第14話 一転攻勢

 その日からアナスタシアはタクトのつながりを隠すこと無く話すようになる。

 各町の代表者、商業のまとめ役、様々な人々と交流し、そしてタクのもたらす物を分け隔てなく共有した。


「エリシュさ……殿は凄いですね。タク様と同じように物を作れるのですね」


「私はマスターのように0から1を産み出すことは出来ませんが、マスターが作られたものなら同じように作れるに過ぎないですがね」


「タク様は凄いです。寝る間も惜しんで新しいものを産み出し続けていますよね」


「マスターには少し自分の身体を大事にしてほしいのですが……精霊の加護を得て余計に寝ることや食事をサボり始めて、困ったものです」


「苦労されますねエリシュ殿も」


「それでも、今のように驚きに満ちた時間を体験させてもらえるので、何物にも変えられませんよ」


「確かに、あの方は……規格外過ぎますね」


 現在二人は壁の上にいた。

 正確には、魔物たちの領域へと進んでいるのうえにいる。


「地平線まで伸びる壁を動かそうなんて普通は考えません」


「いやはや、マスターの発想は、実に面白い」


 壁による自動迎撃で魔物を倒しているが、精霊5人娘は壁の前を進んで自らの戦いの勘を研ぎ澄ませていた。


「エリシュ殿はよろしいのですか?」


「わたくしはタク様直々に贅の限りを尽くした身体をいただいておりまして、あまり本気で動くと地形が変わってしまうことがわかったので、よほどのことがなければ控えます」


「そう、ですか。皆様も本当に凄いです」


「さて、アナスタシア姫。そろそろ相手も動き出す頃でしょう」


「そうですね。皆様にはつまらない……戦い、にもならないでしょうね」


「いままでの貴方がたの活動の結果ですよ。我々は少しだけお手伝いをするだけです」


「ありがとうございます。では、行きましょうか」


 アナスタシアのもとには王からの再三の召還命令が来ていた。

 始めは非常に高圧的に、無視していると少し懐柔するような内容になり、ついにはしびれを切らし罵詈雑言が並べられる命令が届くようになった。

 そして、全てを終わらせるためにアナスタシアは父の命令に従うことにした。


「……すっかり寂しくなりましたね」


 王都の雰囲気は暗い。

 王たちの施策によって王都は貧民が多く住むスラムの体をなしていた。

 アナスタシアの支援によって外の街で重税に苦しむことはなくとも全てを救えるわけではなく、本当に貧しい人間は王都に集まることになった。

 残念ながら生産的な活動ができない人々が多い。

 よって、王都は荒れていく。

 最低限の食事の炊き出しなどで維持している、それさえも姫殿下の手によるものだが……

 そう、国民はアナスタシア姫のことを姫殿下と呼んでいた。

 すでに王は国を治める器にあらず、アナスタシア姫こそがこの国の真の王に相応しいという世論は完成している。

 すでにこの国はアナスタシアとタクの力によってなっており、その庇護から好き好んで独立しようとする者も不在。

 すでに彼女の変国は終えているのだ。

 それを知らない、認められない者は、今アナスタシアの眼の前にそびえる王城の中にしか存在していない。


「アナスタシア姫! わ、われわれは、さ、逆らうことが出来ずに……」


 城内に入るとすぐに不愉快な人々が媚びた声で話しかけてくる。

 

「それ以上近づかないでもらおうか」


「っ! ミレーナ、それにノエリア無礼だぞ!」


 姫にすがろうとする男たちの前に二人の騎士が立ちふさがる。

 大臣たちは非難の声をあげる。


「衛兵! 何をしている!?」


「し、しかし」


「やめておけ、お前たちも武人であれば、これがどういうものかわかるだろう?」


「な、ま、まさか……」


 もちろんミレーナもノエリアも姫につくほどの騎士だから弱いはずもないが、王城に仕える騎士たちをしても、その見に包む武具の格の違いをはっきりと感じ取れてしまう。圧倒的な。


 パチン。


 指を鳴らす音ともに廊下を薄氷の壁が包む。

 姫と大臣たちを区切る壁が。


「さ、もう行きましょう」


「ありがとうエリシュ殿。皆様、それでは失礼いたします」


「お、お待ち下さい姫、姫殿下!!」


「冷たい……氷!?」


「魔道具か!? 王都内で魔道具の使用は禁じられておりますぞ!!」


「止めろ! アナスタシア姫を止めるのだ!」


 透き通る美しい壁を叩く大臣達、しかし、その壁が破れることはない、それが魔法という圧倒的力であることに気がつける識者はすでにこの城の中には残されていなかった……


「失礼いたします」


 謁見の間に入るアナスタシア姫、エリシュと5人娘、それにレシスとミレーナ、ノエリアが続く。

 謁見の間には兵たちがアナスタシアたちを待ち構えていた。


「なんのつもりだアナスタシア、なぜすぐに出頭しなかった!」


「無礼だぞアナスタシア、平伏しないか!」


「女王陛下はいらっしゃらないのですか?」


「貴様から質問を許した覚えはないぞ!」


「ファルヌ?」


「はい、女王陛下はあちらの裏手で多くの兵と一緒にいらっしゃいます」


「なっ!?」


「お父様、それほど多くの兵で何をなさるおつもりなのですか?」


「貴様らがなにかしておるのだろう? 貴様のせいで王都は荒れ放題だ」


「安定した食料と税金は集まっているのですからそれで満足なさればよろしいではありませんか? 今までだって民の生活なんて興味を持たれたこともなかったのですから」


「き、貴様……なんだその口の聞き方は!?」


「民なくして国はありません。国王たるものは民のために尽くす。

 残念ですがお父様は王足り得ません。そして、もちろん王子もしかり、すでに国にとって王族が邪魔になっております。お父様、民のためにその力を尽くさないのであればお辞めくださ、王を。そして民と同じ目線で今の世界をもう一度人々のために取り戻しましょう」


「な、な、な、き、貴様、なにを、言うに事欠いて!!

 衛兵!! 国家反逆罪だ!! アナスタシアらを捕らえよ!!」





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