第8話 人造人間

「甘かったです、タク様の力、我々の想像より遥かに上」


「国王陛下や王子殿下らがどう反応なさるでしょうか……」


「……姫様」


「なんとかするしかありません。タク様にせっかくここまでしていただいて、我々がそれを止めるわけには行きません!」


 アナスタシアはどうにかして国王たちを説得しなければいけなかった。

 辺境を走り回る変人である自分の言をいかにして父親や兄弟に納得してもらい、強力、いや、せめて邪魔をして欲しくない。彼女の最低限の交渉ラインはそこであった。


「……あの方々が聞く耳を持ってくださると良いのですが……」


「珍しいですねレシスがそういう事を言うのは」


「タク様の力、万が一王国、アナスタシア様に牙を向いたとき、我々では何も出来ません……今までの姫様の努力を間近に見ていた私達にとって、それは耐えられません! 最後の希望なんですタク様は、姫様にとって、王国の民にとって!」


「そうだな、レシスの言う通りだ」


「全くだ」


「私も、今回は覚悟を決めます」


 アナスタシアの瞳には決意の炎が燃え上がっていた。


 一方その頃、タクは交通網の整備と農地整備を並行して行っていた。

 実際には凄まじい工数が並行して走っており、段々とその管理の負担が大きくなってきた。


「ああ、まずいな西の発掘がもうすぐ止まっちゃうな……回収にいかないと行けないのにもうすぐこっちも区切りがつくんだが……素材的にアレ作れるかな……」


 自分の仕事を補助させる存在、精霊核を利用した人造人間ホムンクルスの制作に必要な素材を考えていく。

 魔石に大量のマナを集める事で精霊の媒体とする。その精霊と契約をすることで擬似人格を形成してあとはがわを準備する。精霊によるホムンクルスの制御には高いマナ伝達性のある素材を中心にしていくのだが、ゴーレムよりも遥かに繊細で複雑な構造を必要とする。ただ、ここで緻密な工夫をすればするほどホムンクルスの能力に直結するので、当然タクは現状で作り得る最高の素材と徹底的に細部にまでこだわり抜いた設計でホムンクルス作成を開始する。

 各地の監視や術式調整、素材の回収などをルーティーンでこなしながら、移動中のゴーレムの上で膨大な工程のホムンクルス形成ラインを構築していく。

 タクにとってその忙しい時間は、最高に楽しい時間だった。


「よし、ざっとみミスは無いな。とりあえず実行ラン!」


 平原に大量の生産ラインが構築されそれが一気に動き出す。組み上げる最終ラインでは大量の魔法陣が多層立体構造で複雑に折り重なっており、各地で集めた魔石から視認できるほどのマナが魔法陣に取り込まれていく。異常を感知すればタクは亜瞬く間に修正してもう一度始めから、実行と修正を繰り返してついには最終工程が回り始める。

 人一人が入るほどの大きなガラスの容器の中に凄まじいマナが集積された魔石を中心に様々な色に光る糸が縫い上げるようにホムンクルスの身体を作り出していく。


「さて、どんな精霊が答えてくれるかな……」


 ある程度外殻が完成したら精霊を召喚する。最終的な外面は精霊の特性に合わせて調整するためにここで召喚される精霊が大事になる。こればっかりは、ガチャだ。

 この器を気に入った精霊、どんな精霊が降ろせるかは完全な運と言える。


「実行」


 精霊界との扉を開く魔法陣が展開起動する。

 バリバリと魔法陣に亀裂が入り始める。


「でかい! これは当たりだろ! 修正、規模拡大!」


 すぐに巨大魔法陣を補助にして扉を大きくする。

 ズルリ、開いた扉から、何かがホムンクルスの身体に吸い込まれいてく。

 その一瞬でも、凄まじい存在感をタクはビリビリと感じていた。

 そして、ホムンクルスに定着した精霊名を見て、タクはにやりと笑う。


「最高だ、無属性系の一柱、エイリシュオン……無属性というか、根源の一人だぞ……え、良いの逆に?」


【構わぬ、遊びだ】


「遊び、では、退屈されぬよう励みます」


【ああ、頼むぞ、我が主】


 ホムンクルスを収めている容器が光に満たされる。格の高い精霊にはふさわしい力が必要になる。


「まじか、まだ足りないのか、ええい! この運命は掴まないと、出し惜しみはなしだ! 全部行くぞ!!」


 ストックが無くなるが、そんなことよりも今はホムンクルスを完成させることが最優先される。タクは手元にある全ての魔石から魔素を取り出しマナに変換する。


「最終工程、実行!!」


 その瞬間、周囲が光に飲まれ、そしてその光は全て装置の中の存在に吸い込まれていく。

 タクはその場にガクッと膝をついた。身体の中から何かが吸い取られたような気がした。


「う、上手く行った?」


 自分の体より、自分が作ったものの成否のほうが気になってしまう。それがクラフターという生き物だ。


「マスター、名を」


 エリシュが言葉を紡ぐと、まるでその声は唄のように響く。

 その唄を聞けば人々の心は囚われてしまうのではないかとさえ思ってしまう。


「……エリシュ、君の名はエリシュだ」


「エリシュ……良い名ですね気に入りました。今後とも宜しく、タク」


 培養装置からふわりと抜け出したその姿にタクは息を呑んだ。

 エリシュは美しかった。

 男性的、女性的、どちらとも取れない、ただ美しかった。

 白銀の髪は光が当たると虹のように煌き、金と銀のオッドアイ、整いすぎて怖さを感じてしまう容姿。身を包むローブは純白の布にしか見えないが、魔力がふんだんに織り込まれた繊維でミスリルを超える強靭さと魔力を通すことで様々な耐性を産み出す。


「……悠久の刻を超えて、再び地を踏む感覚に心躍る。

 感謝するよマスター、私は久方ぶりの感動を覚えている」


「良かった。想像を超える方を読んでしまってこちらはびびってるよ」


「何を恐れることがある。これほどの器を作るマスターは間違いなく私を御する存在に相違ない。さて、それではマスターの望みを叶えて少しは有能さをアピールしなくてはな」


 さっと腕を振るうと、そこにはタクが扱うコンソールが現れた。


「繋げさせてもらっている。これで、面倒な過去の管理は私が行います。

 マスターは未来を作ることに集中してください」


「……エリシュは最高の相棒だな」


「ふふふ、名誉なことです」


 こうして、タクは強力な味方を手に入れるのであった。

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