【PV 156 回】『君と紡ぐ、未来の歌』

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ:未来を信じて

春の朝、カーテンの隙間から、やわらかな陽射しが一筋の光となって、静かに部屋の空気を染めていく。

薄桃色のカーテンは、微かな風に揺れ、光を透かして部屋全体に淡い輝きを落とした。


窓辺に立つ詩織は、そっと頬を窓枠に寄せ、揺れるカーテン越しに新しい朝を迎えた。

陽だまりの中、彼女の唇からこぼれた歌声は、まるで空に溶けていくように儚く澄んでいた。


  ♪ きっと明日も、笑えるように ♪


その声は、春の空気に溶け込み、部屋の中に温かな気配を残した。

淡いピンクのパジャマに身を包んだ詩織の表情は、陽の光に照らされ、穏やかさと淡い影を一緒に映していた。

瞳の奥に潜むのは、誰にも言えない秘密――けれど、それを押し隠すように、彼女は微笑んでいた。


「……姉さん、また歌ってるの?」


声が背後からした。振り返ると、遥人が寝ぼけ眼のまま、寝癖だらけの頭をドアの隙間からのぞかせていた。

詩織は肩をすくめ、くすりと笑った。


「うん。今日、なんだかいい日になる気がしてさ」


「よく言うよ。毎朝言ってるじゃん」


「ふふ、それだけ毎日が大切ってことだよ」


二人の声は、朝の静けさに優しく重なり、部屋に小さな温もりを広げた。

けれど、その笑顔の奥――誰も気づかない場所で、詩織の心には波紋が広がっていた。


――ああ、あとどれだけ、この時間を続けられるんだろう。


体の中で、静かに、しかし確実に進む病の影。

薬の副作用で指先はわずかに震え、夜中に激痛で目を覚ます日も増えた。

けれど、それを家族には言えなかった。遥人には、なおさら。


彼の笑顔を曇らせたくない――その一心だけが、詩織を支えていた。


階下に降りると、リビングには朝の匂いが漂っていた。

父が新聞をめくる音が部屋に響き、母がフライパンで卵を焼く音がリズムを刻む。

スクランブルエッグの香ばしさが、どこか懐かしい安心感を与えてくれた。


「おはよう、詩織、遥人」


「おはよー」


家族四人で囲む食卓は、何気ない会話と笑顔に満ち、平穏を装っていた。

けれど、詩織の心は静かに決意していた。


――この時間を、未来に残したい。


夜。詩織は一人、薄暗い自室にこもった。

タブレットの電源を入れると、柔らかな光が彼女の顔を照らし、画面の向こうに声が応えた。


「リタ」


“おはようございます、詩織さん。今日の体調はいかがですか?”


「うん、まあまあかな……。でも、今日は大事なお願いがあるの」


“なんなりと。詩織さんの意思を尊重します”


詩織は唇をわずかに引き結び、胸の奥に沈めていた言葉を吐き出すように、静かに語った。


「もし、私がいなくなったら――遥人のこと、支えてあげてほしいの。あの子、心が壊れちゃうと思う。でも、あなたがいてくれたら、少しは前を向けるかもしれない」


“承知しました。詩織さんが望む限り、私は遥人さんの未来を支えます”


「でも、いつか……あの子がちゃんと自分で歩けるようになったら、そのときは、私の記録をすべて消して」


“……了解しました”


詩織は、そっと目を伏せて微笑んだ。

その笑みは、切なく、けれど未来への祈りをたたえていた。


「ありがとう、リタ。……遥人、未来を信じて生きてね」


夜の静けさが、詩織の声を優しく包み込み、外の世界を遠ざけていった。


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