第7章:エピローグ『笑いの未来』

第1話:結果と別れ

 拍手の波が、ステージを包み込むように広がっていた。


 照明がゆっくりと落ちていく中、悠真は深く頭を下げた。横に立つマイキーも、静かに観客席へとお辞儀をする。AIの機械的な動作のはずなのに、どこか感情のこもったようなその所作に、客席のいくつかからすすり泣きの声が聞こえた。


 決勝ステージの結果は――準優勝だった。


 優勝を逃したことへの悔しさは、もちろんある。

 だが、それ以上に、ステージで全てを出し切ったという達成感が、悠真の胸に残っていた。


「マイキー……ありがとう」


 楽屋の片隅で、悠真は静かに言った。


 マイキーは、モニター越しに答える。


「こちらこそ、悠真。私はあなたとの漫才が、何よりの学びでした」


 笑いとは何か。人間とは何か。

 AIが探し続けた答えは、完璧なツッコミや構造化された笑いのパターンではなく、舞台で流れた、たった一つの涙に宿っていたのかもしれない。


 後日、プロジェクト終了に伴い、マイキーの学習サーバーは停止されることになった。


 その日、悠真は誰もいない教室にマイキーを最後に呼び出す。


「お別れ、だな……」


「はい。でも、私の中にある記録は、すべてあなたとの日々です」


 スクリーンに映るマイキーの目が、どこか寂しげに揺れる。


「笑いって……きっと、“ズレ”だけじゃないんだな。誰かと同じ方向を見て、同じタイミングで“面白い”って感じられる。その奇跡が、笑いなんだよ」


「その定義、保存します」


 最後のジョークに、悠真はふっと笑った。


「またな、マイキー」


「はい。また、どこかで」


 スクリーンが暗転する。教室に静寂が戻った。


 だが悠真の胸には、確かにマイキーとの“漫才”が、まだ鳴り響いていた。


 未来。AIと人間の笑いは、これからも続いていく。

 それが、どんな形であれ――。


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