだ。それらの肝となるのが温度管理、日中の熱、夜間の寒、これらを利用して1日中過ごしやすい温度にする。

 また寒暖差があれば風が生まれる、風があれば風車で動力エネルギーも得られる。

 獣人を守る外壁の上に立つ風車が獣人達に動力エネルギーを提供してくれる。


「さて、大まかなところは出来たから、細かなところを手を入れていこう」


 そしてタクは目を輝かせながらこの洞窟都市の本丸に着手する。

 薄暗かったこの地を、淡い光が美しく装飾するミステリアスな場所へ、そして、砂漠地帯でありながら水を利用した都市計画を立てていく。

 地盤改良は地下に杭をうちその杭同士をつなぐことで脆弱な砂地は頑強な土地へと変わる。もちろん砂はアクセントとして利用するが、固く歩きやすい道を通して、立派な建物を統一したコンセプトで並べていけば、ミステリアスで上品な町並みが広がっていく。

 この街の一番奥にはライオが住む宮殿を作る。

 町並みの象徴となる大きな建造物があることで全体の調和が取られ、この都市は完成する。


「おお……おおおお……」


 眼の前の光景をライオは信じられなかった。

 美しい間接照明で彩られた町並み、頬に当たる流れる風は心地よい、そして街の中を水が流れてそこに当てられた光が天蓋、石の天井に美しい光の文様を編み出している。星空をも超える空、後の世にそう謳われる獣人の都市が今目の前に広がっているのだ。獣人達が嬉しそうに踊っている光景をみるライオ、頬に温かいものが流れだした。

 そんな皆の様子とライオを見てタクは町並みを作り出した以上の充実感を感じていた。

 

「タク様にはどれほど感謝してもしきれません獣人を代表して御礼申し上げます」


「もう少し調整も必要だと思うから、しばらくはこれで連絡を取り合いましょう」


 こうして、砂上の街道づくりも開始され、人間エルフ獣人、3種族の生存権が繋がることになる。

 そして、タクは出会ってしまう。

 同じくものづくりというものを神聖視する、ドワーフという種族に……

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